表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/236

155話 レンのいない一ヶ月 (エリュシオンにおいで!)

 



 ◇◇カレンside◇◇




「妖精族のみんな、心して聞くように。先日、私の娘のナールが誘拐されたことは皆、周知のことだと思う。しかし、安心して欲しい、ナールはこのとおり無事に帰ってくることができた」


 そこで、コヴィルさんがナールちゃんの背中を押して前に出す。ナールちゃんは、少し恥ずかしそうにしながら無事であることを示すように手を振る。


「おぉー! ナール様!」


「ナール様……よくぞご無事で……」


「おのれ人間め、目にものを見せてやる!」


 それに対し、集まった妖精族の人たちは三者三様の反応を示す。


「早とちりはやめなさい。ナールを攫った人間は勇者と名乗っていた。我々がいくら魔法に優れているとしても、相手はさらに上を行く、返り討ちになるのは目に見えている」


「しかし、このままでは蹂躙されるだけだ!」


「そうだそうだ!」


「この雪辱を果たすには今しかない!」


 血機盛んな妖精族は今にも飛び出してサンクランド帝国に行って暴れそうだ。


「待て、お前たち! 族長の話しを最後まで聴かんか!」


 そこに、大きな太い声が響く。コヴィルさんの夫で兵士長さんだ。兵士長さんが声を出すと、ざわついていた妖精族たちがしんっと静かになる。


「先程の者が言ったように、確かにこのままでは私たちは人間に負けてしまわ。だから、私は決めたわ。もしかしたら、反対するものもいるかもしれない。けれど、今一度ちゃんと考えて…………私たちは、ここを離れて………」


 妖精族の元へ帰ってきて、二時間くらいたった。その間にコヴィルさんと話して、エリュシオンに移住してもらうことになったんだけど、妖精族のみんなに説明と説得が必要。それで今、広場に妖精族のみんなを集めてコヴィルさんが演説をしている。


「うーーん、やっぱり上に立つ人は違うなぁ……大丈夫かな? この後の私……」


 ちなみに、コヴィルの話が終われば、私が演説することになってる。演説って言っても、エリュシオンについての詳しいことっていうか、私がエリュシオンの王様ですって言う紹介みたいなやつ。正直、コヴィルさんの後にそんな事やるとかすっごいプレッシャー……実に胃が痛い。


「大丈夫よ、あんなのやってれば慣れるわ。貴族なんか皆の前に立つことなんて日常茶飯事よ」


「クルアの言う通りだよ、まぁ誰しも最初は緊張するけど。私も慣れるまでは嫌だったな、人前に出るの」


 隣でコヴィルさんを一緒に見ながらそんなことを言うクルアとルカ。さすが、何百年も生きてる人達だけではあるね、吸血鬼の貴族と高位の天使だもんね。


 こういうのは本当、蓮くんの領分だと思うんだけどなぁ……いつもやってたし。盛大に滑ってたりしたけど。


 まぁ、仕方がない! ここにいるのは私で、蓮くんじゃないんだし、私だってエリュシオンの王様になるんだから頑張らなきゃ!


「ふぅ……あ、そうだ、ストラトスさん」


「ん? なんですかな?」


 ピィナ以外のエリュシオンから来た人も起きて、コヴィルさんの演説を見てる。


「たぶん、このまま演説が終わったら、すぐに準備して帰ることになると思うんで、先に戻って明日には帰ることを伝えてください」


「分かりましたぞ! では、お先に失礼しますな!」


 そう言って、ストラトスさんは鋼コンドルの姿になって高速で飛んでいった。


 本当はもうちょっとのんびりして一週間くらいは滞在するつもりだったんだけど、理由が理由だし仕方ないよね。


 サンクランド帝国が軍隊を引き連れてやってくるなら時間がかかると思うけど、あの勇者だけだったらもういつ来てもおかしくないし。


 というか、私、人間の国に行くの初めてだったんだけど……夜中なこともあったし、ほとんど小山の上とピィナの上から射撃しかしてないじゃん。


 なんか、ちょっとガッカリ……今度、人間の国に行くことがあればもっとゆっくり観光したいなぁ。


「……それじゃあ、紹介するわね。ナールを救ってくれて、エリュシオンの女王のカレン様よ」


 おっと、いつの間にか私の紹介になってたみたい、コヴィルさんにちょいちょいって手招きされてる。


 さっきから聞き耳を立ててたら「ナールを救ってくれた恩人」とか、「私たちに希望を与えてくれる方」とか、変に気恥しい紹介をされてたから結構恥ずかしい。


 私は緊張してドキドキしてる心臓を落ち着けるように深呼吸をしてからゆっくりと壇上に上がる。


 なるべく優雅に、気品よく見えるように意識して……まぁ、服装がドレスとかじゃなくてスウェットにジーパンっていうなんでもない服なんだけど。


 うぅ……緊張する……みんなの視線が集まってる……絶対あれだ、え? あんなオタクがしゃべるの?! っていう視線だ……。


「コホンっ……えぇ、ご紹介にあずかりました、エリュシオンの女王、塔野華憐です……」


 ひゃーー………自分で自分のこと女王とか言うとか恥ずかしい……絶対痛いやつとか思われてるよ……。


「………??」


 なんか、なーーんにも反応が無いなって思って、ちらって見たら、妖精族の人達は訳分からなそうな顔をして小首を傾げてる。


「カレン、カレン! 声が小さすぎて聞こえない、もっとおっきな声で! 頑張って!」


 っと、後ろの方からコショコショっと、アウラが囁いてくる。


 ええっ?! 今の結構頑張って声出したのに、聞こえなかったの……? うぅ……頑張るしかないか……。


「ご、ご紹介にあずかりました! エリュシオンの女王、塔野華憐でしゅっ……」


 か、噛んだ……最後噛んじゃったよ……うぅ、恥ずかしい……。ほら、みんなちょっと苦笑いしてるし、ごめんねぇ……頼りないよねぇ……ええい! こんなの、蓮くんが滑って失笑するのに比べたら全然マシだい!


「コホンっ! 皆さんには、今私たちが作っている国、エリュシオンに是非来て頂きたいと思ってます! そこで、家を建てるのに技術提供をして欲しいのです! もちろん、仕事として給料も出すし。衣食住もしっかりと整って………」


 それから、私はええい! ままよ! どうにでもなれ! って、気持ちになって、ちょっと声を裏返らせながら頑張ってエリュシオンをPRした。


 正直、緊張してて何言ったかは覚えてないけれど、話し終わった頃には、ほぼ全員がエリュシオンに来てくれることを表明してくれたから、来たいって思える様なことを話してたに違いない。


 私はちょっとフラフラ気味に壇上から降りると、苦笑い気味のクルアとルカにちょっと顔を青くしたネクさんが来た。


「あぁー、緊張した……もう、あんなことしたくない……」


「お疲れ様。まぁ、カレンがああいう事するのは初めてだもの、これから慣れていけばいいのよ」


「そうそう! どうせ、これからもこういうことが増えてくだろうからねー!」


「カレン様……心中お察しします」


 うわー、嫌だな……クルアとルカの言うようなことになるのは……。うん、これからこういうことをやる時は、全部蓮くんとアーゼさんに押し付けよう! それがいい!


 それから、妖精族達の動きはとても早かった。最初はやっぱり私が人間族であることをよく思わない人もいたりして動こうとしなかったけれど、そういう人達はアウラとナールちゃんが個別に説得すると、渋々ながらも指示に従ってくれた。


 ナールちゃんが誘拐されたとき、コヴィルさんとか兵士長さんだけでなく妖精族全体が怒ってたくらいだから、ナールちゃんはたぶん、ここの妖精族たちのアイドル的な存在なんだろうなぁ。


 ちなみに、エリュシオンに移住することをコヴィルさんが決めた時に一番喜んでたのもナールちゃんだったりする。


 顔を真っ赤にして「く、クルアさんと同じところに住める……」って言ってたから、あれは絶対恋する乙女だったよ、やっぱりクルアは百合ルート確定だね!


「っと、そろそろピィナのことも起こしてあげないと!」


 次第にエリュシオンに持ってくもの……といっても、殆どが魔道具とかなんだけど、それらが集められてクルアが収納魔法に入れ始めてる。


 もう後、三十分くらいしたらエリュシオンに向けて出発だろうから、またピィナには頑張ってもらわなくちゃ。


 徹夜明けできついだろうけど実際、結構緊急事態だからね。エリュシオンに戻ったらピィナには何かご褒美をあげた方がいいかもしれない。


 そんなことを考えながら眠気まなこを擦ってるピィナを起こして、巨大化してもらって、それに妖精族たちが驚いて……なんか、このくだり久しぶり! ピィナに乗って私たちはエリュシオンに帰ることにした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
https://ncode.syosetu.com/n3707gq/『父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な義妹でした』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ