約束
久々にアルマジロくんを教室の窓から見つけたのは、あたしの挑戦が始まってから、ちょうど1週間と3日が経った日のことだった。
最近は、水不足にでもなるんじゃないかってぐらい天気が良い。
この日も空には太陽がサンサンと輝いて、じんわり汗がこみ上げてくる。
木陰は涼しそうだな、って思って外を覗いたら偶然、アルマジロくんの足を見つけた。
寝そべった彼の足を見つけて、あたしのテンションは急上昇する。
だけど、すぐに気分は急降下した。
隣にはモーニングコールの女の子が座っていた。
午後のひと時を過ごすラブラブカップル。
隣に女の子が居るときは、アルマジロくんに嫌われることが怖いあたしは、邪魔できない。
傍にいけないあたしは黙って木の下を眺める。
「ばかね」
声が聞こえてきて、振り返った。
横から顔を出したのは美紀だった。
美紀の視線も、ちょうど下で寝そべっているアルマジロくんにある。
「あんな男のどこがいいんだか」
「だって、好きなんだもん」
唇を尖らせたあたしに、美紀は嘆息する。
「早いところ、もっとまともな男を見つけなさいよ。火遊びができる性格じゃないでしょ」
言い返すこともできなくて、あたしはぐぐっと押し黙る。
「あら」と美紀が、下を見ながら呟く。
あたしもアルマジロくんに視線を落とすと、「あっ」と短い声を上げた。
ちょうどモーニングコールの女の子がアルマジロくんから離れていくところだった。
「あたし、行って来る!」
美紀に了解をとることもなく、ただ宣言だけを残して、教室を飛び出した。
美紀は相変わらず、アルマジロくんのことが嫌いだから、きっと、あたしが飛び出したことを怒っているに違いない。
あとが怖いけれど、立ち止まることなんてできなかった。
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「アルマジロくん」
目をつぶっているアルマジロくんを、上から見下ろすと、彼の目がゆっくりと開いた。
「あー、ウサコだ」
ゆっくりとゆっくりと笑みが広がっていく彼の顔が愛しい。
「眠そうだね」
「うん。夜までバイトしていたから」
「そうなんだ」
そういえば、アルマジロくんはいつも眠そうだ。
「ねぇ、知ってる?」
「ん?」
「実は、アルマジロくんって[アルマジロ]に似ているんだよ」
「日本語は正しく使え。俺のどこが、アルマジロに似てるんだよ」
彼は機嫌を損ねたかのように、怒ったような声音で返す。
「だってね、[アルマジロ]って寝てばかりいるらしいの」
「あー」
心当たりはあるとばかりに、苦笑して空を仰いだ。
あたしは彼の様子が可愛くて、くすくす笑いながら言った。
「アルマジロくんはね。外見は似ていないけど、実はアルマジロに似ているところをいっぱい持ってるんだよ」
「ふーん」
「今日のメリットだよ」
「はっ?」
彼の目が点になる。
それは当たり前。
脈略のない、あたしの言葉に彼は驚いた顔をしている。
「今日のあたしのメリットはね、いつでもアルマジロ情報を、ゲットできる!」
「俺、そんなもんほしくねぇけど?」
呆れたような顔つきで、首をかしげた彼に、あたしは笑った。
「アルマジロって実は、ペットとして飼われることも多い愛され動物なんだよ。それに、知って損ってわけじゃないでしょ」
「おまえって、屁理屈得意だよな」
苦笑するアルマジロくんに、あたしはへらへら笑った。
「じゃぁ、それもメリットにしておく?」
「はいはい。んじゃ、明日聞くわ」
明日。
能天気にも、テンションがあがったあたしを横目にアルマジロくんは黙って目を閉じた。
「うん、明日ね」
未来の約束ができる、なんて幸せなことなんだろう。
あたしはこの幸せをずっと抱きしめていたかった。




