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120話 アブソリュートとご機嫌取り

 


「やぁ〜、クルアよ、久しぶりじゃのう。本当にどこに行っておったのじゃ、心配したのじゃよ?」


「えぇ、まぁそれは悪いと思ってるわ、ごめんなさいおじいちゃん」


「いいのじゃいいのじゃ、無事ならそれで……はっ! もしかして、あの男になにかされたりしてないじゃろうな?!」


 そこで、僕に向かって指を指してくる僕を踏みげにした青年……じゃなくて老人、いや老害。


 クルアとルーシィのおじいちゃんこと吸血鬼真祖アブソリュート・フォン・スタッド。


「僕は何もしてないぞ!」


「歳上に向かって何たる言い方! 礼儀がなっておらん!!」


 お前が言うなぁー!! 最初に蹴りかましてきたのそっちだろう!! 礼儀がなってないのはその足だ!!


「おじいちゃん! 次にレンに攻撃したら一生口聞いて上げないわよ」


「わ、わかったわい……」


 僕と再びファインディングポーズで睨み合うアブソリュートに向かってクルアが効果抜群の口撃をする。


「クルアのおじいちゃん、すっごい若いね……ビ〇ケ的な存在なのかな?」


「本当です、私のおじいちゃんはもっとしわくちゃでした」


「久しぶりですね、クルアのおじいちゃん!!」


 アブソリュートが華憐たちに囲まれて満更でもなさそうな顔してる。


「はっはっは、そんなことないわ、最近は腰が痛くなってきてのぉ、歳はとりとうないわ」


 うっそつけ!! さっきあんなにピンピンして蹴りを打ち込んできたくせに!!


 ていうか、見た目!! 青年じゃねーかよ!! それで歳とりたくないとか世のおじいちゃん達に謝れ!!


 そう、アブソリュートの見た目はおじいちゃんじゃない、僕達と同じく高校生くらいの容姿で普通にイケメンな青年だ。


「おや? そなたはルカのお嬢ちゃんか?」


「はい、クルアのおじいちゃん、ご無沙汰してます」


「ほぅー、いつのまにかべっぴんさんになりおって! 昔と比べたら見た目も雰囲気も気配も違っていたから気づかなかったのじゃ、そうかそうか、二人はまた仲良くやっておるのか!」


「はい! クルアとレンと、ここにいるみんなで毎日楽しく過ごしてますよ!」


 クルアとルカは幼なじみだからな、アブソリュートととも昔に親交があったんだろう、厨二病もなりを潜めてるし。


「はぁ、それでルーシィ、どうしてここに来たのかしら?」


 ルカと久しぶりに会ったのが嬉しいのかキャッキャウフフしてるルーシィにクルアが声をかける。


「お姉様、えーとですね、1ヶ月くらい前でしょうか? レン様の神気をお爺様が感じ取りまして……」


 ルーシィがここに来た経緯を話してくれる。


 1ヶ月前、僕がレオと激闘を繰り広げた日にアブソリュートが僕の神気を感じたらしい。それを聞いたルーシィが僕のことを思い出して、クルアのことをつい口を滑らせてしまったところ、いてもたってもいられなくなった孫娘大好きアブソリュートおじいちゃんが準備もせずに自分の屋敷を飛び出してきたとか。


 ルーシィは父親と母親に手紙を残してアブソリュートを全力で追いかけてきたらしい。


「はぁ、さすがに寝る時以外ずっと飛び続けるのは疲れました……」


 と、へなへなとするルーシィ。


 そりゃあ、1ヶ月近く寝る時以外飛び続けるのは疲れるだろうな。


「あら? ここまで来るのにおじいちゃんの飛行速度で1ヶ月もかかるかしら?」


「いえ、おそらくかからないと思います。ただ、勢いよく飛び出したのはいいんですが、場所がわからなかったみたいで結局お爺様は私のところに戻ってきて、私が道案内したので1ヶ月もかかったのかと」


「なるほどね、ビュンビュン飛びまわる姿が想像できるわ、疲れたでしょう? 私の部屋で休んでなさい」


「はい、ありがとうございますお姉様!」


「レン、おじいちゃんとルーシィのことは私に任せてちょうだい」


「ん、それじゃあ任せたよ」


 正直、アブソリュートを家の中に入れるのは危険な気がして嫌だけど……


 僕達はルーシィとアブソリュートを連れて家に戻る。


 ルーシィは前にも来たことがあるからお鶴さんとかと挨拶をしてる。


 アブソリュートは僕ら自慢の巨木な我が家の機能性を見て「たまげたのぉ〜」って言ってる。


 青年の見た目で年寄りの口調を使うから違和感がすごい、統一して欲しい。


 あとから聞いたけど、アブソリュートの年齢は1000歳を超えているらしい。


 らしいというのは実年齢はアブソリュート本人も忘れてるとか、ただ伝承とかで出てくるのが1000年以上前であるから1000歳は超えているのは確定してるみたい。


 あの人、伝承とかになってるのか……もしかして生きる伝説的な結構すごい人?


「あら? アブソリュート教皇ではないですか、どうしてここに?」


 廊下でトーアとミライアと談笑していたアラティがアブソリュートを見て声をかけてくる。


 三人は知り合いなのかな??


「おや? お主は魔王の娘では? 確か『触手(タンテクラ)』に誘拐されたと聞いたのじゃが……」


「え?! アラティ様?! どうしてここに?!」


 アブソリュートとルーシィは困惑気味。


「はい、確かにあの悪魔に捕まりましたがレン様とカレン様に助けてもらったのです、それでここに居候しています」


「ふむ、なるほどのぅ」


「アラティ様! 魔王様はずっとお探しになってますよ! 帰らないのですか?」


 ほらー、魔王様探してるってよアラティさん。


「んー、まだいいです。もう少しここにいたいですし! アブソリュート教皇もここでの生活に慣れちゃえば帰りたくなくなりますよ、ご飯は美味しいし、お風呂は気持ちいし! それでは私はこれで」


 そう言って、トーアとミライアのところに戻っていくアラティ。


 まだ帰らんのかい!


 それより教皇ってどういうことなんだろう? 教えてクルアさん!


「クルア、なんで教皇なんだ?」


「おじいちゃんはアルメ教会のトップの一人なのよ、それで魔王とも繋がりがあるって感じよ」


 ほーん、本当にすごい人だったのか。


 アルメ教はこの世界の一番大きな宗教らしくて、その理念は『信じたいものは信じればいいじゃない』らしい。


 なんとも、適当な理念だけど要は自分と他者の信仰の自由と尊重みたいな感じ。


 特に断食の決まりとか礼拝堂に毎週参拝するとかはなく本当に自由でやってることといえば主に教会と孤児院の経営や悪霊の退治などで政治介入とかはしていないようだ。


 てか、吸血鬼なのに聖職者なのか、矛盾してない?


 その事をクルアに言うと、


「まぁ、そうね。というか教会はもともと私たち吸血鬼にとっては敵だったのよ。そこで5世紀くらい前におじいちゃんが教会に入って内部から侵略していったの、それで今はおじいちゃんがトップになって表向きは聖職者してるって感じね」


 わぁお、なんか聞いてはいけないことを聞いた気がする。


 このことは墓場まで持って行こう。


 そんなことを思ってると、ルンが来た。


「ん? その人は新しい住人……レンとエリュ汚いスラ!! そんなんで家の中に入ってくるなスラ!! 今すぐお風呂に行けスラ!!」


 あ、確かに……畑耕してた所だったからな、それにアブソリュートに踏んづけられたし。綺麗好きのルンは僕達についてる土が許せないんだろう。


「悪い悪い、今から入ってくるよ。クルア、ルーシィとアブソリュートのこと任せるからね! エリュ行こう」


「……………」


 エリュに声をかけるもムスッとして無視される。


 手を出してみるもぷいっとそっぽを向いてスタスタとお風呂に向かった。


「レン、エリュに何したスラか? この汚物が」


「いや、まぁちょっと、エリュ以外の武器使っちゃってね」


 というか、今更だけど鍬は武器なのか? 農民にとっては武器か。


「ふん、ちゃんと仲直りするスラよ」


「わかってるよ、アブソリュートに部屋用意してあげて」


「分かったスラ」


 僕はエリュの後を追いかけてお風呂に向かう。





 ………………………………………………………………





「エリュ、一緒にお風呂入ろう!」


 女湯にの暖簾を潜ろうとしていたエリュに声をかける。


「…………変態」


「いやいや、そうじゃなくて! さすがに剣状態でだよ! 神気を流せば研磨されて傷もなくなるって言ってもたまにはちゃんと手入れするのも大切でしょ?」


 僕は部屋から持ってきたガルさんにもらった剣のお手入れセットを掲げてみせる。オイルとかをエリュを貰った時に一緒に貰っていた。


 エリュは僕の方見てたけど一瞬だけチラッと考えるように視線を逸らしてこくりと頷いた。


「はい」


「………ん」


 エリュに近寄って手を出すとギュッて握ってきてエリュがロングソードになる。


 そのまま剣を片手にお風呂の暖簾をくぐった。


 とりあえず、まずはエリュを傍らに置いて自分の体を洗う。


「うわぁ……耳にまで土が入ってるよ、髪の毛もキシキシするし……あの、老人吸血鬼め! いつか絶対やり返してやる」


 泡を流す水は黄色く汚れまくっていた。すごくさっぱり感。


 さて、次はエリュかな。


 僕はエリュをとって鞘から刀身をだす。


「うわぉ、エリュも土まみれだね」


(………レンのせい)


「あはは、悪かったよ。まずはーっと、」


 とりあえず、土を落とすために布で刃を拭う。それだけでも金色の刀身が見えて綺麗だ。けど、今日はちゃんとお手入れするつもり。


「それじゃ、なにかご要望があれば言ってね」


 まずは、打粉をポンポンと付ける、だいたい出来たらそれを拭って、もう一度打粉を付ける。これを数回繰り返す。


「痒いとこありませんか~?」


 ん? これは床屋さんや美容院だな、まぁいっか。


(………ん)


 エリュは言葉少なに返事してくる、まぁ無視されるよりはよかったかな。


「ねぇ、エリュ。機嫌直してよ、僕も無理やりやったのは悪かったからさ」


(………べつに怒ってない)


 いや、嘘だね! 女の子が別に怒ってないって言うのは絶対に怒ってる時だから! さて、どうしたもんかな。


(………怒ってない、けどレンが私以外の武器を使うのはいや)


「鍬も?」


(…………うん)


 うーーん、そんな事言われてもなぁ……鍬は農具ってことにしてくれないかな?


 打粉を拭き取って刀身を見てみる。


「うん! 金ピカりんのピカピカだね! あとは……」


 剣油を取り出して、刀身に塗っていく。


 これでお手入れ終わり!


「どうですかー? 気持ちよかった?」


(………ん)


 そうか、ならよかったや。


 僕はエリュと鞘をもって湯船に向かい、湯船にエリュを付けないようにして浸かる。


「エリュ、僕の剣はエリュだけだよ、ダガーナイフも持ってるけど本当に非常事態にしか使わない、それとそもそも鍬は武器じゃない、それじゃあダメ?」


(………………いや)


 んー、なかなか強情な……


「それじゃあ、毎日今日みたいに手入れする、だから許してよ」


(………………………………いや)


 あ、なんかもうちょっとで許してくれる気がする!


 ていうか、今の僕、客観的に見ると剣に話しかけてる頭のおかしな人なんだよな。誰か来る前にエリュを説得しよう。


「エリュ、僕の剣はエリュだけだよ。ダガーナイフも持ってるけど、あれは本当に非常用。というか、エリュより万能な剣なんて僕は知らないし、エリュだから僕の命を預けられるんだよ、僕にはエリュが必要なんだ」


(…………本当?)


「本当だよ、僕はエリュが必要で大切にしたいと思ってる、だからこんなつまらないことで喧嘩したくない」


 僕は誠心誠意エリュに話しかける。


(………もう、エリュ以外の武器使わない?)


「確約は出来ないけど善処するよ」


(……………約束してくれないといや)


「わかった、約束するよ」


(………ほんとう?)


「ほんとう、そのかわり鍬とかはさ道具として扱ってくれない?」


(………むぅ、わかった。そのかわりエリュ以外の武器は使っちゃダメ、わかった?)


「わかったよ」


(………エリュのこと必要?)


「もちろん、必要だよ」


(………エリュのこと大切?)


「超大切!!」


(………えへへ)


 お? 機嫌直ったかな?


 って、思ったら剣がキラキラと光って擬人化して僕の目の前に真っ白な素肌で赤みがかった金髪の少女が現れる。


「………ワガママ言ってごめんなさい」


 擬人化したエリュはちょっと俯いて謝ってくる。僕はエリュの頭をなでなでしてあげて


「大丈夫、気にしてないよ」


「………ん、ありがとう」


 エリュは僕にぎゅっと抱きついてきた。


 よしよしと僕もエリュの頭を撫でてあげる。ちょっと甘いかな? まぁ、いっか。


「………………あ、レンのエッチ!」


 ギュッて抱きついてたエリュが離れてここがお風呂でお互い裸だったことを思い出したのか腕で身体を隠して顔を赤くする。


 僕別に気にせんのだけどね。


「………あっちむいて!」


「わかったわかった!」


 エリュが水をバシャバシャとかけてくる。僕は言う通りにエリュの反対側を向く。


 まぁ、なんだかんだエリュと仲直り出来てよかったな。


 そう思ってたら背中に小さな感触がした。


 エリュが僕の背中合わせにして座ってきた。


「エリュ?」


「………ん、エリュはレンだけの剣」


 エリュが僕の右手を握ってくる。


 僕も握り返した。


「これからもよろしくね」


「………ん、こちらこそ」


 それからのんびりと二人でお風呂につかった。

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