心のボーダーライン
花柄のカーテンを開くと、木枠の窓が空を向いている。
ドアを開けると、夜風が入り込んでくる。
ふわっと雨の匂いを感じた気がした。
空を見上げると、月は綺麗に輝いている。
こんなに綺麗な夜空で、明日、雨のはずがない。
あたしはそっと、小さく息をついた。
右手に握られたピンクの携帯電話。
今日中に謝りたいという気持ちで、いっぱいだけれど、架けるのはひどく怖い。
もうあたしのことを嫌いになった?
電話を拒否されたあたしはどうしたらいいの?
でも、電話を架けずに明日に持ち越せば、もっと会いづらくなる。
明日も明後日も明々後日も、会えなくなる。
あたしは勇気を振り絞って、携帯の番号を押す。
一瞬の間を空けて、電話の奥から響くコール音。
「はい」
電話が繋がって、相手の声が響いてきた。
聞きなれたはずの声は、手のひらサイズの小さな機械を通すと、まるで知らない人のように聞こえた。
「アルマジロくん」
電話なのに、彼は黙り込んでしまう。
あたしは次になんて言っていいかわからなくて、困ってしまった。
「何?」
しばらくして、短い問いが返ってきた。
すごく冷たく聞こえた声に、胸がドキドキする。
「ごめんなさい」
数分も間を開けて、ようやく口にしたのは短い謝罪の言葉だった。
電話の向こうで、彼が息を飲んだように感じた。
彼は、うん、ともすん、とも返事をしない。
あたしはきつく目を閉じたまま、アルマジロくんの返答を待った。
「俺が怖い?」
「えっ?」
「俺のことが嫌い?」「俺を、好きじゃない?」と重ねて聞かれた。
「どうして」
「電話ならいいわけ?触れなきゃ許されるの?俺は、心のことをこんなに愛してるのに」
アルマジロくんの悲痛な声に、涙が混じっている気がする。
「アルマジロくん、あたし」
「心」
静かにあたしを呼ぶ声が、あたしの言葉を遮る。
「俺と心の距離ってどこがボーダーライン?」
あたしは言葉を失った。
そんなこと、あたしだってわからない。




