逆転
様子がおかしいということを、あたし以外のみんなが、気がついていた。
あたし一人が、変だということに気が付いていなかった。
つまり、変だということに気がつけなかったあたしは、やっぱり普通の状態じゃなかったんだと思う。
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「ウサコ」
あたしは、手に持ったフルーツオレのパックをチュッチュッと吸いながら、顔を上げた。
「アルマジロくん!?」
お昼休みもまだ、始まったばかり。
教室と廊下を繋ぐ窓から顔を出したアルマジロくんに、あたしは目を見開いた。
「どうしたの?」
「迎えに来た。飯は?」
迎えに?
あたしはきょとんとして、アルマジロくんを見上げる。
もしかして、昨日のことを気にしている。
ううん、もしかして、何か、勘付いている?
不安を押し隠して、あたしはけらっと笑みを浮かべた。
「もう、食べたよ」
「もう?」
アルマジロくんの顔が曇る。
失敗したかも、と思いながらも、あたしは、戸惑いながら小さく頷く。
アルマジロくんが、何かを言いたそうに口を開いた。
「ウサコ!って、逢沢次郎」
重苦しい空気を打ち破ったのは、美紀の声だった。
彼女はあたしの傍にいるアルマジロくんを睨みながら、近寄ってきた。
「逢沢じろ」
「美紀!」
アルマジロくんに突っかかりかけた美紀の腕を、あたしはとっさに掴んだ。
「美紀。さっき、話があるって言ってたよね」
「はっ?」
わざとらしいかもしれない、なんて考えている余裕はなかった。
あたしはアルマジロくんを見上げて、作り物の笑みを顔に貼り付ける。
「アルマジロくん、今日はあたし、美紀と話があるの。屋上に行けないけど、だめ?」
「ダメじゃないよ」
アルマジロくんは顔をしかめて、だけどさ、と呟いた。
アルマジロくんはその言葉を続けなかった。
結局、何が言いたかったのかわからなかった。
確かに何かを言いたそうなアルマジロくんは、黙って、教室を去っていった。
美紀があたしの前に腰掛けて、体だけあたしに向ける。
「ウサコ、本当に逢沢次郎は特別なの?」
美紀の言葉の意味をあたしは、知っている。
理解しているからこそ、今となっては答えられない。
たぶん、きっと。
ううん、あたしは確かに感じていた。
アルマジロくんは特別。
なのに、どうして、傍にいられないの?




