116話 ルカの厨二病道
「むぅーー、クルアめ、また愚弄して、我の『零眼』と『闇光の銀翼剣』のなにがおかしいと言うのだ……納得いかぬぞ」
私は昨日の夜に思いついた光と闇を自在にあやるつ双翼剣、新技『闇光の銀翼剣』をクルアにみせたら、『また、そんな変なこと考えて、まったく』っと言われた。
それでとぼとぼと部屋に戻ろうとしてるところだ。
「もしかして……かっこ悪い……? いやいやいや! そんなわけないし! ありえない!!」
クルアったら、お互い幼いときは『わぁぁ! ルカかっこいい!』って、言ってくれたのになぁ……
こういう時はどうすればいいんだろう? あ、確か、カレンが前になにかに行き詰った時は誰かに教えを乞うてレベルアップするのが王道って言ってたっけ?
「けれどなぁ、私に教えを与えられるような人なんているかなぁ……? ん?」
誰かいるかな? って思ってたら前からレンが歩いてきた。
「うーーん、あの城ってどれくらいの大きさなんだ? あんまり大きいと部屋に行くのもめんどーになりそうだなー」
「ちょうどいい人いたぁぁぁぁーー!!」
「うおっ! ルカ?! どうした?!」
私はレンに飛びついた。
「レン! いや、マイマスター!」
「ま、マスタァ? どゆこと?」
「レンの日頃の一挙手一投足からは常にあふれ出るオーラを感じる! 煉獄の黒腕、森羅万象の如き存在感! セイクリッド・ストレイドよ!」
「はい? 何言ってるかわからんけど、その二つ名みたいの恥ずいから、言うのやめて! それで、どしたの?」
「イエス! マイマスター!」
よし! レンを捕まえた!! 教えを乞おう!!
私はレンの手を取って自分の部屋に戻る。
レンは常に、困惑気味だった。
■■
「やはり、マスターは我に足りない風格を持っている! さながら割れた鏡の一片のように我を補完してくれるはず!!」
「んーと、よく話が見えないんだけど……?」
やっぱり部屋に連れてくる時にも感じた、レンにあって私に必要なもの!!
ここはレンに教えを乞うしかない!!
「我の『零眼』に欠けたもの、我のアイデンティティに足りぬもの、それをマスターは全て持っている! 故に我に学ばせて貰えないだろうか? マスターの立ち居振る舞いを!」
バサッと頭を下げて私はレンにお願いする。
「欠けたものと足りぬもの? それが立ち居振る舞い?」
うんうん!! その通り!
「我という未完成のパズルに残された一片! それこそ我が求めていたもの! まさに、運命の導きと言っていい……」
「えーと、つまり僕から何かを学びたいってこと??」
「そういうこと! 我が理想をものにするためひマスターの叡智をお借りしたいのだ!」
「んー、まぁ、それなら別にいいけど」
「うむ! 感謝するぞ! マイマスター!!」
やった!! これで私もレベルアップできる!! クルアのことを見返してやる!!
「それで、僕はどうしたらいいの?」
「マスターは冴え渡る意匠と響きを持っている! 我もそのように我が異能を披露したいのだ! それが我の望み!!」
「んー、それはべつに僕に聞かなくても……」
「いや!! マスターではなくてはダメだ!! その造形、言動、能力の表現! 我の理想に最も近いのがマスターなのだぞ!」
「えーと、そーなの? まぁ、そこまで言うなら仕方ないなぁ」
よし! 修行の開始だ!!
「くっくっく、マスターの勲等を受け我が見いだした新たな異能の表れをみるがいい! 煌めけ光! 吹きすさべ闇! 『闇光の銀翼剣』!!」
どーだ! 決まっただろう!! 見たかレンよ!
私はポーズを決めて、即興で考えたセリフを叫ぶ。
「んー、なんだかいまいちパッとせん」
えっ?! 結構自信あったのに?!
「うぅ……なにがいかんのだ……」
「そうだなぁ……ルカの理想を再現しようとするなら、まずはもっと、こう右手をしっかりと突き出して、『サイス』!」
「『サイス』! こんな感じ?」
私はレンの真似をして右手を真っ直ぐと突き出す。
「そうそう! それで、こう、ルカの羽根に魔力を集めて光と闇のオーラで髪をなびかせる感じにするのもいいな、それで体全体で、『サイス・ハルワアルム』!!」
おぉ! やってみよう!
私は羽根に魔力を流して、光と闇のオーラを操る。
「こうして……こうか? いけ! 『サイス・ハルワアルム』!!」
「そうそう! あとは、セリフもなにかひと工夫欲しいな! 例えば……刮目せよ! 『サイス・ハルワアルム』! とか」
「んー、光と闇、または白と黒って言葉は入れたいのだ!」
「んー、これは双翼剣を呼び出す技なんだよね? なら……全てを滅す黒白の翼! 『サイス・ハルワアルム』はどう?」
おお!! かっこいい!
「じゃあ、さっそく! くっくっく、覚悟しろ! 全てを滅す黒白の翼! 刮目せよ! 『闇光の双翼剣』!! どうだ?!」
結構かっこよくなったんじゃない?! 自信がついてきた!!
「うーーん、動きがまだ甘いなぁ……もっとキレが必要だよ! 一緒にやってみよう!」
レンが私の隣に来てレクチャーしてくれる。
「腕をこう、もっと引いてから……」
「「『サイス・ハルワアルム』!!」」
今、なにか、シュキンッ! って、感じがした!!
「おお! おおう!! これは今日一番かっこよかったぞ!! マスター感謝する!! 二人の息もピッタリだった!!」
ていうか、レンもかなりイキイキじゃん!! やっばい楽しい!!
あ! どうせなら『零眼』のことも教授してもらおう!
「マスターよ! もうひとつ教えを乞いたいことがあるのだ!」
「お! なんだー? 今楽しいからなんでも教えちゃうぞ!」
「うむ! 感謝する! その、ずっと昔から使ってる『零眼』が最近不発なのだ……クルアにバカにされるし……」
「うーーん、ちなみにどんな能力なの?」
「えとえと、『零眼』は……」
この技には思い入れがある。
なぜなら、私が一番最初に考えた技だから! 初めて魔法が使えた時、光を発することしか出来なくて、それでその光を強くしてフラッシュし相手の視界を奪う技。
昔クルアによくやったなぁー……クルア、目がぁ目がぁ……って、よく言ってたけど、今では全く効かないのよね。
「うーーん、こう言っちゃなんだが効果が薄い!!」
「ええっ!?」
「いーか、ルカよ! お前は闇の力を手に入れ進化したのだ! ならばその原点たる技も進化せねばなるまい?」
た、確かに……私は不本意ながら闇の力を手に入れた、まぁ闇ってなんかかっこいいし、今はそんなに気にしてないけど。
「そこで、貴様に我から新たなる魔眼を与えよう……」
ま、マスターから直々に……うれしぃ!! 一体どんな!!
「新たなる魔眼……『月光の邪眼』を……貴様は今宵、宵闇の天使になるのだ」
「る、ルナティック……アイ………カッコイイ……グァッ…」
「る、ルカ?! どうした?!」
そのとき……私の左眼が疼いた。
身体の中のレンに分け与えられた神気が左眼に集まっていくのを感じる。
「あぁ! 目が! 左眼が疼く……」
「ええ?! え、演技じゃないよね?! 華憐! かれーーん!!」
レンがカレンを呼びに行こうとするのを私は腕を取って止める。
「あ、案ずるなマスター……グァッ! これは進化の予兆だ……うっ…我には分かる、新たなる力の気配を……」
「そ、そうなのか?」
レンが私のことを支えてくれる。
たけど……こ、これは凄まじい力だ……制御しきれ……ない……
「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ルカ?! おい! ルカ!!」
レンの声が遠くなるのを感じる。
私はそのまま意識を失った。
■■
「……ん、ううん……」
「ルカ?! 大丈夫か?!」
「……レン??」
起きたらレンに横抱きにされてた。
どうやら、気を失ってたのはほんの少しの間だけみたい。
「ルカ……左眼が……」
「え?」
確かに、左眼がなんだか暖かいような?
「蓮くん! 今の何?!」
「すごいオーラが出てましたよ?!」
「ルカ?! どうしたの?! 眼が……紅い??」
華憐とミーナとクルアが扉を開けて部屋に入ってきた。
眼が紅い? うそ? 私の眼は翡翠色のはず……
「クルア、何言ってるの? 私の眼は翡翠色だよ?」
「少し待って、鏡を出すわ」
クルアが鏡を見せてくれる、そこに写る私の顔は母親譲りの翡翠色に紫が入った髪に、いつも通りの顔に……
「………左眼が紅い………??」
翡翠色の眼は左眼だけが紅くなっていた。
「んーーこの眼の色、どこかで見たような……あっ! 蓮くんが神気解放した時の眼の色だよ!!」
「「「あーー、確かに!!」」」
確かに、私の堕天を治してくれようとした時に流し込まれたレンの神気が左眼に集まってる気がする。
「すごい! 万〇鏡写〇眼だよ! ルカ!! 『鑑定』!! んーー、ルナティック……アイ??」
「「えっ?」」
私とレンの声が重なる。
まさか、さっき私たちが考えてたことが起きたの?!
左眼に意識を向けてみると、レンたちの魔力や神気がよく見える。
もう一度鏡に写る自分を見てみる。
レンと同じ紅い眼と私の翡翠色の眼のオッドアイ……かっこいいかも……
「くっくっく……我が『零眼』より進化し、覚醒した新たなる邪眼、『月光の邪眼』そして、マスターレンと共に編み出した技……」
私は、羽根に魔力を集め、闇と光のオーラで髪をなびかせる。
「全てを滅す黒白の翼! 刮目せよ!! 『闇光の双翼剣』!!!」
私の右手に闇の黒き翼のバスターソード、左手に光の白き翼のバスターソードを顕現させる。
もちろん、レンに教わった通りの動き。
きまった……きもちい!!
「ルカ! かっこいい!! 厨二病だー、なんてバカに出来ないよ!」
「ルカさん! すごくイケイケです!!」
そうだろうそうだろう!! 我がマスターと共に考えた、当たり前なのだ!!
「どうだクルアよ! 生まれ変わった我は!!」
「………まぁ、よかったんじゃないかしら?」
む、なんかハッキリしない!!
でも、左眼……展望台の時みたいにレンの気配がする、暖かくて優しい感じ。
「レン!! ありがとうね!!」
「ん? うん? なにが??」
「なんでもない! にひひ!」
さっ! クルアを昔みたいに完全に無欠に完膚なきまでに完璧にかっこいいって言われるために、私はもっとかっこよくなろう!!
我の創世記の道はまだ始まったばかりなのだ!!




