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アルマジロくん  作者: 魚沢凪帆
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かっこいい女の子

いい気になっていたわけじゃない。

あたしは一度だって、アルマジロくんの特別になったなんて思ったことはない。


アルマジロくんに嫌われているかも、と思ったことはあったけれど、好かれているなんて思ったことは一度もない。


だけど、そんな感情な誰にも見えない。

だから、そろそろだと思った。

予感がしていた。


学校1人気があるアルマジロくん。

ファッションモデルもしているアルマジロくんは、学校の外にもファンが多い。


逢沢次郎は、ひとつのステータスみたいなもの。

だから、最初から覚悟していた。


こんなこともあるかなって


**********************************


「ちょっと来て」


突然、命令口調で話しかけた女の子。

記憶を遡っても、見たことがない


ちょうどフルーツオレを吸い上げたところで、コクンッと飲み干してから「なんで?」って首をかしげた。


「いいから来なさいよ」


目の前の女の子は、あたしが素直に従わないのが許せないのか、いらいらして言った。


「うん、わかった」


あたしはこの後のことを想像する。

きっと、校舎裏とかに呼び出されるのだ。

思っていたよりも、遅いぐらいだ。


アルマジロくんのファンの中には過激な子もいるってわかっていたから

彼女についていくと、案の定、校舎の裏だった。

呼び出しといえば校舎裏だけれど、あたしの通う学校の校舎裏は本当に呼び出ししやすい場所。


人気がなくて、こっそり何かを伝えるのに最適な場所なのだ。

だから告白するときも、ここが使われることはよくある。

校舎裏への呼び出しは、告白か締め上げれるか。


まさに天国と地獄。


「あんたが、宇佐美 心?」


あーぁ、って内心、ため息をついた。

あたしの目の前には5人の女の子たち。

目がぎらぎらしていて、気が強そう。


あたしに声をかけたのはさっき、呼びに来た子とは別の子だった。

おそらく、声をかけた子がリーダー格なんだと思う。


「そうだけど」


あたしが答えると、女の子があたしの腕を引っ張った。

彼女たちの輪の中に投げ入れられる。


背後は壁、目の前には5人の女の子たち。

絶体絶命、大ピンチ―――……な状況だけど、意外にもあたしの心は穏やかだった。


「最近、逢沢くんの周りちょろちょろしてんのあんたでしょ!逢沢くんが迷惑してるのがわからないの!」


「あんたみたいな女が傍にいると、目障りなのよ!」


興奮した女の子たちが、口々にあたしを攻める。

怒りって相当、体力がいるって話だけど、彼女たちの体力は底知らずのようだ。


次から次へと罵詈雑言が飛び出してくる。


「変なあだ名までつけて、逢沢くんに媚売ってるのが見え見えなのよ!」


「地味女がつけあがってんじゃねぇーよ」


女の子の口から出てきているとは思えないような汚い言葉まである。

あたしはしばらく、呆然と飛び出してくる言葉の数々を聞いていた。


「ちょっとあんた聞いてるの!?」


半ば上の空だったのが、ばれたのか、一人の女の子があたしの肩をどついた。

あたしの背中は、コンクリートの壁に打ち付けられる。

いたっ、って小さく声を上げたけれど、当たり前にも彼女たちはあたしの身体を心配しない。


「あんたみたいな地味女が、逢沢くんの傍をうろちょろしないで!二度とちかづくんじゃねぇよ!」


「いや」


あたしの反抗に、女の子たちがぴたっと口を止めた。


「あたしは、アルマジロくんが――――――逢沢くんが好きなの。この気持ち、逢沢くんも誰にも隠すつもりはない!!!」


「な、何言ってるの!? あんたみたいな女から好かれたって、逢沢くんは迷惑でしょ!」


「逢沢くんが迷惑かどうかは、彼が決めること!貴方たちが決めることじゃない!!」


あたしが反撃したのがそんなに驚いたのか、声を張り上げたあたしに、彼女たちは一歩退いた。


「へぇー、かっけーじゃん」


突如、響いてきたのんきな声が緊迫した雰囲気を壊した。


「あ、逢沢くん」


集まっていた女の子たちは、歩いてきたアルマジロくんを見て、目を白黒させている。


「ちょ、ちょっと逢沢くんじゃん」


どうしよう、どうしようって慌てふためく姿は、笑い出してしまいそうなほど滑稽。

なんか同情すら覚える。


「女の子なんだから、人を傷つけちゃいけないよ。いい子にしてないと、お仕置きしちゃうからね」


アルマジロくんは、女の子たちに向けて、ウインクして見せた。

どこかのライブハウスのように、キャーッと黄色い悲鳴が上がる。


「ごめんなさい」って何度か、アルマジロくんに謝った彼女たちはいっせいに校舎に戻っていった。

アルマジロくんは呆然としているあたしを見て、「大丈夫」って首をかしげた。


「うん」


「そっか。あんたって意外に強いのな」


「えっ?」


「泣き出すかと思ったら、怒り出すんだから。すげぇよ」


アルマジロくんがケラケラ笑った。

久々に見るアルマジロくんの笑顔に、あたしの胸は高鳴る。


無視されて、愛情を疑われて――――――まともに話せていなかった。

その彼が、あたしを助けに来てくれて、さらに笑いかけてくれた。

全身に熱が回って、火照ってくる。


「意外性あるよ」


「だって、今日のあたしのメリットは、自立した女だもん」


へぇーっと頷いたアルマジロくんはまだ、ケラケラ笑っている。


「アルマジロくん、あたし、ちゃんと自分の足で立てるよ。あたしね、重たい荷物は二人で持ちたいの。頼りたいんじゃない。二人で力を合わせたい」


あたしの突然の口上に、アルマジロくんはきょとんとする。


「どんな辛いことも、苦しいことも、半分にすれば乗り越えられるよ」


ちょうど差し込んだ太陽の西日のせいか、アルマジロくんは眩しそうに目を細めた。

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