144話 レンがいない一ヶ月 (今後の方針)
◇◇カレンside◇◇
「そういえば、子供の頃、妖精族の村があるっていう噂を聞いたことがありますな」
「そうなんですか?」
「えぇ、確か……」
アーゼさんは棚からここら周辺の地図を取りだして机の上に広げる。
「えーとですね。確かこの辺りだった気がします」
アーゼさんが地図で指さしたのはエリュシオンから北東の方向。元エルフの国のハルツィナ王国をさらに超えてもう一つのエルフの国、ラテスト大国のさらに先、人間の国であるサンクランド帝国という国の国境付近の樹海のところ。
結構遠いけどピィナちゃんに乗っていけば行けなくはない……かな? こういう行動力がいることは蓮くんの役目なのに。
「そこに、妖精族がいるんですか?」
ただ、妖精族。ファンタジー世界では定番の種族の一つ! これはぜひ見て会ってみたい!!
「どうでしょう。私が子供の頃に聞いた噂話ですから、いない確率の方が高いかもしれません」
うーーん、時間の無駄になる可能性の方が高いのかな? 今この何よりも時間が無い時に無駄な時間を出すのはリスクがなぁ……。
「ちなみに、その噂話アーゼさんの子供の頃の噂って言ってましたけど、失礼ですけどアーゼさん今何歳なんですか?」
「私は123歳ですよ。ハイエルフにしてはまだまだ新米ですな」
いやいや、アーゼさん。人間で言ったらもう死んじゃう年齢ですよ! ていうか、ほんとにミーナって17歳なのかな? クルアとルカみたいにサバ読んでたりして……。
「あぁ、ミーナは正真正銘の17歳ですよ。ハイエルフだとまだまだ赤子のようなものですな。ハイエルフやエルフのような長寿の種族は子供が出来にくくてな」
私の顔に出てたのかアーゼさんがそう言ってくる。そっかー、地味にミーナは私より歳下なんだよね。
ん? そう言えばアーゼさん123歳って言った?!
「クルアやルカの方が歳上じゃんっ!」
カラーン……
あれ? なにか落ちた音が?
「あ……」
音がした方を向くと、アイスのスプーンを落としたクルアの姿が。そして何かをブツブツと呟いてる。
「わ、私の方が……ミーナのお父さんより歳上……歳上……」
あぁ……クルアは年齢のこと気にしてるもんね。これは私の方が不注意だったなぁ。
「だ、大丈夫だよっ! クルアのほうが若々しいから!」
傍によって慰めにかかるけど、虚ろな目でブツブツが止まらない! これは重症だ!
「そ、そうですぞ! 私なんかよりクルア殿の方が美しいではないですか!」
ミーナのお父さんもエルフゆえかそういう年齢のトークに嫌な思いでもあるのか必死に慰めようとしてるんだけど、エルフの人達は基本的に美形が多いっ!
いや、確かにクルアの方が綺麗なんだけど、男性と女性の綺麗って違うじゃない? だから慰めになってない気がする。
「あぁ……私の方が……ふ、ふ、老けてる……」
「そんなことないって! あっちの方が老け顔だよ!」
私はピシィッ! っと、アーゼさんを指さす。
「老け顔っ?!」
あれ? なんかアーゼさんもすっごいダメージ受けてない? ガックリとへたりこんじゃったし。
「ふ、ふけ……ふ、ふ、老け顔……私は老け顔……」
あぁ……ブツブツ言ってる人がまた一人増えちゃったよ。
私は学んだ! 長命種や不死者には年齢のトークは絶対にしちゃダメだ!!
■■
年齢トークで撃沈した二人をなんとか宥めて煽てて立ち直らせて、やっと話し合いに戻ってきた。
「それで、私に聞きたいことって何かしら?」
アーゼさんより歳上なクルアなら妖精族のことをアーゼさんよりは詳しく知ってると思って話し合いに参加してもらうことにした。
「うん、あのね。今この状況を打破するために妖精族の力を借りようと思ってて、それでアーゼさんよりとしう……お姉さんなクルアなら何か知ってることはないかなって思って」
いけないいけない、クルアに歳上って言うとさっきの二の舞になるから気をつけなきゃ。でもなぜか、お姉さんって言えば気にしないんだよねぇ。
「私が子供の頃にこの樹海に妖精族か隠れ住んでいるっていう噂を聞いたことを思い出しましてな」
アーゼさんがサンクランド帝国の国境沿いのところを指さす。
「あー、そこね。いるわよ、妖精族」
「うんー、やっぱりそう上手くは……えっ?! いるの?!」
「えぇ、前にある魔道具を作ってもらおうと思って行ったことがあるわ」
おぉ! まさかの行ったことある人発見っ!! さすが歳上のお姉さん!!
「それじゃあ、早速行ってスカウトしてこよう!」
「そうですな! もし来ていただけるのなら一気に街づくりは進むでしょう」
アーゼさんも乗り気でさっきまで老け顔での落ち込みも無くなって笑顔になった。
けれど、ミーナは渋い顔をしたままだった。
「うーん、それは難しいんじゃないかしら」
「え、どうして?」
「妖精族って人間族を毛嫌いしているし、気難しい種族なのよ。説得するのはなかなか骨が折れると思うわ」
そっかー、妖精族は人間族に狩られそうになったんだもんね。
「あ、ならクルアが説得してくれればいいんじゃない?」
一回行ったことがあって面識があるクルアから大丈夫だよね! って思ったんだけど、予想に反してクルアは首を振った。
「無理ね。前に魔道具を作りに行ってもらったって言ったけど、結局作っては貰えなかったのよ」
「そんな……」
「うーむ、結局手詰まりになってしまいましたな」
アーゼさんもガッカリしてる。それはそうだよね、居場所もわかってるのにあと一歩手が届かないんだし。
けれど、他になにか代案が思い浮かぶ訳でもないし……やっぱりこれしかないんじゃないかな?
説得ができればいいんだよね? 私は妖精族の趣味趣向、生活様式、好みや苦手なものなどなどを知識として持ってる……案外上手くいくんじゃない?
ここには日本産の野菜とか果物とか妖精族にとって好きな未知のものなんて沢山あるし、というかそもそもこの巨木な我が家を見たらどうなってるの知りたくて知りたくてうずうずするんじゃないかな?
あ、なんだかいけるような気がしてきた!
「やっぱり、妖精族を説得に行きましょう!」
私がそう言うとクルアが呆れたような顔をする。
「カレンねぇ、私の話聞いてたかしら? 妖精族は気難しくて説得は不可能よ?」
「大丈夫! 私が説得してみる! きっとなんとかなるなる! 蓮くんだって多分おんなじことするよ」
「まぁ、そうかもしれないけれど……分かったわ、なら私もついてくわね」
「いいの? アブソリュートさんは?」
「おじいちゃんなら、ルーシィーがついてるわ。だから大丈夫」
「そっか、じゃあ一緒に行こうね!」
「ええ」
あとは、誰を連れてこう? ピィナに乗っていくからピィナは確定で、ピィナと相性がいいポムちゃんでしょ。
それと、結構遠いからハルツィナ王国の時みたいに日帰りは無理だろうからメイドのオリビアさんは欲しいし、もしも怪我か何かあった時のためにすぐ回復出来るようにルカと、連絡要員として飛べる人をかな?
私、クルア、ピィナ、ポムちゃん、オリビアさん、ルカ、飛行する人、これで七人。
あんまりぞろぞろと大人数で行くのも襲撃とかで間違えられたら嫌だし少人数でこれくらいで行こう!
今、パッと考えたことをアーゼさんとクルアに伝える。
「レンはメンバーに入ってないのね」
「蓮くんは今寝てるし、あんまり時間ないから今日中に起きなければここで待機。それに今立て込んでるし私か蓮くんのどっちかは残った方がいいでしょ」
「それもそうね」
クルアは納得はしたけどちょっと残念そう。前にハルツィナ王国に行った時はクルアはお留守番だったしね、蓮くんとどこかにいけてないからかな?
「ふむ。カレン様、セーヤを連れてってはくれないか? もし、スカウトに失敗したとしても、もしかしたら技術を教えてくれることはあるかもしれません」
「なるほど、じゃあセーヤさんも連れていきましょう!」
セーヤさんも加わって八人になった。
「じゃあ、私は今カレンが言った人達に準備するように行ってくるわ。出立はいつにするのかしら?」
「うーん、早ければ早い方がいいし……急だけど明日からでも大丈夫かな?」
「分かったわ、それじゃあ後でね」
早速クルアは明日の準備に向かった。
改めてアーゼさんと向かい合う。まだ話し合いは終わってない。
「さて、これでやっと一番の問題が進みましたな。次は労働力ですかな?」
「その事ですが、アーゼさん頼みがあります」
「頼みですか? なんでしょう?」
労働力不足問題。これは、もう前々からやろうと思っていたことをやろうと思う。
蓮くんと話し合った時にあまり不用意に使わないって決めてたけど、これをやればかなりの労働力の確保になるし、そして元々このエリュシオンを開拓するなら避けては通れないことだし。
作戦名は『大命名作戦』。このエリュシオン領土の魔物、魔蟲たちをぜーーーーいんっ命名して仲間にしちゃおうって作戦。
労働力も確保出来て、魔物の襲撃が無くなって仲間が増えてと一石二鳥どころか三鳥、四鳥もあると思う。
ただ、デメリットと言えば、もうこの巨木な我が家には住むところがないから早急に家を建てないといけないことと、お鶴さんたち服飾する人達がすごく過労になること、あとは相手の魔物側にある程度の知能を持っていてくれないと対話ができないこと。それと、私のセンスが問われること←これ重要
理性もなく本能だけで襲ってくる奴とかはそもそも『命名』ができないからね。
「だから、アーゼさんたちにその選別をしてもらいたいんです」
まぁ、アーゼさんって言うか幻獣種の人達にって感じだけれど。
「なるほど、ならその選別は幻獣種の皆さんにやって貰って、私たちはその方達の迎え入れの準備をしておけばいいのですな」
さすがアーゼさん、やって欲しいことを的確に理解してくれる!
「はい! よろしくお願いします!」
「はっ、つつがなくお受け致します、カレン陛下」
わっ?! へ、へへへ陛下ってそんな大袈裟な……。
でも、ここは一応は私と蓮くんが作ったエリュシオンってことになってるから、実質国が稼働し始めたらそう呼ばれ始めるんだよね……。
早く呼び慣れないと、いつまで経っても貫禄がでないかも。
そんなことを考えながらも、その他のことをアーゼさんと話し合っていった。
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