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アルマジロくん  作者: 魚沢凪帆
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唯一のポジション

あたしは猪突猛進型だ。

目の前にエサをぶら下げられたら、まっしぐらに走っていくタイプだと思う。

なんでこんなことを、一人廊下で考えているかというと、実は少し時間を前に遡る。


「アルマジロくんのところに行ってくる!!」


教室を飛び出したあたしは、ざわめく廊下を人を避けながら駆け出した。

走って校舎を飛び出たところで、頭の上でチャイムが鳴った。


よく考えれば、今は5時間目と6時間目の合間の5分休憩。

アルマジロくんに会いに行くには時間がないし、仮に時間が足りたとしても昼休みと同じ場所にいるわけがない。


一応、大きな木の下まで来てみたが、やっぱり誰も居ない。


――――――ここだと教室から丸見え。


もう授業は始まっていて、今更、教室に戻る気もしなくて、屋上へ向かった。

サボると決めれば、行く先は屋上しかない。

サボり=屋上、という式は高校生の共通な気がする。


ガチャッと重たいドアを押し開けると、屋上には気持ちよい風が吹いていた。


「ひゃー、晴天!!」


腕をグィーッと空に伸ばした身体を伸ばす。

晴れた日ざしが心地よく、ちょうど気持ちよい爽やかな風が吹いていた。


「今日は、よく会うねぇ」


どこからか、のんびりした声が響いた。


聞き覚えある――――――というか、一度、聞いたら絶対に忘れることができない愛しい人の声。


あたしがキョロキョロと首を回して、見回すと「ここだよ」と上から声が降ってきた。

ちょうど、貯水タンクの上のスペースから、アルマジロくんの顔が覗いていた。


「アルマジロくん!会いたかったの」


あたしがあまりに嬉しくて、黄色い悲鳴を上げると、アルマジロくんは呆れた顔で「はいはい」と返事した。


「俺に何か用?」


「あのね、あのね」


「つーか、声、聞こえずれぇな。上、あがっといで」


「えっ?」


貯水タンクの上にあがるためには、銀の簡易はしごを上らなくちゃいけない。


「登るの?」


「うん、あがっといで」


あたしが怖いと思っていることを、アルマジロくんはきっとわかっている。

だけど、彼はあっさりとあたしに登るように言う。


きっと上に登らないと話もしてくれない。

結構、Sなんだなぁと思いながら、銀の手すりに手をかけた。


一歩一歩慎重に足を運んでいく。

短いはしごを上って、上に顔を出すと、「よくできました」と笑った顔のアルマジロくんが見えた。


アルマジロくんが制服の上から腕をつかんで、あたしを引っ張り上げてくれる。

最後の一息を登りあげあると、空がもっと近くなった。


「おまえって、めちゃくちゃ細いのな」


アルマジロくんは掴んだあたしの腕を見つめている。


「うん!つかみやすいでしょ」


「つかみやすいっていうか、これじゃぁ骨だろ」


アルマジロくんはケラケラ笑う。


「んで、俺に話ってなに?」


「あのね、あたし、さっき、セフレは嫌って言ったでしょう」


そう――――――さっき、セフレにならないかってアルマジロくんに持ちかけられたあたしはそれを丁重にお断りした。


だって、あたしがなりたいのは、アルマジロくんのセフレじゃない。

あくまで、彼女というただ一人だけのポジションだ。



「あぁ――――――もしかして、やっぱり、セフレになりたくなった?」


にやっと笑うアルマジロくんに、あたしは首を横に振る。


「あたし、やっぱり、アルマジロくんの本命の彼女になりたい!」


彼の顔が一気に暗くなった。


「俺が、女と付き合わねぇって知ってるよな?」


「うん」


「それでも、告白すんのか?」


あたしは迷わず、彼の言葉に頷く。


「あっそ。んじゃ、返事してやるよ」


アルマジロくんのあたしを見つめる目が、一気に冷え込んでくる。

まるで恨んでいる相手を見るかのように睨みつけている。


「俺は――――――」


「返事は待って!」


アルマジロくんは、顔を歪めてあたしを見ている。


「あのね、アルマジロくんが告白を断るときのせりふを聞いたの。恋人になって、アルマジロくんに何のメリットがあるかってやつ」


「そこまで聞いて、なんで、告白ができるの?もしかして、自分は特別だなんて思ってた?」


「思ってないよ」


「だったら、なんで」


浮かない顔のアルマジロくんを前に、あたしはその場で立ち上がった。


「返事は一ヵ月後に欲しいの!」


はっ、と乾いた声で、アルマジロくんが笑う。


「一ヶ月経ったら何か、変わるとでも思ってんの?」


「変わるかもしれないし、変わらないかもしれない」


彼は、何、言ってんの?と冷たい視線をあたしに向ける。


「アルマジロくんが恋人にメリットを求めるなら、あたしがそれをあげるの」


アルマジロくんの目が細くなって、あたしを変なものでも見るかのような顔つきになる。


「一ヶ月間、一日一回、アルマジロくんにあたしが恋人になったときのメリットを言うから、一ヵ月後、あたしが必要かどうか決めて欲しいの」


「――――――」


「あたし、本気でアルマジロくんが大好きなの。だから、毎日毎日、アルマジロくんにあたしのメリットを伝えるから、返事を一ヵ月後に決めて欲しいの」


あたしの言葉にアルマジロくんの顔が、複雑な表情に変っていく。


「本気の恋なんだから、それぐらいの猶予をもらってもいいよね?」


「あんたってさぁ」


アルマジロくんはそこで言葉を切ると、間を置いた。

しばらく、あたしをゲテモノを見るように見つめていたアルマジロくんは、突然、ぶはっと吹き出した。


「あんた、そうとうの馬鹿だわ」


げらげらお腹を抱えて笑うアルマジロくん。

あたしは何がそんなにおかしいのかわからなくて、困惑したまま、彼を見下ろしている。


ひとしきり笑った彼は、突然、まじめな顔に一転した。

そして怪しく光る瞳で、あたしを見つめる。


「んじゃ、今日の宇佐美のメリットは?」


「毎日、笑顔に会える」


「それって嬉しいこと?」


「だって、笑顔って伝染するもの!」


アルマジロくんはちょっと驚いたような、きょとんとした可愛い顔になる。

でもすぐに、色っぽい男前に戻って怪しく笑った。


「――――――とりあえず、あんたのママゴトに一ヶ月、付き合ってやるよ。本気だって言うなら、がんばってみれば」


「やったー!」


あたしはその場で飛び跳ねた。


「おい、ここ、手すりとかねぇから危ないって」


アルマジロくんは慌てて、あたしを止めた。

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