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アルマジロくん  作者: 魚沢凪帆
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アルマジロくんの本気

「ウサコ、あんたやっぱり」


あたしの顔を見るなり、美紀が心配そうに声をかけてきた。

おはよう、よりも早く、あたしの顔色を心配する。


美紀はすべてを知っている。

あたしのすべてを知っているから。


「逢沢次郎は、本当に特別だったの?」


大嫌いなアルマジロくんのことを非難する色は見えなかった。

美紀はただただ、あたしの心配をしてくれている。


「特別だったの」

「もう過去形でいいの?」


美紀の言葉にあたしはパッと顔を上げた。

過去形でいいわけない。


本当は、ずっと未来も一緒にいたいの。


一緒に未来を作っていきたいって思っているの。


「もう終わりだよ」


心にもない言葉を漏らしていた。

口にしたら、本当に終わってしまった気がした。


あたしの恋は、何もかも消えてなくなった気がした。




***********************************




朝、教室に担任の先生が入ってくる。

HRの最中、窓際の女の子たちが黄色い声を上げる。


「逢沢くんだ!」


窓際ではない女の子まで立ち上がって、窓から身を乗り出すように下を見下ろしている。

担任の先生が制止しても、恋する乙女を止めることはできない。

あたしもそっと、みんなの背中の隙間から校庭を覗く。

遅刻してきたらしい彼は、校庭の真ん中を悠々と歩いていた。


ちょうど校舎の真下に来たとき、彼が不意に顔を上げる。


「あたしを見てる!」なんて、女の子たちは思い思いに叫んでいるけれど、あたしは何も言えなかった。

彼の目があたしを捕らえて離さない。

呼吸もできないほど、胸が苦しくなった。


「ウサコ、あたしが言うのもなんだけど、逢沢次郎ってあんたのこと」

「美紀、それ以上言わないで。お願いだから!」


あたしの握り締めた手を、美紀は見下ろしていた。


それからすぐにアルマジロくんの姿は校舎に消えた。

教室はひとまず、落ち着きを取り戻し、生徒たちも自席に戻った。


「えぇー、みんな、ちゃんと聞いてくれよ」


気の弱そうな声で、野々宮先生が取り成した。

次の瞬間、先ほどの悲鳴とは比べられないほど、黄色悲鳴が上がる。

ガラッと音を立てて入ってきたのは、アルマジロくんだ。


「おい、逢沢。昨日といい、今日といい。お前のクラスはここじゃないだろう」


野々宮先生が慌てて、彼を止めようとする。


だけど、野々宮先生の制止も振り払って、彼はあたしの前に立った。



ばんっと木の机に両手を突くと、あたしと視線を合わせて言った。



「男を馬鹿にしてんじゃねぇ。落ちたら終わりのゲームじゃねぇんだ」


あたしは、彼に魅入られて、身動きが取れない。


非難されているはずなのに、彼の身体から色気に溺れそうになる。


本気の瞳に、本気の態度。


アルマジロくんを本気にさせるってこういうことだったんだって、ちょっと怖くなる。


「覚悟しろよ」


その言葉は、笑みとともに発せられた。


もう、あたし、逃げていられないかもしれない。

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