鶏がらスープ
春になって、天気が良い日が続いているからかもしれない。
昼休みに屋上を覗くと、アルマジロくんの姿を見つけることが多くなった。
屋上のアルマジロくんは、3回に1回ぐらいは一人でいる。
残りの2回にあたってしまったときは、アルマジロくんと隣の彼女にばれないようにそっと屋上のドアを閉めた。
今日のアルマジロくんはドアを開けると、静かだ。
だれの声も聞こえてこない。
たいてい隣に女の子がいるときは、キャピキャピした声が聞こえてくるはずだ。
あたしは重たいドアを押し開けて、空の下に出た。
辺りには彼の姿はない。
給水塔の上に居るかもしれないと思って、鉄のはしごを登った。
「アルマジロくん!」
寝そべった彼の姿を見つけて、歓声に近い声を上げる。
彼はのそっと、上半身を起こした。
「あぁ、ウサコか」
彼の目にあたしが映ったことが嬉しかった。
だからかな。
ちゃんと登りきっていなかったあたしの身体がぐらっと揺れる。
足を踏み外したって思ったときには、引力の法則で真っ逆さまに落下する。
「あうっ」と小さい悲鳴を上げると、腕を強い力で掴まれていた。
「何やってんの?」
呆れた顔と声のアルマジロくん。
「だって」
ちょっと泣きそうなあたしを、アルマジロくんは軽々引き上げてくれる。
「っーか、あんた、軽すぎじゃない?」
アルマジロくんは、眉をひそめる。
鶏がらスープのダシの骨みたいなあたしの腕をまじまじと見ている。
「ほら、抱き上げたときに楽でしょ」
「なに、メリットみたいに言ってんの」
「メリットだもん。今日のメリット」
あたしは足場のちゃんとしたところに立つと、アルマジロくんを人差し指でびしっと指した。
「今日のあたしのメリットは、抱き上げやすい!」
「抱き心地が悪そう――――――っていうデメリットもありそうだけどな」
あたしの強引なメリットに呆れ返ったアルマジロくんは、あたしの貧弱な身体を、上から下に見て呟いた。
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起き上がったアルマジロくんの隣に座り込んだあたしは、ちらっと彼を横目で見る。
眠そうな彼は、何度も目をこすっている。
カッコいいのに可愛いアルマジロくん。
「ねぇ、ねぇ。アルマジロくんって兄弟いるの?」
脈略ないあたしの会話に、アルマジロくんは「うーん?」と眠そうな声を出す。
「妹がいるよ」
ちゃんと答えが返ってきたのが嬉しくて、話を続ける。
「どんな子?」
「普通」
「普通じゃ、わかんないよ……」
「お前は兄貴が居るんだっけ?」
「うん。あたしのお兄ちゃんはカッコいいよ。頭がよくて、今、T大に通っているの」
「へー。頭は似てねぇのな」
意地悪なアルマジロくんは、にやっと笑って言った。
でもあたしは、そんなアルマジロくんの意地悪もさらっと流す。
「うんっ、あたしとは全然、似てないの。すっごくかっこよくて、頭よくて、パーフェクトなの!」
「おまえ、ブラコン?」
自分もお兄ちゃんだからかもしれないけれど、ブラコンのあたしをちょっと嫌そうに見ている。
「うーん、かもしれない」
けらっと笑ったあたしにアルマジロくんは小さく息をついた。
「ウサコって、ちっちぇ時から、後ろ付きまとってたタイプだろ。めんどくさそう…」
苦笑するアルマジロくんにはきっと、自分にも同じ過去があるんだと思う。
でも、あたしがブラコンな理由は他にもある。
「離れていた期間が長いから余計に、ブラコンになっちゃったかも」
「離れていた?」
「うち、ちょっと事情があって、あたしとお兄ちゃん、しばらくの間、離れて暮らしていたから」
「ふーん」
前に離婚した話をしていたからか、アルマジロくんは大して驚かなかった。
そして、それ以上は追求してこなかった。
――――――追求されても困るんだけど。




