表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルマジロくん  作者: 魚沢凪帆
1/44

ウサコとアルマジロ

「アルマジロくん!」


あたしが呼ぶ声に反応して、彼が振り返る。

男前の顔を明らかにしかめて、舌討ちしながら返事にならないような言葉を漏らす。


「俺の名前は、逢沢次郎。アルマジロじゃねぇから」


毒づきながらも、返ってくる返事が愛しい。

あたしの大好きなアルマジロくん



アルマジロくん

都立高岳南高校で一番、男前で、女ったらしと評判。


彼と付き合えるなら死んでもいい、なんて漏らす女の子があふれている。


――――――それが、逢沢次郎


手入れのされた細いまゆげに、瞳を縁取る作りものみたいに長いまつげ。

くっきり二重に、どこかの血が入っているのか色素の薄い瞳。

筋が通った高い鼻に、色っぽい唇。


名前を呼ばれただけで、倒れちゃいそうな深い声。


178cmの彼は、身体の半分以上が足なんじゃないかってぐらいスタイルがいい。ファッションモデルもやっている彼は、知名度だってある。


152cmしかないあたしは、彼と話しているだけで首が痛くなる。


まぁ、首が痛くなるほど、アルマジロくんと長時間話したことなんてないけど――――――


都立高岳南高校 一番の色男、それが逢沢 次郎。



――――――あたしが、この世で一番、大好きな人。


******************************



「ウサコ、また、逢沢次郎に会いに行ったでしょう!?」


呆れたような、でもちょっと怒ったような声で迫ってくるのは、あたしの親友の藤岡 美紀。

この学校内では、少ないアンチ逢沢派。


有名人ならよくあることだろうけれど、好きな人もいれば、アンチもいる。

かくいう逢沢次郎にも少ないながらも、アンチが存在する。


美紀は根っからのアンチ逢沢派で、あたしが彼に会いに行くだけですぐに怒る。


「うーん、一日一回、アルマジロくんだから」


へらへら笑ってごまかしたら、美紀は余計に怒りをあらわにした。


「スローガンなんて作らなくていいから!!ウサコに逢沢次郎なんてつり合わないんだから!」


「まぁ、あたしなんかじゃアルマジロくんとは」


「逆よ!逆!!ウサコみたいな純粋な子と、逢沢次郎みたいなヒトデナシが釣り合わないって言ってんの!!」


怒ってばかりいる美紀にあたしは笑うしかない。


ちなみにウサコとは、あたしのこと。


あたしの名前は、宇佐美 心と書いて、“うさみ ここ”と読む。

とても読みづらい名前だと思うけれど、心と書いて、“ここ”って読むの。


うさみここ――――――略して、ウサコなのだ。


そして、あたしがアルマジロくんと呼ぶその人は、逢沢次郎。


あいざわじろう――――――音が似ているから、アルマジロくん。

この学校であたしだけがそう呼ぶ。


「あたしはあんな奴のどこがいいのか、さっぱりわからないよ」


肩をすくめた美紀に、あたしが首を傾げる。


「あたしは、美紀がなんでアルマジロくんを好きにならないのか、わからない」


あっさり答えるあたしに、美紀は呆れた表情をこぼした。

あたしにとって、唯一無二、好きになるしかない存在。


アルマジロくんは、あたしの特別な人なのだ。


「あっ、アルマジロくんだ」


アルマジロくんが、渡り廊下に繋がる方向から歩いてくる。


あたしの席は廊下に面していて、すばらしいことに、廊下が見える窓が横に付いているから彼の姿をすぐに見つけられる。


長身のアルマジロくんは、歩いているだけでも、とても目立つ。


今日もアルマジロくんは腕に、綺麗な女の子がぶら下げている。

あたしのものだって主張するように、女の子はアルマジロくんにぴったりくっついている。


ハタから見れば、バカップルのような二人に、美紀は息をつく。


「あれって、抱くための女よね?」


美紀の言葉にあたしは躊躇いなく、コクンと頷いた。


アルマジロくんの隣にいる女の子たち。

彼の隣にいるのは、いつも違う女の子。


彼には、モーニングコールの女、お弁当を作ってくる女、つれて歩くための女、それに抱くための女……つまりセフレがいる。


さきほどアルマジロくんにぶら下がっていたつり目の美人の女の子が、今のセフレだ。


「どこの殿様か、って話よ」


確かに女の子を馬鹿にしているのかっていうその態度に、美紀は毒づいている。

あたしは何も言えずに、アルマジロくんとセフレちゃんの姿が遠ざかっていく姿を見つめた。


たくさんの女の子に囲まれているアルマジロくん。

だけど、唯一、空いているポジションがある。


――――――それが、恋人。


唯一、空いているそのポジションはずっと空席状態。

あたしが知る限り、そのポジションが埋まったことはない。


「あんた、あれになりたいわけ?」


つまり、アルマジロくんのたくさんの女の子の一人になりたいかってこと。

じとーっと睨む美紀に、あたしはヘラヘラ笑った。


「あたしがなりたいのは、アルマジロくんの彼女だから!」


美紀はあきれ果てて、頭を抱えた。


アルマジロくんはとてもカッコいい。


どんなカタチであっても、傍に居たいという人は多い。

だけど、あたしが欲しいポジションは、本命の彼女だ。


彼氏を作ったことがないあたしは、わからないけれど、きっと嫉妬深いと思う。

だから、ほかの女の子とアルマジロくんを共有するなんてできない。


あたしだけを見つめてくれないと――――――たぶん、一緒には居られない。



「アルマジロくんの彼女になれる子ってどんな子なんだろう――――――」


あたしはポツリと漏らした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ