124話 神社と蛇
◇◇レンside◇◇
「さてと、次は仙人の神社作りかな」
ピィナが巣箱を上に運ぶのを見届けたあと、もういちど下に降りてきて、滝壺の湖のところにあるかつて橋をかける時にコロッケが飛び込み台が欲しいと言った時に作った飛び込み台のところにきた。
「神社なんてどうやって作るんですか?」
「ん? それは、魔法でちょちょいっと」
巣箱は初心にかえってDIYの魔法禁止で作ったけど、さすがに神社となると、修復ならともかく一から手作りは僕には無理だ。
だから、昨日のうちに紙に日本の神社の模型図みたいのを書いてあるから、それを使って『想創』でパパっと作っちゃおうと思う。
「でも、その前にまずは神社を建てる土台、陸を作らなきゃね」
「それも魔法でですか?」
「そうだね。だから、ミーナはまた木材を運んできてくれる?」
「分かりました! 任せてください!」
ミーナはそう言って、再び棟梁ミーナになって木材置き場に向かっていった。
「それじゃあ、まずは……『早着替え』!」
僕は、滝壺の湖に潜るために水着に着替える。
正直、絶対に寒いから潜りたくないけど……。
「エリュはここで待ってて」
「………ん、温かいお茶を入れて待ってる」
さすが僕の愛剣エリュ、僕が寒いのが大の苦手なのを知ってて気が利く。
「それじゃあ、行ってくる」
そう言って、飛び込み台の縁に足をかける。
………絶対に冷たいよなぁ……嫌だなぁ……。
「……………」
「…………ん? どうしたの?」
「………いや、やっぱり寒中水泳は趣味じゃないなぁって」
「…………うるさい、はやくいく!」
「え? ちょっ! 待って待って! 押さないで!」
「…………待たない!」
「わぁっ! エリュのバカヤロー!」
僕がしり込みしていると、後ろからエリュがグイグイと押してきて、抵抗虚しく僕にとっては寒々しい水の中に落とされた。
前言撤回、僕の愛剣気が利かないや……。
うぅ……冷たい……早く陸上げてお風呂に入ろ。
しのごの言っても仕方ないから、とりあえず仕事を終わらせることにした。
潜っていくとすぐに水底につく。
ここは、リザードマンたちに任せている養殖のところの反対側で水深が四、五メートルくらいの浅いところだ。
僕は水底に手をついて、口を開けられないため無詠唱で魔法を唱える。
(『隆起』)
すると、手を置いた水底がグラグラと揺れ、ゆっくりと地面が盛り上がってくる。
「ふぅ……やっぱり魔法は偉大だなー。さぶっ!」
盛り上がった地面と一緒に僕も地上に戻ってきた。僕を中心に広く地面を隆起させたから、これなら神社と軽く庭くらいなら作れる。
いくらまだ冬じゃないと言っても、僕にとってはこんな時期に冷水に浸かるなんて正気の沙汰じゃない所業だと思う。
「…………レン、あったかいお茶」
「ありがとう」
飛び込み台のところまで戻ってきて、これまた魔法で身体を乾かして元の服に着替えて、エリュの入れてくれたお茶を飲む。はぁぁぁ……温まる……。
そうやって温まっていると、どこからか「わっしょい! わっしょい!」って、声が聞こえてきた。どうやら、棟梁ミーナが戻ってきたみたいだ。
「レン様ー! 材料持ってきましたー!」
「ありがとー」
「地面が出来てますね」
「うん。寒いの我慢して潜ってきたよ……」
「なるほど、だから少し震えてるんですね。レン様寒いの苦手ですもんね。私がギュッでして温めてあげましょうか?」
ミーナがそんなこと言って両腕を広げてくる。
まぁ、確かに人肌が恋しいけど……。
「今は遠慮しておくよ、まずはやることを終わらせちゃおう」
「もぉ、甘えてくれてもいいですのに」
僕がそう言うと、渋々両腕を下げてくれた。
とりあえず、まずは隆起させた陸まで繋げる橋をかけよう。
橋は前に作ったのを覚えてるから、材料さえあれば設計図なんて書かなくとも『想創』で作れる。
さっそく飛び込み台のとこからパッと繋げて陸に行けるようにする。
「さて、次だなー」
次は神社を作る。
僕は『宝物庫』から昨日書いた設計図と釘とかの材料、あとはミーナが持ってきてくれた木材を神社の建設する場所にまとめて置く。
「じゃあ、みんなは少し離れてて」
では、さっそく作っちゃおう!
「『想え 強く深くどこまでも新たな姿 創れ 他と他が交わるその形……… 想創』」
今回は神社なんて作るの初めてだし、失敗も出来ないから詠唱省略魔法じゃなくてしっかりと詠唱をする。そっちの方が当たり前だけど成功率が高い。
そして、木材たちがぐにゃぐにゃと動き始め、その姿を日本の神社へと変えていく。
「ふぅ、できたかな?」
「これが神社って建物ですか?」
「…………素朴な感じが落ち着く建物」
ミーナとエリュは神社なんて見たことがないもんね。本当は水の上に立てるから厳島神社みたいなのがいいかなって思ったんだけど、さすがに大きくて無理だった。
そこで、仙人……シャワン爺さんは、幻獣種で四神の玄武さんだ、だからそこまで大きくない京都にある玄武神社をモデルにして設計図を書いた。
「お〜〜、こ〜〜れ〜〜は〜〜な〜〜ん〜〜で〜〜す〜〜か〜〜い〜〜?」
さっそく、神社の中を確認してみようと思ったら、滝壺の湖から亀がでてきて、キラキラと光ったと思ったら亀の甲羅を背負ったおじいちゃんが現れた。
「仙人、これが昨日言った神社だよ」
「ほ〜〜え〜〜、り〜〜っ〜〜ぱ〜〜だ〜〜な〜〜」
相変わらず、喋るのが遅いこと遅いこと。だが、なんか待ってあげようという気持ちになるから不思議だ。
「じゃあ、ちょっと中を確認しよう! 仙人もここに住むんだから一緒に行きますよ」
僕はエリュとミーナと仙人を連れて橋を渡って神社の砂利の敷地に足を踏み入れてく。
「お〜〜う〜〜、わ〜〜か〜〜い〜〜子〜〜は〜〜は〜〜や〜〜い〜〜な〜〜」
…………そうだった、仙人は歩くのもすっごい遅いんだった。思ったんだけど、仙人に華憐の精霊のこなすの『遅動』のスキル使ったらどうなるんだろ、今度やってみようかな。
仙人を待ってたら日が暮れちゃうから、僕が背負うことにした。甲羅が少し重たいけど、まぁ背負えなくはないから。
「あ〜〜り〜〜が〜〜と〜〜の〜〜」
「いえいえ、気にしないで。っと、仙人、ここが一応入口で仙人が水中に出る時と上がる時のスロープだよ」
お礼を言ってくれる仙人をつれて、神社の裏に回る。
そこは緩やかな坂になっていて、お年寄りに優しい道だ。坂の上には扉があって、仙人の家に入れるようになってる。
神社だけど、一応は仙人の家として作ったものだから、橋から表はお賽銭箱や鈴があって、裏は一人暮らし用の部屋みたくなってる。
「一応、必要最低限の家具は置いておいたから、なにか他に必要なものがあったら言ってね」
「す〜〜ま〜〜ぬ〜〜な〜〜、じゃ〜〜が〜〜こ〜〜こ〜〜な〜〜ら〜〜ス〜〜ネ〜〜ア〜〜も〜〜だ〜〜せ〜〜そ〜〜う〜〜じゃ〜〜」
ん? ス〜〜ネ〜〜ア〜〜? ってなんだろう?
仙人の相変わらずなゆっくりトークに聞き慣れない単語を聞いて首を傾げる。
「れ、レン様! 蛇っ! 蛇がっ!」
「…………レン、ニョロニョロ出てる」
すると、ミーナとエリュがなんか騒ぎ出した。
え? なに?! ヘビ?!
「二人とも蛇がいるの? ひぃっ……」
僕がどこにいるのか聞こうと振り向いた時、首になにかひんやりとした少し固めな感触がした。
「シャワンさんの甲羅から蛇が出てます!」
「…………お、大きい……」
え?! 甲羅から?! 仙人背負ってるから僕の後ろだから見えないんだけど!
軽くパニックになってると、ミーナとエリュの言う蛇がニョロニョロと僕の身体に巻きついてきて、地面にスルスルと降りてきた。
「確かに、大きいな……」
僕はべつに蛇は苦手じゃない、さっき変な声が出たのはひんやりとしたから!
その蛇は、全長四メートルくらいあって十分大蛇と呼べる大きさの蛇だ。そして、仙人が少し軽くなったから本当に甲羅の中にいたんだろう。
そして、その蛇はキラキラと光、ゆっくりと人の形になっていく。
確かに仙人は玄武って言ってたから、玄武と言えば蛇とセットの聖獣だ。昨日気にはなったけど、それらしい動物は見当たらなかったからいないんだと思ってたけど、まさか仙人の甲羅の中にいたとは……なぜ?
そして、蛇のキラキラが落ち着いたあと、そこには濃く青みかがった綺麗な髪の女性が現れた。
「お〜〜、や〜〜っ〜〜と〜〜で〜〜て〜〜き〜〜お〜〜っ〜〜た〜〜わ〜〜い〜〜」
「シャワン、なんで背負われてるんです?」
あ、そうだった。ボーーっとしてたから仙人を背負ったままだ。
とりあえず、僕は仙人を下ろす。
「レ〜〜ン〜〜さ〜〜ん〜〜、こ〜〜の〜〜む〜〜す〜〜………」
「あぁ、シャワンの喋りは遅いんですから、私が自分で話すよ」
仙人がたぶんこの蛇の女性を紹介してくれようとしたんだろうけど、女性に手でせいされて止められた。仙人、ちょっと悲しそう……。
「ゴホンっ、私は玄武のスネーアです、挨拶が遅れてすみません。昨日は少し眠っていて……」
女性はスネーアさんって名前のようだ、スネアじゃなかったんだね。仙人が名前を言う時、名前をのびのびで言うから分かりにくい。とりあえず僕も名乗ろう。
「えーと、雨宮蓮です。一応ここのリーダーです」
「ミーナです。レン様の正妻ハンターです」
「…………エリュシオン。レンの剣」
なぁ、正妻ハンターってなんぞや? まぁ、文字的に分からなくもないけど、深くは追求しないでおこう。
「一応昨日の夜にシャワンから聞きました。なにやら、うちのシャワンの面倒を見てくれるようで」
「えぇ、まぁ、この場所が世界の中心とかなんとか」
「はい。だから私としても助かります。ありがとうございます」
「それで、今まで何を?」
「え、えーとですね、私、恥ずかしながら実は……」
それからスネーアさんはなぜ仙人の甲羅の中にいたのか教えてくれた。
スネーアさん、実は蛇なのに水を泳ぐのが苦手らしい。それで、どちらかと言うと水の中の方が好きな仙人の甲羅の中にいたのだとか。
なら仙人だけ水に入ってスネーアさんは外に出てればいいのでは? って思うものだが、仙人とスネーアさんは二人で玄武という幻獣であるため、一定の距離は離れられないそう。
なんとも不便なもんだ。
だから、水の上にあるこの神社は仙人が水中に潜っても引っ張られることなくいられる為にすごく助かるらしい。
「なるほど、じゃあ仙人がここに滞在するってことらスネーアさんもここにいるってことですね」
「そういう事です。これからよろしくお願いしますね。それより、この建物はなんか落ち着きますね」
おや? やっぱり半ば神格化されている四神の一柱だからだろうか、それともこの神社のモデルが玄武神社だからかな? どこか落ち着く雰囲気があるみたい。
というか、スネーアさんもここに住むなら、もう一部屋一人部屋を増やそう。それくらいならすぐ出来るし。
「それじゃあ、仙人とスネーアさんにはここに住んでもらうので、スネーアさんも一緒に神社の確認しましょう」
「えぇ、お願いします。一応途中から聞いていたので続きからでいいですよ」
それから、スネーアさんも交えて神社の案内を続けることにした。




