お誘い
昼休み。
「あっ、アルマジロくん」
窓から差し込む太陽の熱で、教室がポカポカと暖められている。
外の空気を呼び込みたくて、窓を開けたあたしは、真下に大好きな人を見つけて嬉しくなった。
「美紀、ちょっと出かけてくる!」
ウサコー!?、って呼ぶ声がしたけれど、足を止めたりできない。
人気者の彼の周りにはいつも、たくさんの人が集まっている。
アルマジロくんと二人きりになるチャンスはそうそう訪れない。
――――――めったに訪れない。今がチャンス!
あたしはアルマジロくんまっしぐらに、廊下を駆け抜けた。
大きな木の下は、ちょっと木陰になっていてお昼寝にぴったりの空間になっている。
芝生の上で、横になっているアルマジロくんは、目を閉じていた。
眠っている顔は、まるで彫刻みたいに綺麗で、ドキドキと胸が高鳴る。
「ア、アルマジロくん――――――?」
「んあ?」
小さく呼んだ声を拾って、アルマジロくんが目を開けた。
寝起きの彼は眠たそうにゆっくり身体を起こし、ぐぐっと腕を空に伸ばしている。
「宇佐美か――――――」
寝起きの色っぽい彼に名前を呼ばれると、心臓が飛び跳ねる。
まるで野うさぎのように、飛び跳ねた心臓はちっとも静まらない。
「おはよう、アルマジロくん」
アルマジロくんは、ぐぐっと眉間にしわを寄せる。
「だから、俺は逢沢次郎。アルマジロじゃねぇから」
お決まりのせりふを返してくれる。
「今日は、一緒にお昼寝している子はいないんだね」
周りを見回しても、アルマジロくんは一人きり。傍には誰も居ない。
時々、教室の窓から昼寝中のアルマジロくんを見かけることがある。
でも大体は、彼の隣にはいつも可愛い女の子がいる。
「――――――ん、まぁ、ちょっとな」
歯切れの悪い答えに、あたしは首を傾げた。
「そういえば、月曜日に発売されたRenOに載ってたよね!カッコよかった」
男性向けのファッション雑誌に、アルマジロくんが載っていた。
クラスメートから聞いたあたしは、放課後、走ってその雑誌を買いに行った。
「RenO――――――どんなやつだっけ?」
だけど、アルマジロくんはたいして興味がない。自分が載っている雑誌なのに、記憶にすらないみたい。
「えっとぉ、水に濡れてて、上半身が裸の……」
「なに、赤くなってんの」
アルマジロくんは、あたしを指差してけらっと笑った。
「宇佐美って、処女だよな」
「うん」
あまりにもあっさりと、断定されて、つい、頷いてしまった。
ぶはっと隣で笑い声が上がる。
「おまえって、本当に素直な奴だな」
話の内容も、笑われたことも恥ずかしいけれど、あたしに笑顔を見せてくれたことが一番嬉しい。
「アルマジロくん」
あたしが呼ぶ声に、んっ?って視線を向けてくれる。
「大好き!」
彼は一瞬、目を見開いて、驚いた表情を見せた。
「おまえって、本当に馬鹿だな」
告白の返事としては、明らかにおかしいけれど、彼は笑みを浮かべてくれる。
「なぁ」
不意にアルマジロくんの声のトーンが落ちた。
目が怪しく光って、あたしを捕らえる。
「宇佐美って、見ようによっちゃかわいいよな」
「な、なにそれ……」
ほほを膨らませて怒っているしぐさをして見せるけれど、彼が放つ怪しい雰囲気に呑まれて強く出れない。
アルマジロくんがあたしのお下げ髪をつかんだ。
クルクルと、手であたしの髪の毛をもてあそんでいる。
「なぁ、宇佐美」
「――――――なに?」
震える声で返すと、彼はぐぐっと顔を寄せた。
息遣いすら感じるほど近くまで顔を近づけられて、あたしの心臓は破裂寸前。
「宇佐美――――――俺のセフレになる?」
呼吸ができなくなっていたあたしは、そのまま心臓が止まるかと思った。