134話 空を飛びたい
◇◇レンside◇◇
くそぅ……やはり空は飛べないのか……所詮人間は地べたで這いつくばってろって事なのか……。
いや、しかし待てよ、翼がなくても空は飛べるんじゃないか?
だってここは魔法の世界だ、風とか重力とかあーしてこーしてみたら出来るんじゃないかな?
それなら、ここに専門家がいるし聞いてみるか、
「クルア、魔法で空を飛ぶことって出来ないの?」
「無理よ」
「「え?」」
あれー? 今なんて? ていうか、華憐も飛べると思ってたのか言葉が重なった。
「だから、飛行する魔法は無いのよ」
「う、嘘?! だって魔法だよ?! 魔法って仮定上の神秘的な作用を介して不思議のわざを為す営みじゃないの? まさに空を飛ぼうって発想になるでしょ」
なるよね? だって、人類の夢は空を制することじゃん? たぶん? 少なくともライト兄弟くらいは。
「そりゃあ、発想くらいはあってやろうとした人もいたけれど、飛行魔法は割に合わないのよ」
「割に合わない?」
「そう、まず空を飛ぶってことは重力を無視するってことでしょ? それで、重力を無くして飛ぼうとしたんだけど、そもそも重力魔法を使える人物があまりにも少なかったの」
ふむふむ、確かに以前にクルアに教えて貰った時に重力魔法は特殊な魔法だから使える人はごく僅かって聞いたな、僕はもちろん使えたけど。
「それで、重力魔法を使ったとしても、重力を無くすだけだから浮かび上がることは出来るけれども移動することは出来ない、これじゃあ飛行とは呼べないでしょ?」
「「うんうん、確かに」」
隣でいつの間にか華憐もクルアの話を聞いてる。
「だから、単純に推進力として風魔法を利用することにした。それで、重力を切って浮かぶために真下に向かって風魔法を放つとどうなると思う?」
「ん? 浮かべるだろ? いや、浮かび続けるかな」
「そう、重力を切ったせいで際限なく上に浮かび上がる、それを抑えるために今度は同じ強さで上から風魔法を使う必要があるの」
あーー、なんとなく見えてきたかも。
「つまり、浮かんで移動する度に風魔法を使わなくちゃいけないってことだね。力学的エネルギーの法則みたいなものかな」
なんか、華憐がしたり顔で頭良さそうな事言ってるけど、合ってるのかな? 僕、文系だったから物理はさっぱりなんだけど? まぁ、でも言いたいことは分かる。
「その、りきがくてきえねるぎー? はなんなのか分からないけど、そういうこと。同時にいくつもの精密な風魔法を使わないといけないの。というか、そもそも重力魔法と風魔法を同時に行使できる人間は指で数えれるくらいしかいないわ」
「じゃあ、それなら風魔法だけでは無理なのか?」
「無理ね。重力魔法を使わないと相当強い風魔法を使わないといけないし、それを沢山。消費魔力が多すぎてすぐに落下、とても飛行とは言えないわね」
「あ! ならなら、超魔力量が多い私がやれば出来るんじゃないの?」
隣の華憐が手を挙げてそんなことを言う。
華憐さんや、あなた精密な魔力制御が出来ないでしょうが、いつも全力全開で魔法を放つから同時に複数の魔法を使うことは出来ないし。
「はぁ……カレンは魔力がバカ多いだけで制御できないじゃない。それに、もしも出来たとしても周りがすごい風で結構な被害に合うから、やっぱり割に合わないのよ」
あぁ、ヘリコプターの発進時とかすごい風だもんね。
ていうか、なんでそんな所だけすごく現実的で科学的なんだよ! もう少し、非現実的で神秘に満ちていてもいいじゃんか、理不尽な。
「それじゃあ、そもそもルカやクルアとかお鶴さんとか飛べる人達はどうやって飛んでるんだ?」
それだけじゃなくて、ドラゴンとか身体の大きさに比べて、あんな小さな翼じゃ飛べるとは思えないんだけど。
あと、ピィナ! これだけはどうにも納得できん。だって、ニワトリだし。
でも、ピィナに関してはなー、たしかあの時僕の『開花』能力でピィナの持つ何かの才能を開花させたんだけど、その直後から飛ぶようになったんだよね。
もしかして、それかな? それなら、あまちゃんのあれな力だから、まぁ納得? は、できないけどそんなもんだろうなって思う。
「それは翼よね? 私、飛ぶことはできるけど酔うからあまり得意じゃないのよね。それに、魔法じゃないからあまり詳しく知らないわ。こういうのはルカの方が得意なんじゃない?」
「そう、私たちの天使族とか、吸血鬼族とか、あとは翼を持つ魔物が空を飛べるのは翼を持ってるから。翼を持つ生物にとって翼は心臓とか肺とかと同じように『空を飛ぶ』っていう器官だから」
あぁ、なるほど、魔法とかスキルとかみたいな能力じゃなくて、僕達でいう歩くとか食べるみたいに、もともと空を飛ぶっていうことが普通にできるわけね。
やっぱり翼なのか……翼なんだな! 神様はなんでただの人間を翼なの無い体に作ってしまったんだ……。
「ん? どうしたの? ちょっと待ってね! 召喚キュウちゃん!」
僕が、あまちゃんに向かって呪詛を吐いていると、華憐が契約してる、きゅうりの精霊………じゃなくて、馬の精霊のキュウを出した。
「ブルルルル!」
「あっ、こらっ! やめろ!」
こいつ、なんか初めてあった時から何故か僕のことを毛嫌いしてくる。今も、きゅうりの精霊とか思ったせいか、唾を吐きかけてこようとするし。なんなんだ、全く。
「ほらほら、キュウちゃん。それで、どうしたの?」
「ブルルル」
「うんうん、うん? ああっ! なるほど! やってみて!」
「ブルルル!」
華憐は『言語』の能力を持ってるから、精霊とも話すことが出来るんだよな。僕には何言ってるのかさっぱりだ。
すると、華憐はキュウの背中に乗っかる。なにするんだ?
キュウは華憐を背中に乗せると、高く嘶いて、パカラッパカラッと走りだす、空中に。
「うわっ! あのきゅうり飛べるのか?!」
「あぁ、そういえばカレンの精霊の属性は風属性だったわね」
「おお! 翼はないが天馬みたい!」
よく見ると、キュウの足元には小さな風の渦みたいのができて、それで飛んでいるみたいだ。
「わぁぁー!! 蓮くん、ついに私は大空を翔るよ!」
華憐が大きく手を振ってはしゃいでくる。
別に自分で飛んでる訳じゃないのに。
「え? ちょ、キュウちゃん?! なになに?! ちょっと、きゃあああああああっ! え?!」
すると、キュウが華憐のことを背中から空中に投げ飛ばした。何してるの? って思ったけど、華憐は落下してくることは無かった。
キュウが華憐を投げたところには、キュウの足元にある風の渦と同じようなのがあり、華憐はそこに乗っかってる。
「おぉ! 蓮くん見てみて! 私飛んでるよ!!」
華憐がそこから何も無い空中に足を出すと、キュウが魔法を発動しているのか、その場に風の渦ができて、ちゃんと移動ができてる。
ぼ、僕にもあの風の渦みたいなのやってくれないかな……? あのきゅうりは僕に意地悪だからやってくれないか……う、羨ましくなんかないやい!
「おーい! クルアとルカもおいでよ!」
「うーーん、私は本当に空飛ぶの得意じゃないのよね」
「クルアは小さい時から、空飛んだら真っ青な顔してたからね。でも、せっかくカレンが呼んでるんだし行こう!」
「まぁ、少しだけなら」
そう言って、クルアはコウモリのような翼を出して、ルカも白と紫で対になっている翼をはためかせて飛んでいく。
僕を置いてけぼりにして。
うぅ……う、羨ましくなんか……。
「なぁ、エリュ?」
「…………無理、私の属性は剣。風魔法は使えない」
「デスヨネー」
分かってたよ。でも、同じ精霊なんだから出来ると思ったんだけどな……淡い希望は潰えた。
いやいや! あのきゅうりが使ってるのはきっと魔法だ。ならば、魔法の才能を持ってる僕ならきっと見ただけで使えるはずだ!!
僕はじーーっと、華憐の足元にある小さな風の渦みたいのを見る。
「……………………………あいたっ!」
「蓮くん! 何スカート覗いてるのっ?! えっち!」
華憐は顔を真っ赤にして手ででスカートの裾を抑えてる。
あの、きゅうりの魔法を使って空気弾でも撃ってきたんだな。でもさー、スカートで僕より上に行くのが悪いと思うんだけど……それに、見てたのスカートの中じゃなくて足元の渦だし。
でも、まぁ大体のあの魔法の構造は分かったぞ! あれなら再現出来るはず!
「よしっ! 上昇気流……高速回転……威力上昇……縮小化」
ブツブツと、頭の中で魔方陣を組み立てていく。
本来、魔法を作る時は魔方陣を書いて、そこに魔力をそそがなきゃだけど、僕くらいになれば頭の中で速攻で魔方陣を組み立てて魔法を作ることだって可能!
まぁ、本来の作り方より精度とかは落ちるけど、そんなに難しい魔法じゃなければ意外とちゃんとしたのが出来る。
「んー、こんなもんかな? 『ミニ・サイクロン』!」
適当につけた魔法名を唱えると、僕の目の前に華憐の足元にあるやつと同じものが現れる。成功だね!
足を乗っけてみるけど……うん! 大丈夫、ちゃんと支えてくれるね!
「エリュ」
「…………ん」
エリュだけ、ここに放置してたら拗ねちゃうからね。手を差し伸べると、そのまま僕の首に腕を回して抱きついてくる。
お姫様抱っこの要領で支えたら、さっそく華憐たちの元に向かって足を前に出して階段を上るみたいに『ミニ・サイクロン』を出して上っていく。
「うーーん、なかなか難しい。魔力操作が上手くなりそうだ」
一回使っちゃえば、無詠唱でも魔法を使えるから、自分の足を出すところに発動して、足を浮かせたら乗せてた渦を消してって、それの連続発動だから結構神経を使う。
ミスったら落ちちゃうからね。まぁ、このくらいの高さなら僕もエリュも着地はできるんだけど。
でも、これ飛んでるって感じじゃないなぁ。なんていうか、空中歩行みたいな感じ、僕の目指す『飛ぶ』じゃない。
「あ、蓮くんも来たんだね!」
「そりゃあ、僕だけあそこで置いてけぼりとかやだし」
「さすがね、精霊が使ってる魔法を見ただけで再現するなんて。そんなこと多分おじいちゃんくらいしかできないわよ」
へぇー、アブソリュートはできるんだ。さすが吸血鬼の真祖って肩書きは伊達じゃないのかな。
「レン、あれをやろう! 折り鶴たちがやってるやつ!」
そう言って、ルカはあの折り鶴たちが使ってた蹴鞠みたいなのを持ってくる。
「おー! いいよ、久しぶりにそういうのも楽しそうだ」
「まぁ、あれくらいなら酔うこともなさそうね」
「よーーし! 負けないぞ!」
厳格なルールとかあんのか知らないけど、まぁ小学生の時とかにやったノーバウンドでサッカーボールを蹴り合うみたいなやつでしょ、それか中世の日本貴族たちがやってたやつ。
「エリュは……」
「…………ん、エリュはレンとやる」
まぁ、動きにくくはなるけどそこまで支障はないからいいか、このままで。
「じゃあやるよ! くくくっ、我の力とくと見るがいい! そーれっ!」
ルカが蹴った玉が僕のところに山なりに飛んでくる。
「ほいほい、エリュ〜」
「…………ん!」
僕は、それをエリュを前に出して蹴ってもらう。僕とエリュは一心同体だからね。
エリュが蹴った玉は再び山なりに飛んでクルアのところに飛んでく。
「いちっ、にっ、さんっ!」
クルアは胸トラして、トリッキーにボールを蹴る。
なかなか器用だ、きっと華憐やルカみたいにささやかな胸だから出来るんだろう。
「レン? 何考えてるのかしら?」
「ひっ……な、なんでもないよ?」
ちらっと胸に視線が行っただけなのに僕が考えてることが分かるの? やめようやめよう、こういうのはそっとしておくにかぎるね。
玉はクルアから華憐に飛んでいく。
「いくよー! せーーのっ! あれ?」
華憐がいきよいよく蹴ろうとしたがその足は宙をける。
まぁ、不器用の権化が華憐みたいなものだからね、玉を空振るなんて半ば予想出来たよ。
「あぁぁぁ……」
「しっかりと期待を裏切らないなぁー」
「まぁ、カレンだものね」
「カレンだから仕方ないよ」
うん、やっぱりクルアとルカもこうなることを予測してたみたいだ。
「あれ? キュウちゃん?」
「ヒィィィーーン!」
と、思ったらいつの間にかきゅうりが華憐の下の方にいて、玉を持っていた。
「ぐへぇっ!」
そしてあのきゅうり何かの魔法でも使ったのか、風を纏った超速球の玉を本当になんか恨みでもあるのか顔面にクリティカルヒットさせてきた。
「…………ほーい、ほーい」
僕が顔でトラップしたのをエリュが器用にリフティングしてる。意外とうまいな。まぁ、そんなことよりも……
「エリュ、それ貸して。あと、少し捕まっててね」
「…………ん」
あのきゅうり、やり返してやる! 僕だって同じことできるんだからな!
僕は、玉を天高く蹴り上げて、自分もジャンプ。そのまま、あのすまし顔のきゅうりの馬に向かって、風の魔法を乗せながら思いっきり撃ち落とす!
「く〜ら〜え〜っ!!」
玉は凄まじい速さで、きゅうりに向かって飛んでいく。
「おおっ! 超次元サッカーだ!」
「相変わらず子供っぽいわね」
「いいな! 後で私もやってみよ!」
ふんっ、この速さいくらあのきゅうりでも避けられまい!
「ヒヒイィィィン!」
が、キュウはまた何か魔法を使って思いっきり風をぶつけて玉の威力を相殺した。
「なっ……」
「…………むむ、あの精霊もなかなかやる」
それから、僕&エリュ対華憐&キュウ対クルア&ルカで超次元蹴鞠を楽しんだ。




