149話 レンのいない一ヶ月(妖精族の事情)
◇◇カレンside◇◇
「貴様ら! 何者……なっ?! 人間っ!?」
身長百二十センチくらいの小柄でフワフワと浮いているおじさんのような人達。その先頭にいる人が私を見た瞬間にさらに警戒心が上がった気がする。
さて、どう交渉したものかな……こういうのは第一印象が大事だと思うけど……。
「総員! 撃てぇーー!!」
「え?」
ちょちょちょ! 待って待って!! そんないきなり撃ってくるっ?!
気づいた時には既に目の前は様々な魔法の雨あられ。それに、私はそんなに器用じゃないからすぐに魔法を完成させることなんて出来ない。
「『魔力障壁』!!」
「『光輝の絶壁』!!」
だけど、私のかわりにしっかりと警戒して準備していてくれたのかクルアとルカの防御魔法が発動して私たちを覆った。
やがて全ての魔法を受けきった私たちは一切怪我をせず……いや、ネクさんだけはビクビクと怯えちゃったけど、無事。
「いきなり撃ってくるなんて、非常識じゃないかしら?」
「なっ……お前はっ!」
先頭にいるリーダー格の人はクルアのことを知ってるみたいで驚いた顔をする。
「やはり、人間たちの仲間だったのか! ならやはりナールを誘拐したのも……クソっ!」
「誘拐? なんの事かしら?」
「しらばっくれるな! お前が人間に我々の場所を知らせたんだろう!」
「知らないわよ。そんなの」
「嘘は効かんぞ! 事実そこに人間がいるんだからな!」
「だから……」
妖精族の人、本当に相当な人間嫌いなんだなぁ。さっきから、全く持ってこっちの話を聞いてくれないし、何だかとっても気が立ってるみたい?
そういえば、ここに来る前にも誘拐って言葉を聞いたよね。やっぱり、なにかトラブルが起きてるかもしれない。
「あの……」
「クルアっ!!」
私がなにかあったのかと聞こうとした時、妖精族達の後ろの方からクルアの名前を呼んですごい速さでこっちに飛んでくる人がいた。
「アウラ?」
そして、真っ直ぐにクルアに抱きついてきた。
「わぁー! 久しぶりだね! 百年ぶりくらいかしら? クルアあれからなかなか来てくれないから」
「ま、まぁそうね。それくらいかしら? あなたも元気そうで何よりだわ」
百年ぶり……さすが、長命な方たち。クルアはやっぱりそういう年数は恥ずかしいのか顔がひきつってるけど。
「元気……そう、だったんだけど……」
すると、妖精族のアウラさん? は、そう少し顔をうつむける。
「うん? 何かあったのかしら?」
「その……」
クルアがそう聞いたんだけど、何故か私の方を見て口を紡ぐ。もしかして、私は聞かない方がいい?
「あぁ、彼女なら大丈夫よ。私の親友で恋敵のカレン。あなた達、妖精族に危害を加えたりは絶対にしないわ」
その視線に気がついたクルアがそう私を紹介したから、軽く会釈をしておく。
「分かった。それじゃあ、改めてお願い。私を……ナールを助けてちょうだい!」
クルアと再開した時の笑顔とは打って変わって、目に涙をうかべてまでに切実そうな顔でアウラさんはそう言った。
■■
私たちはアウラさんのお客人として妖精族の村? 村というにはこの世界ではやけに近代的な建物がたくさんある中心地にやってきた。
とりあえず、事情を聞こうってことになって招待されたんだけど……さっきから、私をみる妖精族に人達の視線が痛い……。
ここに来る時の衛兵長さんが露骨に嫌そうな顔をしてたからそんなに気がしてたけど、妖精族は相当に人間族のことが大っ嫌いなんだね。昔の人たち、一体何をやらかしたんだか。
「ここが族長の家。どうぞ、上がって!」
アウラはそう言って、周りの家よりも一回り大きい家に入っていく。
ここに来る道中でアウラとは改めて挨拶をしあった。
アウラは妖精族の族長の娘さんで、前にクルアがここに来た時に仲良くなったんだとか。実は、クルアは前回来た時魔道具は作って貰えなかったって言ってたけど、アウラが個人的に作ってくれたらしい。
クルアが私を紹介してくれた時に、「クルアのことも名前呼びなら、私のことも名前呼びにしてね!」って、言われて今呼び方になった。
ちなみにルカともネクさんとも仲良くなってるから、私と違ってコミュ力高くて誰とも気さくに話せる性格みたい。
「今、お母さんを呼んでくるので少し待っていてください」
そう言われて案内されたのはたぶん応接室だろう部屋。
部屋にはたくさん魔道具っぽいものが並んでいるけれど、私にはどう使うものなのか皆目検討もつかないや。
「へぇ……さすが妖精族ね。高度な魔道具がたくさん」
と、クルアは感心したような声を出してるけど、他のみんなは私と同じなのか興味深げに見るだけ。
そしてしばらくすると、アウラと族長と思われるアウラと見た目は余り変わらないけれど、大人びた感じがする女性がやってきた。
結構若そうな見た目だけれど、それに騙されちゃいけない。妖精族だって当たり前のように長命種なんだから、何があっても年齢のお話はだめ、絶対。一度失敗した私には死角無し。
それにしても、すっごく視線が冷たい。やっぱり私が人間だから? 風評被害だよ。
「久しぶりね。コヴィルさん」
「誰かと思ったらいつかの吸血鬼……それに堕天した天使族にエルフ、さらに幻獣種が三体によくわからないのが一人、そして人間……にしてはおかしな反応ね? まぁ、いいわ。一体なんのよう? 今立て込んでるのだけれど」
喋り方、なんだかクルアに似ていて、落ち着いていて風格がある。できる女性って感じ。
妖精族の族長、コヴィルさんは私たちを見回してそう言った。私、正真正銘の人間なんだけど、おかしな反応ってなんだろう?
「アウラの要請で来たのよ。いったい何があったのかしら? ここに来た時もみんな気がすごく立ってたみたいだけど」
基本ここでの受け答えはクルアがやることになってる。前にも来たことがあるし、私よりもこういうのは向いてるだろうからね。ほら、私、最近は治りつつあるけどコミュ障だし。
クルアの言葉を聞いたコヴィルさんはその目をアウラに向けた。たぶん、「何勝手なことをしてるのかしら?」って視線かな?
「お母さん、私たちだけじゃあれは無理です。ここは強力な吸血鬼である真祖のクルアに助力を願うべきです」
その視線に気がついたアウラは必死の表情でコヴィルさんに言い募る。
「とりあえず、何があったのか教えてくれないかしら? 私に何か出来ることなら友達のアウラのために協力するわよ」
クルアがそう言うと、コヴィルさんは溜息をつきつつも話す姿勢を見せてくれた。
「先日、ここが人間たちにバレて攻めいられ一人の妖精が誘拐されたのよ」
誘拐……そういえば、『飛耳長目』で聞いたし、さっきの衛兵長さんも言ってたっけ?
「まさか、あの結界は相当強力なものよね? それが、人間なんかにバレるのかしら?」
「えぇ、バレたわ。そして、たまたまその人物の近くにいた私の娘でアウラの妹のナールが誘拐された。すぐに衛兵長たちが追いかけたのだけれど、高度な魔法を使える私たち妖精族を簡単にあしらって奇しくも逃げ切られた」
コヴィルさんはとても悔しそうに事情を話してくれる。そりゃそうだよね、娘が誘拐されたんだから、すぐにでも助けに行きたいだろうに。
「いったい、その人物は?」
「名前は分からないけれど、衛兵長が言うには、サンクランド帝国の勇者と言っていたそうよ」
コヴィルさんの口から驚きの単語がでてきた。勇者……勇者ってあの勇者? なんかすっごいトラブル体質で、やけに女の子にモテてハーレム体質なあの勇者?
「勇者……それは厄介ね、サンクランド帝国が召喚したんだったかしら?」
「うん、そう。でも、確かその勇者はサンクランド帝国を見限って、流浪の旅みたいのに出ていたはず……」
勇者……というより、人間に詳しいのはルカだからルカがそう答える。
というか、やっぱりいるんだね勇者……異世界だもんね、ある意味当たり前っちゃあ当たり前かな? 召喚って言ってたからもしかして私たちと同じ日本人? 気になる……後で、ルカに詳しく聞いてみよう。
「クルア、お願い! 妹を……ナールを助けて! 私たちだけじゃ、勇者には適わない……」
アウラの声はとても切実で、その必死さが本気で伝わってくるものだった。
「いいよ。私がアウラの妹を連れて帰ってくる」
だから、私は横から口を挟んでそう言う。
「カレン……」
「大丈夫! 私はこう見えて人を見つけるのは超超超得意だからね!」
それに、私にも弟がいるから、もし弟が誘拐なんてされたら私もすごくすごく悲しくなる。だから、アウラの気持ちはよく分かるし。
そして、前の私ならともかく今の私にはすぐに見つけることが出来る力もある。そしたらもし、蓮くんでも同じことをしたと思うし。
「待ちなさいっ! あなたは人間でしょう、腹の中で一体どんなことを考えているのか……」
「あのっ! 誰でもかんでも同じ人間みたいな風に言うのはやめてください。みんな悪い人間ばかりじゃないですよ!」
コヴィルさんの言葉を遮って私は力強く言い返した。
私の身に覚えがないこと、それに元々この世界の人間じゃない私に、この世界の人のことで何かを言われるのはちょっと嫌気が刺してきたから。
まぁ、少し……ほんのちょっとだけ、ここで恩を売っておけば後でエリュシオンとしての交渉で有利になるかなって思ってたりするけど。
ということで、アウラにめちゃくちゃ感謝されて私たちはアウラの妹のナールちゃんを助け出すことにした。
誤字脱字報告、ありがとうございます!




