呼び方
アルマジロは、ハリネズミじゃないし、アリクイじゃない。
ハリネズミみたいにハリはないし、アリクイみたいに毛もない。
ガチガチの板に包まれたのが、アルマジロ。
もちろん、あたしが大好きな逢沢次郎くんは
姿カタチもアルマジロに似ているわけじゃない。
モデルもこなすスーパー高校生なんだから。
だけど、実を言うと、逢沢次郎くんとアルマジロにはいくつかの共通点がある。
外見じゃない見えない共通点――――――
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「アルマジロくんだ!」
アルマジロくんが渡り廊下から、教室に向かって歩いていく。
今日のアルマジロくんは、男友達と一緒だから、席に座ったまま声をかけて手を振った。
アルマジロくんは顔をしかめて、「アルマジロじゃねぇ」ってお決まりの台詞を返してくれる。
「あー、この子が宇佐美ちゃん?」
「はいっ!」
アルマジロくんの隣の男の子が、あたしに近寄ってきた。
カッコいい男の子のところには、カッコいい男の子が集まるのかな?
アルマジロくんとトモダチだと思われる男の子も、端整な顔立ちをしている。
「俺、時岡正宗」
「正宗くん?」
「そうそう」
正宗くんが笑うと、太陽みたいに周りが明るくなる。
「おい、なんでこいつは、普通に?正宗くん?なんだよ」
アルマジロくんが機嫌の悪そうな声で、口を挟んできた。
「えっ?」
きょとんとして、見上げたあたしに、アルマジロくんは顔を寄せてくる。
「俺がアルマジロで、なんでこいつは普通に呼ぶんだって聞いてんの」
なんで、って聞かれても
答えに詰まったあたしは、しばらく固まって、突然、顔を上げた。
「アルマジロくんは、アルマジロくんだから!」
答えになってねぇ――――――って言いながら、アルマジロくんは頭を抱えている。
隣に立っていた正宗くんはおなかを抱えて笑っている。
「もういいよ」
アルマジロくんはそう言って、片手で振って歩いていってしまう。
「またねー」って正宗くんが笑ってくれたから、あたしは二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
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「だから、あのドラマの主人公ってさ」
美紀が昨日、見たドラマの話を熱く語っている。
帰りの昇降口。
ローファーを出そうと、下駄箱をあけた瞬間、ビビッとあたしのレーダーが動く。
バッと校庭を見ると、アルマジロくんの背中を見つけた。
「あんなところで、告白とか言っておかしいよね?そう思わない、ウサコ?」
「ごめん、美紀。ちょっと、あたし、先行くね」
「はっ!?!」
まだ上履きのままの美紀を昇降口に置き去りにして、あたしはアルマジロくんの背中を追いかける。
「アルマジロくん!」
彼の隣には、昼間、会った正宗くん。
アルマジロくんの隣に女の子がいないことは珍しいから、見つけたときは駆け寄ることに決めている。
「おまえって、よく俺を見つけるよな。しかも女と一緒じゃねぇ瞬間を嗅ぎ分けて」
呆れたようにアルマジロくんがあたしを見下ろす。
「うん。だって、あたしにはアルマジロくんレーダーがついているから!」
「アルマジロくんレーダー?」
聞き返したのは、隣にいた正宗くんだった。
「うん、あたしね。100人いても1000人いても、アルマジロくんがどこにいるか見つけられるよ」
あたしのアルマジロくんレーダーには自信がある。
これが本気の恋のパワーだって、胸を張れるの。
「ふーん」
「どこにいても、アルマジロくんを見つけられる。それが、今日のあたしのメリットだよ」
あたしの言葉にアルマジロくんが目を見開いた。
「――――――」
アルマジロくんは、なにを考えているのかわからない目であたしを見下ろしている。
「ちょっと、ウサコ―――!!!」
突然、後ろからあたしを呼ぶ声が聞こえる。
振り返れば、美紀が鬼のような形相で立っている。
「い、今、行く!!」
美紀の呼びかけに答えて、もう一度、アルマジロくんに視線を向けると、彼は不思議そうな顔をしていた。
「ウサコってなに?」
「あたしの名前、うさみ ここだから、略してウサコなの」
「ふーん」
聞いたわりには興味がないのか、彼は返事のような呟きを残して、正宗くんと歩き出す。
「バイバイ、アルマジロくん!」
慌てて叫んだあたしに、アルマジロくんの足の歩みを少しだけ緩めて振り返る。
「あぁ、また明日な。ウサコ」
幸せで胸がはちきれるかと思った――――――




