138話 翼を選ぶ
◇◇レンside◇◇
「ふぅ〜〜」
危ない危ない、やっぱりここに来る時に気を抜くとどこか別のところに飛ばされそうになる。魂だけだから踏ん張ることも出来ないし、本当に不思議な場所だ。
目を開けると、右も左も下も上も、自分が立っているのか座っているのかさへ分からないどこまでも真っ白い空間が広がってる。
「お〜〜い、レンレン!」
声をかけられたため振り返ると、何も無かった空間で不自然な場所がある。
六畳の畳を敷いて、その上に液晶画面が三面くらいある大型PCがあり、その前にはたたむ気もないのか布団が敷いてあって、その隣にはちゃぶ台、そして布団から手が届く範囲にはテレビのリモコンとかジュースとかが置いてある。
うーーん、しっかりとヒキニートをやってるなぁ……。前来た時に結構汚れてたけど、今回もまた掃除してあげた方がいいかもしれない。
まぁ、でもまずは僕の翼だね!
「久しぶりー」
僕はその六畳間の主、自称日本の神様の取締役であるアマテラス神に手を振って近づく。
燃えるように光る七色の髪、神々しくも愛らしい端正な顔つき、真っ白い肌は全く穢れを知らなそうで、百人の男とすれ違えば百人とも二度見、いや三度見するくらいの可憐な少女。
それがあまちゃんなんだけど……パジャマが乱れるのも気にせずに欠伸をかみ殺して、左右の手で別々のゲームをする姿はとっても残念だ。
「ほらほら、レンレンこっちですよ!」
パンパンっと、自分が座ってる布団の隣を叩くあまちゃん。
とりあえず、部屋の掃除をしつつも僕もそこに座る。
「なんのゲームしますか? この前来た時よりも色々と種類を増やしましたよ!」
「いやいや待って! 僕ここにゲームしに来たんじゃなくて自分の翼を選びに来たんだけど」
「ああっ! そうでしたね! それじゃあパパッと決めて早くゲームをしましょう!」
最近思うんだけどあまちゃんにオンラインゲームとかを教えたのは本当に失敗だったかもしれない。いや、まじで。
あまちゃんがパンパンと手を二回叩くと僕の目の前に半透明の液晶パネルのようなものが現れた。
「いいですか? これが、新しい種族や新種の動物、植物を作成するものです。それで、今はレンレンの翼を付けるためにレンレンのデータを出してます」
液晶パネルには僕が仁王立ちしてる姿がモデルのようにクルクル回って写ってる。
あまちゃんが言ってたみたいに本当にMMORPGのキャラメイクみたいだ。
「それで、ここから付けたい翼を選んでください。既存のものを選ぶことも新しいものを作ることもできますよ!」
いやー、本当にゲームのキャラメイクだなこれ。ていうか、多分だけどあまちゃんとかほかの神々にとっては世界を作ったり生き物を作ったりするのはゲーム感覚と同じなのかもしれない。よくある箱庭ゲームとかシュミレーションゲームみたいな。
こんなヒキニートだけど、一応は神様で超越的な存在なんだし。そう考えると、なんだか自分がすごくちっぽけな存在に思えてくるなぁー。
「おっけー、頑張ってみる」
「はい! それじゃあ、さっそくやってみましょう! あと、私はヒキニートじゃないですからね?」
あ、そうだったな、あまちゃんは言葉にしなくても相手の思ってる事が分かるんだった。気をつけよ。
とりあえず今は翼だ!
まずは、既存のものを見てみる。そこにはさっきボクが付けてたコウモリの翼やあのおもちゃの住人の翼とか言ってたやつとかがある。
結構沢山あるけど、どこかで見たことあるような翼や羽が多い。
「あ、ニワトリの翼だ。これ飛べるのか?」
「レンレン、知ってますか? 元々ニワトリはそれなりに飛べるんですよ?」
「え? そうなの?!」
「はい。大昔にはそこまで得意ではないみたいですが一応飛ぶと呼べるくらいには飛べていました。ただ、人間によって食べられるようになってからは養鶏をされて、より美味しくふくよかになっていったので飛べなくなってしまったんです。今のニワトリでも餌とかを与えず何もしなければ平屋の屋根くらいならば飛べることが出来ると思います」
へ、へぇー……流石というかなんというか、<知識>の力を華憐に与えたのはあまちゃんだから、当然こういうことは知ってるんだな。
なら、ピィナが飛べるのは普通なのか……いや、あいつ餌付けされてるな。そして大きくて丸々としてるし。
ま、まぁいいか。もうニワトリの翼は却下だな、なんだかこの翼を付けたら背中からじゃなくてまた腕から翼になりそうだし。あんな恥さらしは一回だけでいい。
そらからも色々見てみたけれど、どれもしっくりくるものが無かったから結局自分で作ることにしてみた。
あまちゃんが言うには、自分で作るのも二通りのやり方があるらしい。
一つ目は、形や色とか既存の物を組み合わせて作る方法。
もう一つは、絵を描いて色を塗って……etcと、本当に一から作っていく方法。
本当は一から作ってみたいけれど、ここに来る時に時計を見たら夜中の三時すぎだった。一から作ってたら絶対に時間がかかるに決まってる。華憐が起きる前に戻らないと確実に怒られるからそれまでには戻りたい僕にはそんなにタイムリミットは無い。
「そう思って色々見てるけど……やっぱり、これといったものがないんだよな。やっぱり今からでも一から作ってみようか?」
かなり種類があるからずっとスワイプしてるけど、どうもパッとしないんだよね。
あまちゃんは、とっくに飽きたのか僕の膝を枕にして鼻歌歌いながらテレビゲームしてる。今やってるのは……テトリスかな? 結構うまいな。
「……とっ、もう一番最後まで来ちゃったのか……うーーん、どうしよう」
ずっとスワイプしてたけど、いつの間にかもう出来なくなって、それが全部見てしまったことを表してた。
「ん? なんだろう?」
最後のページの一番最後、液晶パネル右下の角にあるやつが目に入った。
というか、ちゃんとそこに枠はあるのだが肝心のどんな形なのかが分からない。もしかしてランダムみたいなやつかな?
「なぁ、あまちゃん。この最後のやつなんなんだ?」
「はいはい、ちょっと待って……くださいねっ! と、どれですか?」
「ほら、ここの最後のやつ枠だけで何も無いでしょ? バグかなにか?」
「いえ、それはバグじゃないですよ。そういう仕様です。それは『原初の翼』ですね」
「『原初の翼』?」
「はい。名前の通り一番最初の翼です。これを元に様々な翼が作られていきました。私の翼はこれですよ。今ではもう翼がなくても飛ぶことなんて造作もないですが、昔のひよっこ神のときはよくこの翼で飛んでました」
「えぇ?! あまちゃん、翼持ってるの?!」
びっくりだぁ、だって背中に翼っぽいものとかないし、ないよね? ちょっと、背中の方を見てみるけれどやっぱりそれっぽいものは無い。
「もちろん、持ってますよ。今はしまってるような感じですね。見てみますか?」
「見てみたい!」
そりゃ、気になるよ! 神様の翼がどんなのなのか! やっぱり天使みたいに純白の清楚っぽい感じのやつなのかな?
「分かりました。少し離れててくださいね」
あまちゃんはそう言うと、僕から少し離れてヘニョンと、女の子座りをする。
あれ、僕体が固くてやったら痛いんだよね。昔O脚を治したくて座る時はずっとあの座り方してたけど、そういう趣味があるのかとからかわれた。
「久しぶりに翼を出すので、上手くできるかわかりませんが……」
あまちゃんは精神を集中するように目を瞑って祈るように手を合わせる。
すると、あまちゃんの背中からうっすらと神気が集まってぼんやりと形を作ってるように見える。
そして、だんだんとその形がハッキリとしていく。翼のような形に、あまちゃんの髪と同じ燃えるような虹色。
「ふぅ、久しぶりでしたが上手くできました。どうですか? これが私の翼です」
あまちゃんがゆっくりと瞳をあける。
「…………」
「レンレン?」
「…………はっ?! だ、大丈夫!」
おっと……ついつい、燐光を散らす姿に可憐さとか神々しさとか、よれて乱れたパジャマもギャップを感じさせるようでついつい見とれてしまった。
「はぁ……? そうですか、なら少し説明を……この『原初の翼』はまず元となる造形がありません。まぁ、なんていうんでしょうか……概念? みたいなものですね」
ふむふむ……いっちょんわからん。
とりあえず話を進めるために頷いておこう。
「だから、自分で形作るんです。『原初の翼』は物質的なものじゃなくて魔力的、神気的なものですからさっき私がやったように魔力や神気を操作して作り上げます。これがなかなか難しいんですよ」
「うん? クルアの翼も魔力でできてたよね? あれのは違うの?」
「はい。あれは一応モデルケースとしてコウモリの翼を使ってますから、人によっては自分に合わない場合があります」
あぁ、だからクルアは飛ぶのが苦手で酔いそうになるわけか。
「けれど、『原初の翼』は最初から自分で作るのでそんなことは絶対に起こりません。ただ、色や形を自分で決めることは出来ません。一番最初に翼を生やした時に自分にとっての最適解で勝手に仕上がります」
ほぉー、じゃあ何にしようか迷っててこれといったものが無かった僕にはピッタリじゃない?
「よし、じゃあこれに……」
「待ってください! まだ説明の途中です!」
あ、はい。人の話を聞かなくてすいません。
「いいですか? まず、さっきも言った通りそもそも最初に翼を作り上げることが何よりも難しいです。次に、空を飛ぶ時にとても繊細な魔力、神気操作が必要になります、これも難しいです」
「でも、それを補ってでも有り余る素晴らしいメリットがあるんでしょ? そんなに難しいなら」
「はい、そうですね。まずはさっき言った自分にとっての最適解の翼になります。あとは、練習さえすればどこまでも早く、どんなアクロバティックな飛び方もできます。ここに限界はありません。あとは、魔力、神気が無くならない限り体力は使わないのでいつまでも飛べることでしょうか」
ほほう、つまり完全実力主義の翼って事ね。いいじゃない、いいじゃないかっ!
それに、自分にとっての最適解になるんだからきっとおかしなことにはならないはず。少なくともあのおもちゃの住人の翼は僕には最適解では無いはずだから大丈夫だろう。
「よし、これにしよう!」
僕がそう言うとあまちゃんは少し呆れたような顔をした。
「本当にいいんですか? これ、本当に難しいんですよ? それにそもそも大事な身体の仕組みを組み替えちゃっても」
「いいよいいよ、大丈夫! なんとかなるさ! だって僕にはあまちゃんから貰った<才能>の力があるんだから」
そう、きっと翼を生やす才能とかがきっとあるはずだ。だから大丈夫だろう。
「はぁ……分かりました。それを選んでスワイプして、パネルに写ってるレンレンに重ねてください」
僕は言われた通りにパネルを操作する。
そして、画面に写ってる僕に『原初の翼』を重ねると、
「うぉっ! またこれか!」
僕の身体が発光した。
それにしても、本当にゲームのキャラメイクなんだなぁ……。
思ったんだけど、これで僕の身長高くしたり、顔をもっとかっこよくしたり出来るのかな?
 




