126話 コロッケ、包容力を覚える
◇◇コロッケside◇◇
「わあぁぁぁ! 逃げろおぉぉぉ!」
今、俺はいつもみたいに子供たちと集まってカレンねーちゃんに教えて貰った鬼ごっこっていう追いかけっこの遊びをしてる。
普段はみんなの手伝いをすることが多いけど、レンにーちゃんは俺たち子供にはあまり働かせたくは無いのか、大人のみんなよりも休みが多いんだ。俺らはもう少し手伝ってもいいんだけど。
でっかい木の家全体で鬼ごっこをするのは、ここ最近の俺たちのマイブームだ。
「待てーー!」
今の鬼は折鶴のお武とお江の兄妹だ。絶対に逃げ切ってやるぜ! でも、あいつたまに空飛ぶからずるいと思うんだ。
それでも、俺はクマ、それなりに走るのは得意だ、そう簡単に捕まるわけにはいかない。
「こらぁ! 家の中駆けずり回って汚すなスラ!」
よく走り回ってるとスライムのルンも追いかけてくることがある。
ルンからも逃げる必要があるんだ。ルンも身長は俺たちと同じくらい、つまり子供だから本当はもっと遊びたいのかもしれない。
けど前にそう思って、レンにーちゃんに言ったら「子供扱いするなスラ!」って言われて、ルンにスライムで拘束されてる姿を見たことがある。ルンは素直じゃないのかもしれない。
「ふぅ……ふぅ……ここなら、誰かが来てもすぐに気づけて逃げやすいはずだ」
俺はえれべーたーを使って空中庭園の所にやってきた。ここなら見晴らしがいいし、えれべーたーがやって来てもすぐに分かる。
完璧な布陣だ、負ける気がしない!
「ブン……ブブン……ブンブン」
しばらく空中庭園の原っぱに身を隠していると、どこからかそんな音が聞こえてきた。
「なんだなんだ? なんの音だ?」
普段はここでそんな音はしない。不思議に思って音の方を見てみると、
「ブンブンブン………ブーーン……」
再び音が聞こえて俺が擬人化を解いた時の本当の姿の時位の大きさの蜂が飛んでいく所だった。
「あれは、チミねーちゃん?」
確か、最近エリュシオンに来てカレンねーちゃんに名前を付けてもらった人だ。
そういえば、レンにーちゃんがなんか大きな木箱みたいのを作ってたのをピィナに運ばせてたっけ? じゃあ、仕事をしてたのか! チミねーちゃんってなんの仕事してんだ?
「ん〜〜……ん? スンスン……甘い匂い……」
チミねーちゃんがなんの仕事してるのか考えてたら、風に乗ってなにかそそるような甘い香りが漂ってきた。
「うんー、上からだな!」
俺はその甘い香りに導かれるように空中庭園の階段を登る。この階段もこの前レン兄ちゃんが作ってたな! でも、どこに繋がってるんだ?
まぁ、そんなことは今はいいや、それよりもこの香りはこの階段の方からだ!
「ここは………枝か?」
階段を登った先にあったのは、でっかい木の枝みたいだ。たぶん、この家の枝、こんなところがあったのか! もうこの家は十分探索したと思ってたのに!
「匂いはこの先か! 柵とかないから落ちそうだな……ふぅーー………がるるる」
俺は、深呼吸すると擬人化をといて本来の鋼のクマの姿になる。
木登りとかは得意だけど、万が一のことを考えたら本来の姿の方が運動能力が高いから擬人化状態よりはいいと思う。
持ち落ちそうになっても、爪を引っ掛けられるからな!
「クンクン……」
嗅覚も擬人化状態よりもこっちのほうが高い。だからさっきよりも敏感にこの甘い匂いを嗅げる。方向は向こうだな!
俺はまるで迷路のように伸び乱れる枝を渡りながら甘い匂いを辿っていくと、
「がるがる?」
外側が黄色と茶色でしましまのなにか得体の知れない大きな物体が現れた。
甘い香りはそこから濃く漂ってきてる。
近づいてみると、入口見たいのがあった。
「………ふぅ、なんだここ? すごくいい匂いだ!」
中に入って、擬人化をする。
物体の中は甘い匂いで充満されてて、すごく食欲をそそられる。外から見た感じはしましまの得体の知れない物体だったけど、中は木で出来てるみたいだ。
「こ、これは!」
そして、見つけた! 甘い匂いの正体!
部屋の隅の方に大きなツボみたいのが置かれていて、天井からぽたぽたと琥珀色の液体が垂れている。
「ハチミツだ!」
この前、レンにーちゃんが食べさせてくれたけど、すっごく美味しかったのを覚えてる! ハルマキとポテトも夢中になってたヤツ! それがこんなにも!
俺はなにかに誘われるように、そのハチミツのツボに手を伸ばしていた。
「お〜〜、美味い!」
一口食べたらもう止まらなかった。洗脳されるように、ツボに頭を突っ込んで身体がベタつくのも気にせずに夢中でハチミツを舐めてく。
だから、何かが接近してることに気が付かなかった。
「ブーーーーーーーーーン」
「ちゅぱ……ちゅぱ……ん? なんだ?」
背中になにか鋭いものが当てられて、振り向くとそこには尖った槍を手にした大きなハチが俺に槍を向けていた。
「え………」
その視界を最後に俺は意識を失った。
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「………ん、うん?」
「おや、目を覚ましましたか?」
ゆっくりと目を開けると、小さなティアラを被ってハチミツと同じ琥珀色の髪色のお姉さん、チミねーちゃんが俺を覗き込んでた。
「ここは……」
頭が柔らかいのに乗ってる。これは膝枕だ、チミねーちゃんが? ここはソファみたい。
あれ? なんで俺チミねーちゃんに膝枕してもらってるんだ? 確か、お武達と鬼ごっこしてて、空中庭園に来て、甘い匂いがして……あっ! ハチミツだ! それで舐めてたら……。
そこで、ブーーンと虫の羽音が聞こえてきて、そちらに視線を向ける。
「うわぁっ!」
そこに居たのは、最後に見た槍を俺に刺してきたハチがいた。びっくりして状態を勢いよく起こす。
だけど、なぜか力がゆるゆると抜けていって、再びポフンと、チミねーちゃんの膝の上に倒れる。
「大人しくしといてね? わたくしたち、ジャイアントハニービーの針は毒がついてます。コロッケくんはわたくしの部下に刺されてさっきまで倒れてたんですから安静にしてなさい」
チミねーちゃんはそう言って俺の頭を優しく撫でてくる。なんかカレンねーちゃんみたいに子供扱いされてる気分だ。けど、カレンねーちゃんと違ってなんか落ち着く。
俺を刺したっていうチミねーちゃんの部下? に、視線を向けるとなにやら作業みたいなことをしてて、しかも四匹居た。
「あの子たちはグノーシスビー、わたくしの召喚した従者です。これでもわたくしクイーンなんですよ」
すると、チミねーちゃんが軽くティアラに触れながら説明してくれた。
「あの子たちには防衛本能があって、ここに近づいて危害を加える者には攻撃する習性があるんです。コロッケくんはそれで刺されたの。それで、コロッケくんはどうしてここに来たの?」
チミねーちゃんは優しく微笑むように聞いてくる。なんか、落ち着く雰囲気だ、そういえばレンにーちゃんがチミねーちゃんは包容力があるとか言ってたっけ、それかな?
「えっと、その、甘い匂いがして……それで、近づいたらハチミツがあって、我慢できなくて……」
「そう、わたくしのハチミツは美味しかった?」
「おう! すごく美味しかったぜ!」
「うふふ、それは良かったです。でも、勝手に食べちゃダメですからね?」
「わかった。ごめんなさい」
「はい、しっかりと謝れてお利口さんです。今度は勝手に入ってきたらダメですからね」
俺が正直に話すと、チミねーちゃんは怒ることも無くそう言って、俺の頭をまた撫でてくれる。
すげー! これが包容力? ルンとかカレンねーちゃんとかだとすごく怒られるのに! それともクルアねーちゃんが言ってたオトナノヨユウってやつかな?
それから、チミねーちゃんと色々な話をした。さっき疑問に思ったチミねーちゃんがなんの仕事をしてるのかとか。
あとは、レンにーちゃんとカレンねーちゃんに一番最初に会ったのは俺だから、二人のこととか。
「なら、カレンさんとミーナさんとクルアさんとルカさんはレンさんのことを好いてると?」
「うん。けど、レンにーちゃんには好きな人がいるんだって」
「あら、まぁ、確かにレンさんは優しそうな方だものね」
「おう! レンにーちゃんは優しい! いつも俺たちと遊んでくれるからな!」
「そうね、レンさんがすごく信頼されてるのが分かったわ。まだわたくしはここに来て日が浅いですから、よく知らないことが多くて、コロッケくんが話してくれて良かったわ。そろそろ起きれる?」
そう言われて、俺はゆっくりとチミねーちゃんの膝から頭をあげる。なんだか、カレンねーちゃんにやってもらった時より、落ち着けた気がするのはなんでだ?
「うん、大丈夫みたいだ!」
「そう、良かった。なら、もうすぐ夕飯でしょう? もう戻りなさい。わたくしはもう少し仕事をしてから行くから」
そう言われて、扉の外を見てみると、いつの間にそんなに時間が経ったのか夕日が沈むところだった。
「分かった! チミねーちゃん、またここに来てもいいか?」
なんだか、ハチミツじゃなくてチミねーちゃんともっと話したい気分だったからそんなことを聞いてみる。
「えぇ、いつでもいらっしゃい。ただし、勝手にハチミツを食べたらダメだからね?」
「おう! もう勝手に食べたりしない!」
「いい子ね、それじゃあ先に戻ってなさい」
そう言ってチミねーちゃんにもう一回撫でられてから俺は来た枝を辿って空中庭園に戻ってきた。
「あっ! コロッケいたぞ!」
「コロッケ、どこに行ってたの?!」
えれべーたーに乗って、いつもご飯を食べているところにくると、お武とお江がやってきた。そういえば、鬼ごっこしてたんだっけ? 忘れてた。
「えっと、チミねーちゃんのとこ行ってたんだよ」
「チミさん? なんかコロッケ、甘い匂いがするな」
俺は、二人にチミねーちゃんのことを話した。なんかすごく癒される感じの人というか、包容力? がある人って!
すると、首筋にヒヤリとしたものが触れる。
「ヒッ?!」
冷たさと、なにか危機を感じて変な声がでた。
「コロッケ、今ままでどこいってたスラ? それと、なんてこんなにベタベタスラか?」
振り返ると、腕をスライムにして俺の首を掴んでるルンがいた。
そ、そういえば、駆けずり回るなって追いかけられてたっけ………それに、ルンはレンにーちゃんの言うケッペキショウ? だから、すごく汚れるのを嫌う。それで、俺がベタベタしてるのが嫌なんだろう。そして、怒ってる時は容赦がなくて怖い。
「え、えーと……ハチミツがあれで、それで……ごめんなさい!」
「今すぐ、お風呂に入ってくるスラ!!!」
「は、はいっ!」
俺はルンに急き立てられてお風呂に向かった。
ルンにはチミねーちゃんみたいな包容力が足りないと思うんだ!




