アルマジロくんの本気
「ウサコ、あんたやっぱり」
あたしの顔を見るなり、美紀が心配そうに声をかけてきた。
おはよう、よりも早く、あたしの顔色を心配する。
美紀はすべてを知っている。
あたしのすべてを知っているから。
「逢沢次郎は、本当に特別だったの?」
大嫌いなアルマジロくんのことを非難する色は見えなかった。
美紀はただただ、あたしの心配をしてくれている。
「特別だったの」
「もう過去形でいいの?」
美紀の言葉にあたしはパッと顔を上げた。
過去形でいいわけない。
本当は、ずっと未来も一緒にいたいの。
一緒に未来を作っていきたいって思っているの。
「もう終わりだよ」
心にもない言葉を漏らしていた。
口にしたら、本当に終わってしまった気がした。
あたしの恋は、何もかも消えてなくなった気がした。
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朝、教室に担任の先生が入ってくる。
HRの最中、窓際の女の子たちが黄色い声を上げる。
「逢沢くんだ!」
窓際ではない女の子まで立ち上がって、窓から身を乗り出すように下を見下ろしている。
担任の先生が制止しても、恋する乙女を止めることはできない。
あたしもそっと、みんなの背中の隙間から校庭を覗く。
遅刻してきたらしい彼は、校庭の真ん中を悠々と歩いていた。
ちょうど校舎の真下に来たとき、彼が不意に顔を上げる。
「あたしを見てる!」なんて、女の子たちは思い思いに叫んでいるけれど、あたしは何も言えなかった。
彼の目があたしを捕らえて離さない。
呼吸もできないほど、胸が苦しくなった。
「ウサコ、あたしが言うのもなんだけど、逢沢次郎ってあんたのこと」
「美紀、それ以上言わないで。お願いだから!」
あたしの握り締めた手を、美紀は見下ろしていた。
それからすぐにアルマジロくんの姿は校舎に消えた。
教室はひとまず、落ち着きを取り戻し、生徒たちも自席に戻った。
「えぇー、みんな、ちゃんと聞いてくれよ」
気の弱そうな声で、野々宮先生が取り成した。
次の瞬間、先ほどの悲鳴とは比べられないほど、黄色悲鳴が上がる。
ガラッと音を立てて入ってきたのは、アルマジロくんだ。
「おい、逢沢。昨日といい、今日といい。お前のクラスはここじゃないだろう」
野々宮先生が慌てて、彼を止めようとする。
だけど、野々宮先生の制止も振り払って、彼はあたしの前に立った。
ばんっと木の机に両手を突くと、あたしと視線を合わせて言った。
「男を馬鹿にしてんじゃねぇ。落ちたら終わりのゲームじゃねぇんだ」
あたしは、彼に魅入られて、身動きが取れない。
非難されているはずなのに、彼の身体から色気に溺れそうになる。
本気の瞳に、本気の態度。
アルマジロくんを本気にさせるってこういうことだったんだって、ちょっと怖くなる。
「覚悟しろよ」
その言葉は、笑みとともに発せられた。
もう、あたし、逃げていられないかもしれない。




