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アルマジロくん  作者: 魚沢凪帆
32/44

他には選べない

「逢沢くんが迎えに来てくれたわよ!」


下から、ママの声が響いてくる。


えっ?なんで?


あたしはスカートを履く手を止めた。

アルマジロくんの家から、学校へ向かう道のりは、あたしの家とは正反対。

朝の忙しい時間に、わざわざ遠回りをしてきたことになる。

ハッと我に返ったあたしは慌ててスカートのホックを止めた。


こんなときに限って、胸に着けるリボンが見当たらない。




****************************************




逃げるなら、捕まえればいい。


基本的に、男は逃げるものは追いかけたくなる生き物だ。

心はわかっていないだろうが、俺も例外ではない。


俺を本気にさせておいて、心が逃げるなんて許さない。



朝が苦手な俺が、わざわざ早起きして、心の家に向かった。

チャイムを押すと、母親らしき人が中から出てくる。


「逢沢くん、ウサコ、呼んでくるわね。待ってて」


俺が礼儀正しく、「お願いします」と軽く頭を下げると、女性はパタパタと奥へ走っていった。

しばらく待っていると、再び、玄関のドアが開く。


「アルマジロ、迎えに来ていたのか」


苦虫をかじったような顔で出てきたのは、心の兄貴だった。


「この間は自己紹介もしなかったな。俺は、心の兄でしんだ」


「ありがとうございます。俺は、知っていると思うけれど、逢沢次郎です」


「お礼を言う必要はねぇよ」


真の目は鋭く研ぎ澄まされていて、俺を睨みつけている。


「俺が名乗ったのは、おまえに?兄貴?なんて呼ばれたくないだけだからな」


俺を本気で嫌っている。

それがビシビシと空気を伝わって、響いてくる。


「おまえ、心のことが好きなのか?」

真はポケットからタバコを取り出して、一本加えた。

緩慢なしぐさで、タバコに火をつける。


紫煙を吐き出しながら、ちらっと俺を見た。


「好きです」


きっぱり言い切ることができる。

この気持ちを誰かに隠す必要はない。


「あんた、モデルだろう。心じゃなくてもいくらでも」


俺は首を横に振った。


「心じゃなきゃだめなんです。あいつだけが俺の心にまっすぐに飛び込んできた」


心じゃなくてもいいなら、こんなに苦しい想いを味わうことはなかった。


今までたくさんの女と付き合ってきた。

誰でもいいなら、今までどおり日替わりで女と付き合えばいいんだ。


でも、もうそれじゃ満足できない。

心じゃなければ、満たされない。


「心が好きなんです」


俺の告白を、真がどのように受け止めているのかわからなかった。

タバコを咥えた手で、口元が隠れて、笑っているのか怒っているのかもわからない。


見えている目元は決して、険しいものではないように感じた。

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