136話 翼を付ける(お試し)
◇◇レンside◇◇
「よしっ! それで、どうしたらいいの?」
『レンレンは特に何もしなくて大丈夫です。あ、一応すごく発光するので、周りの迷惑にならないようにだけ』
発光するの? どんな感じにやるのか全く予想つかないんだけど。
「…………すーーすーー」
とりあえず、エリュはぐっすりだから、ここは離れた方が良さそうだな。翼が生えたらすぐ飛んでみたいし空中庭園に行くか。
「おっけ。少し移動するから待ってて」
『はーーい。その間にどんなのがいいか選んでおきますね』
え、選ぶって何? 本当に予想がつかない……。
とりあえず空中庭園にやってきた。こんな夜中に起きてるのなんて、多分僕くらいだから誰もいない。
「あまちゃん、もう大丈夫だよー」
『はいはーい。それじゃあ、今からレンレンに翼をさずけますけど、その前に確認。本当によろしいですか?』
あまちゃんが改まって言う。
「よろしいって、そんなに覚悟が必要な事なの? すごく痛いとか?」
『いえ、特に痛みとかは感じませんよ、本当に発光するだけです。けれど、翼を生やせばただの人間じゃなくなります。細かく言えば、動物界脊髄動物門哺乳網トリ目ヒト科有翼種って感じになって、親御さんから貰ったそのお身体が別のものになっちゃいますけど』
おおぅ、そんな植物みたいに細かく分類されてもよく分からんな。痛みが感じないのは嬉しい、僕は痛いの苦手だから。まぁ、確かにこの貰った身体を変えちゃうのは良くないかもしれないけれど、
「僕のパパンは言ってた。夢を叶えるために手段は選ぶなって、だからきっと許してくれるさ」
『そうですか。分かりました、それじゃあ進化を始めますね。どんな翼がいいですか?』
「え? 選べるの?」
『はい! ある程度は選べますよ』
おぉー! それはいいね! どうせならかっこいい翼がいいもんね!
『うーーん。例えば、こんなのがあります』
「ん? んにゃっ?!」
すると、僕の身体がカメラのフラッシュを炊いたように激しく発光し始める。それに、なんだか身体が熱くて背中がムズムズする感じがする。
そして、発光が収まったあと僕の背中には、
「眩しっ! って、おぉー! 翼だ!!」
濃い紫のコウモリのような翼が肩甲骨の付け根くらいから生えていた。
今まで無かったものがいきなりついたからか、背中がずっしりとして違和感がすごい。
でも、意識を向けると動かすことが出来たり、どうすれば空を飛ぶことが出来るのかも何となくわかる。
たぶん、あまちゃんが言うように種族が変わったのと、<才能>の力の空を飛ぶ才能みたいのがあるんだろう。
『どうですか? それは単純にコウモリの翼です。吸血鬼族たちの持っている翼ですね。まぁ、でも今レンレンについてるのは吸血鬼族の劣化版みたいなものですけど』
「そうなの?」
『はい。ただのコウモリの翼ですから。吸血鬼族の翼はそれに魔力的なカスタムがされていて魔力を使うことで消したりすることもできますから』
へぇー、確かにクルアは翼を出し入れしてたし、ずっとこれを付けてるのは結構邪魔だったりするかもしれない。あと、結構重いから背中がバキバキに鍛えられそう。
それに、これじゃあクルアのパクリみたいだなぁ……クルアは喜ぶかもだけど、なんだか自分だけの翼が欲しいし。
「ほかの翼は無いの? ていうか、もう付けちゃったけど変えられるの?」
『えぇ、それくらいなら大丈夫ですよ! そうですねぇ……これはどうでしょう?』
すると、再び僕の身体がまぶしく発光する。というか、何回でも変えられるんだね! それは、凄く嬉しい、失敗することがないからね。
「………うぅん、何このもふもふ……もふもふ?」
発光が収まると、背中はさっきより軽く感じて、触ってみるとふわふわの毛布みたいな感触がした。気持ちいい。
「うわぁ! なんだこれ、すごく気持ちいい!!」
このもふもふ翼はさっきのよりも大きいのか、動かして前に持ってくることが出来た。目の前にある真っ白いふわふわした羽根を撫でるように触ってみる。
本当に柔らかい……セッテのケモ耳くらい柔らかくて気持ちいい。まさか自分がこんなに気持ちよくなるなんて……ん? 気持ちいい?
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
『ちょっ?! レンレン! なにこんな公の場で自慰行為してるんですか!! そのモミモミしてる手を退けなさい!!』
「ハァ……ハァ……え? じ、いこうい?」
モフモフしてる手を止める。確かにまるで、エクスタシー直前のような気持ちだったけど……自慰行為?
『そうです! お? なにーですよ! なんでそんな大っぴらにやってるんですか! あ、も、もしかしてレンレンは公開でやるのが……おまわりさん! この人です!』
「違うわっ! んなわけないやん! 僕はひっそりとやるよ!!」
『そ、そうですが……まぁ、若い時はそういうこともあるでしょう。大丈夫です、神はあなたを許します』
うぅ、自分の性処理の話をするとかなんだか惨めだ……というか、どうして羽根をモフッたのが自慰行為に?
『いいですか? 翼を持つ種族にはその翼が性感帯であることがあります。その世界だと、天使族とかはそうでしょうね。翼はとても繊細なんです、たくさんの神経が通ってるため感度が高く、触るとエッチな気持ちになる事があるんです! だから、勝手に翼を触ることはマナー違反ですからね、覚えておいてください!』
なるほど、確かにルカに神気を流した時にまず色が変わったのは翼だったな。あれか、ただ人間でいうところの耳とかみたいな感じかな? たぶん。
うーーん、今ついてるこのモフモフの翼は性感帯なのか……これ見てると本当に柔らかそうですごく触りたくなるな。
「あまちゃん、他の翼にして」
すごく、このモフモフの翼を無くすのは惜しいけど、このままじゃどこかしこでも公開でやっちゃう気がするから別のにしてもらおう。僕の名誉のために。
『そうですね。レンレンが犯罪者になる前に変えておきましょう。それじゃあ、これはどうですか?』
そして、三度強烈に発光する僕の身体。さすがに三回目ともなればこの光にも慣れてくる。
すると、今度は背中に違和感がなかった。ずっしりとした重みも軽さもない。その代わり頭の側頭部に何かが生えた違和感がある。
「え? 頭?」
頭に手を伸ばしてみる。今度は、もしふわふわしてても撫で回したりしないように注意して。
僕の側頭部には予想通り羽のようなものがついていた。
「なにこれ?」
『翼ですよ?』
へぇー、これも翼なんだ。あ、あれかポケモンのシェイミのスカイフォルムみたいな? 蓮:スカイフォルムみたいな感じなのかな?
意識を向けてみると、パタパタと動かすことができた。そういえば、まだ翼を付けただけで飛んでないんだよね。
「ねぇ、あまちゃん。これどうやって飛ぶの?」
『有翼人は基本的に飛ぶ時は魔力を翼に流しますね。レンレンの場合は魔力でも神気でも大丈夫ですよ。あとは魔力操作と同じです。身体強化をするみたいなものですよ。あとは、軽くジャンプして行きたい方向に歩くような感じです』
なるほど、本当に魔法とかじゃなくて空を飛ぶためのそういう部位なんだなー。
あまちゃんに言われたみたいに、側頭部にある翼を意識して魔力流していく。少し身体が軽くなったような気がした。
そのまま言われた通りに軽くジャンプをすると、
「おぉー! すげー!」
僕は今、宙を飛んでいる。水中とか宇宙とかみたいな無重力空間じゃなくて、ちゃんと重力がある所で。
「うーむ、なるほどなるほど。今までずっと足で歩いて移動してたから違和感があるのかな?」
移動してみると、なんの抵抗もなく自然に動ける。翼をバサバサするのかと思ったけど、そんなことは無いや。よく思い出してみれば、空飛んでる人達みんな激しく動かしてなかった気がする。
これが飛ぶってことなのかーー、なんか感動。ただ、無意識下にできるのは練習が必要だな。
ゆっくりと、地面に着地する。
『どうですか? その翼にします?』
「あーー、いや、ほかの翼がいいな。さすがにこれは見た目が……シェイミのコスプレみたいだし」
『似合ってると思いますけど………あ、じゃあこれなんてどうですか?』
三度あることは四度ある。またまた強く発光して、
ガキンッ! ガチャン! プシュー!
別の翼が………ん? 翼?
「うぉっ! 重たっ!」
今度の翼は背中にあるけれど、その重さが今までのヤツより一番重たい。まるで鉄の塊を背負ってるみたいな……ていうか、音的になんか機械なみたいなやつだよね?
「あまちゃん、なにこれ?」
『これは、第十世界……その世界や地球の世界とは違う、機械の世界の翼を持つおもちゃの住人の翼です。結構重たいですけど、翼を展開すればちゃんと飛べますよ!』
「どうやって展開するの?」
『乳首を押してください』
「…………」
はい? 何言ってるの? 僕の聞き間違いかな?
『ゴホンッ……何度も言わせないで、乳首を押してください』
あ、聞き間違いじゃなかった。しょうがない、疑問はあるけど、とりあえず先を進めよう、ツッコミはその後だな。
ちょっと恥ずかしいけど、僕は自分の右乳首をポチッと押す。
チャキンッ! スパッ!
そういえば、高校の体育着の名前の刺繍がちょうど乳首のところで、裏側は縫ったまんまだから擦れて走ってる時とか痛かったなー。
背中で何かが展開されたけど、白い目をして現実逃避しちゃった。
『展開しましたね。そしたら、左手を上に伸ばして、右腕を腰に当ててください』
僕はあまちゃんの言われた通りにする。
『そしたら、最後は呪文です。呪文は、『無限の彼方へ、さぁ行くぞ!』です。さぁ、どうぞ』
「…………無限の彼方へ、さぁ行くぞ!」
カチッ………ボォォォオオオオ!!
こうして僕は、無限の彼方へと旅立つのだった。




