いつもの光景
「うまいクレープ屋に連れてってやる」
ボートを降りたあたしは、アルマジロくんに連れられて近くのクレープ屋に向かった。
人気のある店なのか、女の子が何人も集まっている。
「何、食いたい?」
あたしに声をかけてくれているアルマジロくんは、周囲の女の子たちの注目の的。
熱い視線がアルマジロくんに注がれている。
耳をすませば、女の子たちが「モデルの逢沢くんだよ」って囁いているのが聞こえてくる。
「アルマジロくん?」
あたしは彼を見上げた。
メニュー一覧の看板を見ていたアルマジロくんは、ひょいっと視線をあたしに移してくれる。
「何?」
「いいのかな?」
「何が?」
「みんな、アルマジロくんのこと見ているよ」
あたしが指摘したけれど、彼にとっては意味のないことのようだ。
そっけなく、「あー、いつものこと」って答えた。
いつものことだから、気にならないのか
あたしの気持ちは、下降気味。
絶対にここにいる女の子たちは思っている。
なんで隣にいるのがあんな女なんだって………
「ウサコ、さっさと選んで」
アルマジロくんに促されて、あたしは周囲を気にしないようにメニュー一覧に集中した。
「何にしよう」
メニューにあるクレープは、ベリー系やチョコ系、果物入りやアイス入りのものまである。
トッピングも自由に選べる店で、種類が豊富なだけにすぐに決まらない。
「まだ決まらないの?」
いつのまにか周囲のことなんて忘れて、メニュー選びに真剣になっていたあたしに呆れた声が聞こえてくる。
「だって、どれも美味しそうなんだもん……」
「ストロベリーので、いいじゃん。苺好きだろ」
「えっ?」
あたしはパッと顔を上げた。
驚いたあたしの目が、アルマジロくんを捕らえる。
「あたし、苺が好きだなんて言ったっけ?」
次に目を見開いたのは、アルマジロくんだった。
しまったって、顔に書いてある気がした。
追求してはいけない気がした。
聞きたいことはいくらでもある。
だけど、聞いたら、このまま一緒に居られない。
「アルマジロくん、あたし、マロンのクレープにする」
追求はできないから、せめて、まったく違うものを注文する。
「わかった」って頷いたアルマジロくんは、あたしのためにクレープを頼んでくれる。
お金を出そうとしたあたしに、奢るよ、って笑ってくれる。
「ありがとう」
クレープを受け取って、彼を見上げた。
「あのね」
「うん」
まだ、ちょっと気まずそうなアルマジロくん。
聞きたいことはいくらでもあるよ。
――――――だけど、今は何も聞かない。
だから――――――
「あたしは、マロンのほうが好きだな」
これぐらいは赦されるかな?




