あひるさんボート
公園に行く高校生って、なんて健全なデートなんだろう。
アルマジロくんには健全デートが珍しいのか、どことなくソワソワしている。
「さすが、ウサコな」
そんな声が振ってきて、あたしは首が痛くなるほど、背の高い彼を見上げる。
「何が?」
「ウサギだから、自然が好きなんだな、って思ってな」
「自然は好きだけど、今日、アルマジロくんをつれてきたのはちゃんと、意味があるよ」
あん?って彼が眉間に皺を寄せる。
「ボート、乗りに行こう!」
あたしの誘いに、彼の眉間の皺はさらに深くなった。
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天気は最高。
空に輝く太陽はあたしたちを祝福しているとしか、思えない。
先導して、彼とボート乗り場に着いたあたしは係りの人に声をかける。
「どれがいい?」と係りのおじさんに聞かれて、あたしは黄色いアヒルさんを指差した。
「えっ?普通のボートじゃねぇの?」
アルマジロくんは顔をしかめる。
「アヒルじゃなきゃだめ!」
「なんで?」
きょとんとした彼に、あたしは自信を持って答える。
「だって、あたし、普通のボートなんて漕げないもん」
「俺が漕いでやるから、いいよ」
「やーだ。あたしが漕がないと意味がないの!!」
「なんで?」
首をかしげた彼の目の前に、あたしは人差し指を立てる。
「だって、アルマジロくんにあたしの今日のメリットを知ってもらうには重要なことなんだもん」
「今日のウサコのメリットって、アヒルボート?」
いいから、いいから!って言いながら、係りの人が引っ張ってきてくれたアヒルさんボートに彼を促す。
アルマジロくんは諦めたのか小さくため息をついた。
アヒルさんボートは足で漕ぐだけで、前に進む。
アルマジロくんも漕ごうとしてくれたけど、あたしが止めた。
「だーめ。今日はあたしが漕ぐの」
アルマジロくんにあたしのメリットを知ってもらうには重要なことなのだ。
アヒルさんボートはあたし一人ではちょっと力不足らしく、すっごくゆっくりゆっくり進んでいく。
湖の真ん中にたどり着いたあたしは、ようやく肩の力を抜いた。
「だから、俺も漕いでやるって言っただろう?」
息をきらしているあたしに、アルマジロくんは呆れたような顔をする。
「いい? アルマジロくん、今日のあたしのメリットはね」
にまっと笑ったあたしに、一瞬、アルマジロくんがたじろいだ気がした。
だけど、あたしはそんなことなどお構いなし。
ボートから手を伸ばして、水をはねる。
パシャンッと音が鳴って、弧を描いて飛び跳ねた水を見せて、あたしは笑った。
「土曜のひと時のマイナスイオン!あたしと居れば、休みをまったり過ごせちゃう」
目が点になったアルマジロくんは、しばらくして、ぶはっと突然、笑い出した。
「あんたって、本当に馬鹿だな」
「な、なにそれ~~~!」
ふくれっ面になったあたしの目の前で、アルマジロくんはケラケラと声を上げて笑っている。
「次から次へとよく考えるよ。あんたって面白いよな」
面白い?
感じてもらいたいのは、面白い女じゃない。
可愛いとか好きとか、愛しているとか
我が侭だとは思うけれど、いつか、そんな風に見てくれたらなって思う。
あたしの目が恋する乙女の色に変ったからか、アルマジロくんは笑うのを止めた。
「甘いもの、好き?」
突然、脈略のないアルマジロくんからの質問に、今度はあたしがきょとんとした。




