部屋取ってるの
「マジか……」
映画を見て買い物して、後はプラプラと……そして夕方妹に連れられて来たのは都内ホテルの中にあるレストラン……それもおフランス料理ときたもんだ……
「来たかったんだよね~~こういう所~~」
「いや、それにしても……すげえ値段だぞ?」
一番安いコースでも俺の小遣い1ヶ月分が吹っ飛ぶ……妹だって似たような小遣いだろうし、ましてやそれを二人分て……
「大丈夫大丈夫~~」
「本当に? まあ環がそういうなら……」
どこからこんなお金が……本当に何か変な事やってないだろうな? 少し心配だ。
思えばこないだから様子がおかしい……色々と疑問に思う事が一杯……いや、とりあえずは今は食事に集中しよう……っていうか……どうやって食べるんだ? なんだこのナイフとフォークの数は……
俺はうろ覚えのテーブルマナーを駆使して食事にいそしむ。妹とホテルでディナー……なんか不思議な感覚だ。
周りからの場違いな視線を感じながら妹と食事をする。正直味なんて殆ど分からない、ただ出される物を緊張しながら口に入れていく……ろくに話もせずに……
妹も淡々と食事を進めているが、これが取材になるんだろうか? 仮想恋人として役にたっているのだろうか? 俺は非常に疑問に感じていた。
メインも終わりデザートを待っていると妹がようやく口を開く。
「お兄ちゃん? 美味しくない?」
「いや……あ、まあ……でも正直緊張してさ……」
「あははは、私も……ああ、失敗したかなぁ」
「なんか……ごめんな、気の聞いた会話も出来なくて、これじゃ取材の意味ないよなあ」
「え?」
「ん?」
「ああ、うん……取材、取材ね」
妹は、ああ! みたいな少し驚いた顔で俺にそう言う……
「おま、環! 忘れてたのか?」
それが、取材が目的だっんじゃないのか?!
「え? 全然? ぜ、全然忘れてないよ!」
「それ忘れてる時のセリフじゃねえか……そもそも漫画の取材って、よく知らないけど写真撮ったりするんじゃないのか? 環全然撮ってないし……」
「あ、ああ、うん、写真撮るよ、撮る撮る」
「いや、本当になんかさ、この間からおかしいぞ環、一体何が目的なんだ?」
「目的! そ、そんなの…………ちょっと……しか」
「…………あるのかよ……いいよ話してみろよ」
「あ、うん……えっと………………」
「お待たせ致しました」
妹がなにかを喋ろうとしたが、ちょうどその時最後のデザート、アイスと木苺の盛り合わせが運ばれて来る。長い食事もようやく終わったと一瞬気が緩んだその時、妹は俺にとんでもないこと言い始めた。
「あの、あの、お、お兄ちゃん! その……本当のお願いは……この後なの!」
「この後?」
「は、はい! 今までは前座、前菜、あ、いや、えっと」
「前菜……いや、この後って、もうそろそろ帰らないと駄目な時間だろ?」
「えっと……その……お、お母さんには許可を取ってます!」
「へ? そ、そうなのか? じゃあ少しくらい遅くなってもいいのか……」
デザートのアイスが少し溶けかかっている、俺はとりあえずスプーンでアイスと木苺をすくって口に放り込む。ようやくここの雰囲気に慣れて来たのか味美味さが脳に伝わる。アイスの甘さと木苺の酸っぱさが口に広がる。
「あの……あの……お兄ちゃん! このホテルに……部屋を取ってるの、だから……あの……一緒に、私と一緒に泊まってください!」
「――――――――――――――――――は?」
「えっとえっと……その、ホテルに!」
「な、なななななな、なんでだ、なんで、は? なんでわざわざ? え? だってここから家って1時間もかかんないだろ!」
「お兄ちゃん、声が大きい、あとアイスが飛ぶから!」
「お、おおおすまん…………って……だから、な、なんでだよ?」
周りが俺達に注目している。ただでさえ浮いてるのに……俺は声のテンションを下げ小さな声で再度妹に問いかけた。
「えっと……取材?」
「だーーーーかーーーーらーーーー何の取材なんだって」
「だーーーーかーーーーらーーーー漫画の取材だって言ってるでしょ!」
「いや、それにしたって……」
「こ、これからが本番なの!」
「おま! ほ、本番って!」
「ああああああああああああ、エッチ、お兄ちゃんのエッチ!」
「いや、お前が先に!!」
「あの……」
「はい?」
言い争いをしている俺達の横にお店のウエイターさんが来る……
「申し訳ありません、周りのお客様にご迷惑が……」
「あ、す、すみません!」
つい熱くなって今度は妹も一緒に大声を……とりあえず俺達は周りの視線に耐えつつもったいないので最後まで黙ってデザートを食べきった。