100話 華憐のライバル宣言
空の王者との激闘からもうすぐ二週間になる。
私は、この二週間全く眠れてない。
理由は、あれからずっと蓮くんが目を覚まさないから。
蓮くんの怪我は骨もボロボロで全身が火傷で重症だったけど、ルカがしっかりと治してくれた。
ただ、左腕だけは治療ができなかった。
まっ黒焦げで、肌も骨も神経も細胞に至るまで炭化して死んでいて切断するしかなかった。
だから、今の蓮くんには左腕が無くなってる。
エリュちゃんも、初めの頃は私とずっと一緒に蓮くんといたけど三日前くらいに蓮くんの神気が無くなったのか剣の状態になってそのまま。
私の神気だと擬人化できないみたい。
「カレン様、レン様はまだ目を覚ましませんか?」
ミーナが扉をノックして入ってきた。
「うん」
「カレン様、最近ずっと寝てませんね? そろそろカレン様も眠らないと体調を崩してしまいますよ?」
ミーナが気を使ってくれる。
ミーナだけじゃない、クルアもルカもみんな私のことを気にかけてくれる。
「大丈夫だよ、蓮くんがまだ目を覚まさないからもう少し、ここにいる」
「………わかりました、無理はしないでくださいね?」
ミーナは少し困ったような顔をして出ていく。
ごめんね……ミーナたちだって、蓮くんのことが心配なはずなのに……
「ねぇ、蓮くん、早く起きて?」
私は蓮くんの身体をゆさゆさしてみるけど、やっぱり蓮くんは目を覚ましてくれない。
心臓の辺りを触ってみると、ちゃんとトクントクンと動いている。
「ミーナもクルアもルカも私だって、みんなみんな蓮くんが目を覚ますのを待ってるんだよ? ピィナなんて、蓮くんのご飯食べれないから毎日うるさいし……」
聞こえているかどうかは分からないけど、きっと聞こえて起きてくれると思って、ここ最近はずっと一人で話しかけてる。
ほかにもほっぺをつまんでみたり、足こちょこちょしてみたりもしてるけど起きない。
なんかいい夢でも見ていて、現実に戻ってきたくないのかな?
もし、ずっとこのままだったら……
「そんなの、いや……ねぇ、起きてよ」
蓮くんの無事だった右手をギュッて握る。
ふと、助けてくれた時のことを思い出した。
あの時の蓮くんは神様みたいだった。
髪は燃えるような何色にも見えるような虹色で輝いてて、頭が真っ白だった私に、安心させてくれるように柔らかく笑いかけてくれた。
それだけで、私は落ち着けて、胸がキュッと締め付けられたみたいになる。
でも、その前に蓮くんが左腕を無くした火炎弾、あれは私を狙ってるものだった。
だから、蓮くんはあのままあそこにいれば左腕を無くさなくて済んだはず、なのにどうして左腕を犠牲にしてでも守ってくれたんだろう?
ううん、あの時のは分かる、もし蓮くんが私の立場で私が蓮くんの立場だったら、私も左腕を犠牲にしてでも蓮くんのことを守る。
蓮くんはここに来てからずっと一緒にいる私の相棒で、もう家族みたいなものだから。
けれど、その前は?
この世界に来る原因になったトラック事故、あのときも蓮くんは助けてくれた、結果として二人とも死んじゃったけど助けてくれようとしてくれた。
あの時、私のことは放っておけば蓮くんは死ぬことはなかったはず。
それに、最近スマホが使えるようになってから気づいたけど、蓮くんに助けられたのはトラック事故が初めてじゃない。
友達とのメールのやり取りを見てて思い出した。
友達と水族館に行って、ナンパされて困ってた時、蓮くんは漫画に出てくる主人公みたいに私たちを助けてくれた。
あの時は、ゆいりさんと一緒にいて、私たちに構ってゆいりさんを放置してたからちょっと怒られてた。
なんで、蓮くんは自分を犠牲にしてまで私を助けてくれるんだろう?
それに、どうして私はこんなにもとろいんだろう……
空の王者のときはここは現実世界なのに、ゲームの世界だと無意識のうちに思い込んでたんだろう、だから不測の事態に対応できなかった。
それに、もう少し考えて行動してれば、もしかしたら蓮くんは腕を失わなかったかもしれない。
トラックの時だって、私がよそ見してなければ……
「ごめん……ごめんね、蓮くん……」
いつの間にか涙が溢れてきて、頬を伝ってぽたぽたと垂れてた。
私は涙をこらえるように蓮くんの手をさらにキュって握る。
どれくらいそうしていたんだろうか、いつの間にか涙は止まってた。
「ふぅ、そろそろ一旦蓮くんを、拭いてあげよっかな」
もう、夏は終わったけど、まだ少しだけ暑い気温が続いてる。
だから、普通に汗もかくし、脱水症にもなる。
汗は拭いてあげるからいいとして、水分補給は今のところルカが魔法で行ってる。
私は濡れタオルを取りに行こうと握ってた蓮くんの手を話そうとした時、ピクリと蓮くんの手が一瞬私の手を握り返してくれた気がした。
「え? 蓮くん??」
蓮くんは変わらず目は覚まさずに、リズム良く胸が上下して寝たままだ。
やっぱり気のせいかなって思って、手を離したら……
「………あま、ちゃん」
蓮くんが寝言で誰かの名前を呟いた。
え?! 誰?! 私知らない人なんだけど……
私はなんだか無性に腹立たしくなった。
みんなこっちでは蓮くんのこと心配してるのに、蓮くんは夢で誰か知らない子と遊んでるの?!
次なにか不愉快なことを呟いたらぶっ叩いてやろうと蓮くんの唇を見て、じーーっと構える。
だからかな? 救助だったけど、蓮くんにキスしたこととされたことを思い出してしまった。
つい、唇を触ってしまう。
キスされた時かな? 実はあの時から蓮くんに触れたり見つめられたりするとドキドキが止まらなくて困ってる。
「………キス、したら起きるかな……?」
私は蓮くんの顔の傍によって、顔を覗き込んでみる。
どうしよう……ドキドキが止まらない……
キス、してもいいかな?
よく、お姫様は王子様の真実のキスで目を覚ますっていう話があるけど、それはきっと、逆も然りだよね?
私はいつの間にか、キスをする理由を探してた。
「………キス、したいな」
言葉にすると、もう欲望を抑えられなかった。
私はゆっくりと蓮くんに顔を近づけて、蓮くんの唇に私の唇を重ねた。
救助じゃないキスは気持ちよくて、罪悪感がして、ドキドキして……なんだかよく分からなかった。
私はゆっくりと唇を離す。
やっぱり、真実のキスなんてなくて蓮くんは目を……パチリと少し驚いたように開けていた。
え?! ば、ばれた?!
「れ、蓮くん?! ち、ちがうの!! 今のは、その、えーと……」
蓮くんは、唇をペロリと舐めてちょっと苦笑い、そして繋いだまんまの右手を見て、
「また、ずっと一緒にいて、手を握ってくれてたの?」
「えーとね、えっと……うん」
「ありがとう」
蓮くんは笑顔でお礼を言ってくれた。
それを見たらなんだか、蓮くんが起きてくれて嬉しかったり、キスしたのがバレて恥ずかしかったり、なんだか真実のキスで起きてくれたみたいでやっぱり嬉しかったりごちゃごちゃして、蓮くんに抱きついて泣いてしまった。
「蓮くん……よかった、起きてくれて良かったよぉ……」
「いやー……えーと……うん、心配かけてごめんね」
蓮くんはちょっとはぎれ悪いけど、右腕で背中をさすってくれる。
「私の方こそごめん、私のせいで腕が……」
「華憐のせいじゃないよ、だから責任とか感じないで、それに腕一本で華憐が助けられたんだから、むしろよかったよ、本当に無事でよかった」
「うぅ……あぁ……蓮くん……」
私は蓮くんの優しさが嬉しくて、目覚めてくれたことが嬉しくて、涙が止まらない。
どれくらいそうしてたんだろう、私が抱きついてる間、蓮くんはずっと背中をさすってくれてて、私は気持ちよくて、ドキドキして、さっきのキスのこともあるし、もう自分でもこれが恋だって分かるくらい、あぁ……好きだなって思った。
思って自覚しちゃったから、つい……
「蓮くん、あなたが好き、大好きです」
きっと、振られるって分かってても口に出ちゃった。
蓮くんは少し困った顔をして、私を振る言葉を紡ごうとする、そんな言葉は初恋で絶対に聞きたくない、だから……
「華憐、僕は…っ?!」
蓮くんが言葉にする前にもう一度キスをして口を閉ざさせた。
「そんな言葉、聞きたくないし、それにそれで止まると思う?」
そう言うと、蓮くんは本当に困ったような顔をしていた。
ごめんね、身勝手なのは分かってるけど、それでももう自覚しちゃったから、私は真っ直ぐ進むことにする。
「蓮くんが、ゆいりさんのことをまだ好きなのは充分わかってる、けれど私の事もちゃんと見て! ゆいりさんみたいにはなれないし、ミーナたちみたいにあんなに積極的にもなれないかもしれないけど、私も頑張るから、だから、蓮くんが私の事を好きになったら返事をください」
私は蓮くんから離れる。
蓮くんはやっぱり困ったような顔していた。
我ながらずるいなぁと思った、けど今は、それでいいとも思った。
ちゃんと私の想いは伝えられたから、次からは行動あるのみ!
「ミーナたち呼んでくるね、みんなも蓮くんのこと相当心配してたからね!」
私は蓮くんが起きたことを伝えるためと、今日から恋敵になることを宣言しに皆の元に向かう。
ミーナたちは強敵だけど、もっと強いのはゆいりさん。
けれど、その本人はここにはいない、ならば私にも勝てる可能性はあるはず!
ゆいりさん、あなたが悪いんですからね! 蓮くんは私が貰いますが怒らないでくださいよ? あんないい男をほっておいてどこかに行くのが悪いんですから。
私は今はここにいない最大の恋敵に宣戦布告をしつつ、これから蓮くんをどうやっておとそうか考えながらミーナたちを呼びに行った。
ここまでを第二章とします!
つぎの第三章からは外との繋がりを広げて行きます。
ぜひ評価をしてください! 辛口も僕の心なら耐えられる!!
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