10話 擬人化
◇◇レンside◇◇
「起きてぇー! 朝だよぉー! レーン!! おきろぉー!!!」
朝、半分くらいまだ夢の中だけどそんな声が聞こえてきた。
「カレンねーちゃんも起きろよな! いつまで寝てるんだよ!」
「二人とも起きてください、朝ですよ」
他にも男の子のような声が聞こえる。
そして、僕のお腹の上でぽふぽふと叩かれてる感触。僕はなにかが僕の上に乗ってるのに気づいて起きた。
「………んー…ムニュムニヤ」
「あっ! 起きたぁー!」
「え……? だれ……?」
目を開けたら目の前に、銀色の髪をした見知らぬ全裸少女が僕の上に乗ってた。
「誰ってぇ、ひどいよぉー、ハルマキってカレンが付けてくれたじゃん!」
「え? だって、ハルマキってクマっころだよ?」
「?? そうだよぉ? 私クマだよ? ほらぁ!」
と、言って頭を見せてくる自称ハルマキ、向けられた頭を見てみると、たしかにクマの耳がちょこんとついてる。
「わぁお、ほんとにハルマキなの?」
「だからぁー! さっきからそう言ってるじゃん!」
「………うーん……蓮くんおは………蓮くん、その女の子は誰?」
華憐さんが起きた、と思ったら底冷えするような声で僕の上に乗っている少女を誰なにがしと聞いてきた。まぁ、朝起きたら全裸の少女をお腹の上に乗せてたら嫌悪するよね。
「んーとね、なんて説明したら……」
まだ、自分自身も整理しきれてないのでなんと説明しようか悩んでいると、
「わーーーー! よう! カレン姉ちゃん起きたか!」
「二人とも、おはようございます」
なんだかキリッとした目つきの自信満々そうで生意気そうな男の子と、気弱そうなか弱そうな男の子が華憐さんの近くに行く。
「……え? え?」
華憐さんはまだ何が起こってるのかわかってないみたいだ、僕はなんとなくわかった、なんでこうなったのかはわからないけど。
「あー、えーと、コロッケとポテト?」
「おう! そうだぜ! レン兄ちゃん!」
「はい、ポテトです」
やはりそうみたいだ、三人? 三匹? とも頭にクマ耳を付けてる。
「え? あなたたち三人、ほんとにあの子グマだった子?」
「おう! だからさっきからそう言ってるだろ! それよりハラヘッタ!」
華憐さんはまだ困惑してる様子、しょうがないここは僕が聞きたいことを書いておこう。
「三人はなぜ人間の姿になったかわかる?」
「いや? 朝起きて気づいたらこうなってたぜ」
「私もぉー」
「僕もです」
んー、なんだか珍現象が起きた様子、でも、昨日もなんか巨大な木ができたしそんなに不思議なことじゃない?
華憐さんを見てみるとまだ困惑……あれ? 目をキラキラさせてる。
あ、これ昨日と同じやつだ。
「きゃああぁぁぁぁーー!! かわいいーー!!! なにこれなにこれー! 耳だーーーもふもふぅー!!」
そう言って、まるで獲物を狩る虎のごとくコロッケたちに飛びかかる。
「わああぁぁー!触るなカレン姉ちゃん!!」
「カレンお姉ちゃんくすぐったいよぉー」
「………うぅ」
三人は、反応できなかったのか抵抗出来ずに華憐さんにされるがままだ。
「蓮くん蓮くん!! 擬人化だよ擬人化!!かわいいねぇーー!!」
朝からテンションアゲアゲな華憐さん。まぁ、確かに可愛いしな。
それから、僕もモフモフさせてもらう。僕だって柔らかい毛の動物を触るのは結構好きなんだ。ケモナーって言うわけじゃないけど、こう気持ちよさそうな毛並みを見てると触りたくなってくるというか。
クマ耳の後ろのあたりをかくように触ってあげると、三人とも気持ちよさそうに目を細める。
銀色の髪が短髪なのがコロッケだろう、こう少し生意気そうな性格がそんな気がする。
それで同じく銀色の髪がオカッパな子がハルマキだな。
最後に同じく白銀の色の髪が前髪長めの大人しめの子がポテトだな、コロッケに魚とられてた弟。この三人は兄弟姉妹でみんな髪の色と目の色が同じだ。
「ちょいちょい、華憐さんや」
「ん? なんですか蓮くん」
「名前、お惣菜とかの名前で完全にペットのつもりだったでしょ」
今更だけど、いいのかなお惣菜の名前で。
「だって、まさか擬人化するなんて思わなかったんだもん!」
まぁー、確かに擬人化するなんて思わんな、しかしなぜ人の姿に? うーーん、神様が言ってた僕達の神気とやらに当てられたとか? それとも、別世界から来た僕達と一緒にいたからだろうか? 情報が少なすぎてわからんな。
「なぁなぁ、腹減ったよ、ごはんとりにいこーぜ」
そんなこと考えると、コロッケがお腹をぐぅと、鳴らして腹へりを訴えてきた。すると、他の二人もつられるようにお腹が鳴る。そういえば、起きてからずっとハラヘリータを訴えてきてたね。
三人はお腹空いてるみたいで川に行くのは反対ではないんだけども、三人ともすっぽんぽんなんだよな。
たぶん、今までクマだから衣服という概念がないんだろう。全くもって恥ずかしげにしていないし。
もちろん、中学生くらいの体型の女の子の裸を見ても興奮はしないが。それでも、見聞的には悪かろう。
「んー、これはますます衣類をなんとかする必要がありそうだなー」
「そうですね、三人の服をまずは見つけなくては」
「とりあえずお腹すかせてるみたいだし川に行くか」
「よし! 川に行くぞー!」
「わーい!かわだかわだぁー!」
「まってよー………」
と、僕が声をかけると三人はバタバタと騒がしくエレベーターに向かっていった。うーん、若いって素晴らしいなぁ……。
そんな様子を華憐さんとお年寄りな心で見守ってると、
「これから楽しくなりそうですね!」
華憐さんが嬉しそうにそう言ってきた。
「そうだねー!」
確かに、人数は少ないより多い方が楽しい。それにやっぱりケモ耳だ! 異世界と言ったらケモ耳はいるだろうな。たぶん、華憐さんも同じ気持ちなはず、オタクだし。
僕達はひとつ頷きあってから三人を追いかけて、川へと向かった。
華憐さんは三人の衣服をなんとかするみたい。
エレベーターホールで待っていた三人を連れて川に。
「くそっ!また逃げられた!!」
「うぅー、捕まんないよぉー」
「にげられました」
川についていつものように魚をとろうとしてるけど、三人は人間の姿にまだ慣れてないのかうまくできないみたい。
ここに来るまでも、二足歩行というものに慣れてないからか、何も無いところで転びそうになってたし。
「よしっ!こうなったら奥の手だぜ!!」
コロッケがそう言った瞬間、あら不思議、あっという間に昨日までのクマの姿になった。ハルマキとポテトの二人も擬人化を解いてクマモードになる。
「がるるるる!!」
熊化したコロッケは水面をじわーっと見つめてダイブ! うまく魚を捕まえて「がるるる」とひと声、そしたら人間の姿にも戻った。
他の二人も同じようなことをしてそれぞれ、獲物を捕まえてた。クマの姿なら昨日たくさん魚のとり方は教えたからね、こっちの方がとりやすいんだろう。
「おら! レン! これで料理してくれよ!」
「わたしわたしもぉー!」
「僕もお願いします」
と、三人とも僕に川魚を渡してきた。なんだなんだ、昨日塩振った焼き魚にしたから味に欲が出てきたのか? クマ状態の時は生魚で食ってたのに。
「おっけー! 帰ったら作ったる」
まぁ、塩振って焼いただけのものを料理と呼んでいいのかは分からないけど。
僕たちはあと二匹川魚を捕まえて家に戻ることにした。




