特別の理由
幼い頃から、あたしは男の人が怖い。
ご飯もほとんど、食べられない。
どうして、こうなったか、原因は自分が一番よく、わかっている。
でも、原因がわかったって、治るわけじゃない。
だから、一生、誰かを好きになることなんてできないって思った。
一生、男の人に触れるなんてできないと思った。
だけど、アルマジロくんだけは特別だった。
あたしにとって、彼だけが特別。
「ウサコ」
窓枠にぐったり寄りかかって、泣き続けているあたし。
ドアを叩くノック音が聞こえてきても、返事をしなかった。
ちょっとためらったように間が空いて、部屋のドアがゆっくりと開いた。
「お兄ちゃん」
顔を上げたら、お兄ちゃんがドアを開けて立っていた。
「泣いているのか」
お兄ちゃんはあたしの横のベッドに腰掛けるけど、それ以上、近づいてはこない。
ティッシュをあたしに差し出してくれるけれど、手が触れないように気遣っている。
あたしがお兄ちゃんすら、怖いと思っていることを知っているから。
「あたしね、アルマジロくんは特別だって思ったの」
お兄ちゃんは黙って、あたしの事を見つめている。
あたしのこの病気のことを一番、心配してくれているお兄ちゃん。
そして、一番、責任を感じているお兄ちゃん。
「最初に出会ったとき、本当に一目ぼれだったの。でも、顔とか雰囲気とかそんなものだけで好きになったわけじゃないの」
「ウサコは、一目ぼれする性質じゃねーもんな」
お兄ちゃんの声は柔らかくて、優しい。
「好きだから大丈夫だと思ったの」
「うん」
「でも、ちょっと違うかなぁ。触れられたから」
「えっ?」
お兄ちゃんが驚きを表情に乗せた。
見開いた目で見つめられて、あたしはハハッて小さな笑い声をあげた。
「ちゃんとじゃないけど、アルマジロくんだけがあたしに触れられるの」
「あいつが?」
あたしの微笑みに、お兄ちゃんはそれ以上追求してこなかった。
アルマジロくん、貴方だけなの。
貴方だけが、あたしの特別。
朝が来て、太陽が空に輝いても、昨日のすべてが無くなるわけじゃない。
あたしは玄関を開けて、目を伏せた。
アルマジロくんはあたしの家に迎えに来ていなかった。
毎日来ていた、アルマジロくんの姿がない。
あたしはたった一人ぼっちで、学校へ向かった。




