132話 シュテン
◇◇レンside◇◇
「むぅ? ぬしらからはわらわと同じような気を感じるのぅ」
そう言って、僕とエリュに視線を向けてくるシュテン。たぶん、僕の神気と柿ピーが融合されて誕生したから、僕の神気が感じられるんだろう。剣精霊であるエリュには毎日僕の神気を流してるから言わずもがな。
とりあえず自己紹介だな!
「僕は蓮だよ。一応その木は僕が作ったから、君と親和性みたいなものがあるんじゃないかな?」
「なるほど、つまりわらわはおぬしから生まれたようじゃな………パパって呼んだ方がいいかの?」
「いや、結構です」
「つれないのぅ」
いやいや、まぁ確かに僕の神気から生まれたなら父親みたいな存在だろうけど、アルカのときの二の舞になるし、大きな酒瓶を持った幼女とか僕の教育方針を疑われちゃうよ!
僕は子供ができたら健全に育てるからね!
「それで、ぬしらは?」
シュテンは次にエリュとクルアとミーナに視線を向ける。
「…………私はエリュ。レンの剣」
「ほぅ、おぬしも精霊か、わらわの先輩かの?」
「…………ちがう、シュテンとは生まれ方が。あなたの先輩は他にいる」
「そうなのか、それは楽しみじゃの」
シュテンがエリュが精霊ってことに気がついたってことはやっぱり精霊どうし感じるものがあるのかな? でも、エリュもアルカもシロ様とカレールのことは精霊って気づいてなかったみたいだし。
「私はレン様の正妻のミーナです」
「あら? 何を言っているの? 抜けがけするなら後で覚悟しておきなさい? 私はクルアよ」
相変わらずなミーナの挨拶だけど、クルアの冷たい視線が少し怖いね。こういうのはほっておこう、触らぬ神に祟りなしだよ。
「くくくっ、随分愛されてるようじゃのうパパは」
「あーもー、パパって言うのはやめい! 変な誤解招くから!」
ていうか、シュテンが僕の事をお父さんと認識するなら、シロ様とカレールも僕の子供みたいになるじゃんか! 嫌だよ! なんかバツ三みたいでお母さんの存在がないから嫁から逃げられたみたいじゃん、しかもカレールなんて僕より見た目歳上だし!!
却下、却下! ここは口酸っぱく言っておこう。
「それで、さっき自分のことをこの木に宿る準精霊って言ってたけど、自分のことも僕のことも分かるのか?」
「ん? うむ、そうじゃ。わらわは誕生した時から自分が準精霊だということを理解しておる。そして、おぬしの気も感じられるからな、なんとなく分かるのじゃ」
うーーん、シロ様の時は本人の名前も分からなかったみたいだし、どうして生まれたのかも分からなかった。
カレールの時は、本人の名前は分かってたし、この前の話でなんとなく自分が準精霊であることも分かっていて、カレーのルーの木が僕のものって言うことも感じていた。
そして、シュテンは自分の存在もはっきりと分かっていて、僕から? なんか言い方に語弊があるような気がするけど、僕から生まれたということも分かってた。
やっばり、この認識の差は木を植えた順というか、僕が神気という力をしっかりと制御出来るようになったからってことなんだろうな。それが一番辻褄が合う。
「そういえば、シロは東洋龍、カレールはガネーシャになれるのよね? あなたは何になれるのかしら?」
クルアが疑問に思ったのかそんな質問をする。
「うむ。わらわも本当の姿があるぞ。わらわは鬼になれるな」
「へぇ、鬼ね。見た目からは想像できないわね」
まぁ、確かにこんな幼稚園児みたいな可愛らしい背格好からは想像できない。
「くくっ、そうじゃろう。わらわ、可愛いもん」
でも、持ってる物がなぁ……でっかい酒瓶だから、なんというかギャップが……。
「ウクッウクッ……ぷはぁ! やはり、お酒はうまいのぅ!」
ごくごくと、抱えた酒瓶を傾けて恍惚とした笑みを浮かべるシュテン。
うーーん、やっぱり絵面的に不味い気がするんだけど。
「シュテンちゃん、私にもください!」
まぁ、そんな美味しそうな顔で飲まれると、お酒が大好きなミーナとしてはやはり飲みたくなるものみたいで、
「嫌じゃ~、これはわらわのお酒だもん。誰にも渡さん」
「え~、いいじゃないですか! そんなに大きい酒瓶なら沢山あるんでしょう?」
「い~や~じゃ~!」
「ちょっとだけ! ちょっとだけでいいです! ね? 先っちょ! 先っちょだけでいいですから!」
ギュッと大事そうに抱えて、断固拒否するシュテンと、そのまわりを怪しい言葉を呟きならがウロウロするミーナ。やっぱり危ない絵面ことこの上ない。
「あ、そうだ、ちなみにシュテンは何か出来ることはあるのか?」
シロ様はお米全般、カレールはカレー全般の天才だから、まぁ予想はつくけど一応聞いておこう。
「うむ! わらわは、『蒸留:アルコール』『度数操作』というスキルがあるのぅ。それと、お酒作りが得意じゃな」
まぁ、そうだよね。つまり、シュテンはこんななりをしてるけどお酒のスペシャリスト、天才ってことなんだろう。また、僕の一つの才能が無能になった……。
「まぁ、いいか。それじゃあ、とりあえずシュテンの部屋を整えなきゃだし、巨木な我が家に戻ろう」
「そうね、ここじゃあ、どんどんほろ酔い気味になっていくし、カレンたちにも説明が必要でしょうし」
「華憐に説明かぁ、こういうことには結構厳しい華憐になんと説明すれば」
「まぁ、それは頑張りなさい! ミーナ、エリュ、シュテン! 戻るわよ!」
華憐、結構常識人だからなー。アホだけど。法律みたいなのとかきっちりかっちりだからなー。アホだけど。
「うぅ……シュテンちゃん、飲ませてくださいよ!」
「嫌じゃったら! これはわらわだけのお酒じゃ!」
「…………ん、ミーナしつこい」
「そうじゃそうじゃ! 姉々、もっと言ったれ!」
「…………ん、新しい妹みたい。この悪女は姉々に任せる!」
「姉々優しい! あとで、わらわのこのお酒を飲ませてあげるのじゃ!」
「むー! 誰が悪女ですか! しかも、エリュちゃんだけずるいです!!」
うーーん、確かに幼女からお酒を奪おうとするミーナは悪女なのかな? いや、酒に溺れる幼女を逆に救い出そうとしてるのか? でも、あの顔はただ飲みたいだけか。
エリュもシュテンもお互い精霊どうしだからか仲がいいみたいだし、実はあんまり問題もない?
いやいや、さっきみたいにお酒を誰彼構わず飲まそうとするのは良くないか、年少組とか中学生ズとかに。まぁ、そんなことより、
「おーーい! お前ら早く来いよ!」
「あっ! はーーい! レン様、いまいきまーす!」
「…………ん、シュテン大丈夫?」
「あわわっ! もう少しゆっくりなのじゃ!」
僕に呼ばれると、忠実なワンコみたいに走ってくるミーナと、大きな酒瓶を抱えているためなのか、それともお酒を飲んで酔っているからなのか、千鳥足みたいにフラフラして歩いてくるシュテンとそれを支えるエリュが来るのを待ってから、僕たちは巨木な我が家へ戻った。
■■
「おぉう、遠くからでも圧巻だったが、近くで見るとまた存在感が凄いのぅ。なぁ? パパよ?」
巨木な我が家まで戻ってきてシュテンが僕の腕の中でそんなことを言う。というか、
「だから、パパはやめろっちゅーに」
「なんじゃ? 照れなくてもよかろうて」
「いや、別に照れてないけどさぁー」
なんていうか、また余計なトラブルを産みそうだからね?
「…………けど、今のこの様子は完璧に保護者」
「そうね、誰がどう見ても親子みたいよ」
「なら、私がお母さんですね!」
ほら、エリュとクルアとミーナの三人までそんなこと言い始める。でもまぁ、確かに客観的に見れば僕も親子に思うかも知れない。
今、僕はシュテンを抱っこしてる。シュテンは自分と同じくらいの大きな酒瓶を持ってるから上手く歩けなくて、かと言って酒瓶を持ってあげようとするけど一切手放そうとしないから、仕方なく僕が抱えることにした。
「ミーナがママは嫌じゃのぅ」
「な、なんでですかっ! 解せません!!」
ミーナ、アルカにも断られてたよね。嫌われてるわけじゃないだろうけど、僕もまぁ、もしもミーナがお母さんはちょっと遠慮したいかも。
それに、もし無理やりでも母親を決めるとしたら、僕の神気と柿ピーで生まれたんだから、柿ピーをくれたあまちゃんってことに………やめよやめよ、なんかろくなことにならん気がする。
「あ、蓮くん! お酒の木には誰かいましたか? その子は?」
「予想。精霊?」
巨木な我が家の中に入っていつも休憩する時の溜まり場みたいになってる食堂に行くと、先客で華憐とアルカがいた。
「アルカが正解。この子は酒の木の準精霊、シュテンだよ」
「わらわはあの木に宿る準精霊。シュテンじゃ、よろしく頼もう」
シュテンを椅子の上に座らせてやると、身長が低くて高さが全く合わなかったからか、椅子の上に立って胸を叩いて自己紹介をする。
「この子が……って! あれお酒の木だよね?! こんな小さな子が?!」
「そうじゃ!」
「よ、幼女じゃん! 非合法だよ蓮くん!」
「いや、そんなことを言われても、生まれちゃったものはしょうがないじゃん」
そもそも、なんで幼女なのか僕が聞きたいんだよね。あのお酒の木を植えた時考えたことは、とにかく美味しいお酒が飲みたいって事だから、具体的な姿見たいのはなにも想像してないんだよ。
まぁ、異世界なんだから、幼女な豪酒がいてもいいとは思うんだけど、ってことを華憐に説明したんだけど。
「そ、それでもこんなに小さい子が酒瓶抱えてるのはなんだか……」
言いたいことは分かるけどね。なんだか、良心が痛むというか、大人としてこのままでいいのかというか。
「…………アルカ、私たちの妹」
「疑問。いもうと?」
「うむ! わらわは姉々の妹なのじゃ! 同じ精霊だからの!」
「なるほど。私はアルカ、カレンの銃。エリュの妹なら、私の妹ということになる、これからよろしくね」
「む? 確かに、おぬしからも同種の感じがするのぅ。分かった、アルカ姉々じゃな!」
「ズキュン!。妹……可愛らしい」
僕達が話してる間に、精霊どうしは仲良くなったらしい。
アルカもシュテンを可愛がってるみたいだしね。
「ねぇ、シュテンちゃん」
「なんじゃ?」
すると、華憐がシュテンに話しかける。
「その、酒瓶ずっと持ってるの?」
あー、そこが気になったのか。確かに話してる時もずっと持ってるもんね。けど、その話はあまりしない方が……。
「そうじゃな、わらわの宝物じゃ!」
「でも、シュテンちゃんにはまだちょっと早いんじゃないかな? だから……」
優しいお姉さんな笑みを浮かべてそう言って、華憐がシュテンの酒瓶を取ろうとするが、
「ダメじゃ! 『蒸留』!」
「へ? あううぅぅぅぅぅ……」
それよりも先にシュテンが動いて、華憐がぶっ倒れた。言わんこっちゃない。
きっと、シュテンにはミーナと同じでお酒を奪う悪女に見えたんだろうな。
「う~~ん、れんくぅん……」
倒れた華憐は…………酔っ払ってるな。お酒超弱いもんね。
「はぁ、シュテン悪いな。別に華憐は悪いやつじゃないから。ただ、ほら自分の背格好とお酒が合ってないのもわかってるだろ?」
「まぁ、それは分からんでもないがのぅ」
「だから、心配しただけだら、許してあげて。それで、その酒瓶は持ってていいけど、今の攻撃とか他の子供たちにお酒をあげるのはダメだからな」
「うむ! 分かったのじゃ! パパ!」
うーーん、だからパパはやめて欲しいんだけどなぁ……。




