素直
桜を見上げてると、あたしは癒される。
何故だか解らないが癒される。
「……キ、レイ……」
目の前を桜の花びらが舞落ちる。それを見ながらあたしは桜の花びらを追いかける。
バタバタと足音を立てながら、追いかける様は、まるで小さな子供そのものだ。こんな姿を他の人に見られたくはないが、桜の花びらを見るとどうしても追いかけてしまう。
「あっ……」
ため息をついて正面を見ると、見覚えのある服を着た男の子が立っていた。
「またやってるのか?」
「うん。桜が咲いたから」
この男の子はあたしの幼なじみであり、好きな人だったりする。
名前は海斗。
「オレの部屋に来ればいいのに」
そう言って、ニカッと笑う様はイケメンであたしの一番好きな表情だったりする。
「オレの部屋からよく桜が見えるんだから、そこで桜見ればいいじゃん」
海斗は軽く言うけど、あたしにとってはかなりハードルが高い。
「……行きたい、けど……」
「なら来いよ」
海斗はあたしの手首を掴み、さっさと海斗の家に向かって行ってしまう。その間、あたしは黙って海斗についていくしかない。
「ほら、ここからの方がよく見えるだろ?」
顔を上げて見ると桜が視界いっぱいにひろがっていた。
「キレイ……、海斗ありがとう」
あたしが桜を見ながら海斗にお礼を言うと、海斗にふんわりと包み込まれた。
「海斗?」
平常心を保ちながら海斗の名前を呼ぶが、あたしの心臓はうるさい位にバクバクいっていて、海斗にそれがバレるんじゃないかとヒヤヒヤしている。
「やっとのオレの部屋に来たよな、お前」
「そう、だっけ……?」
口では誤魔化しているが、まさに海斗が言う通りで海斗のことを好きだと自覚してから海斗の部屋に行くのを控えた。
「そうだ。だから、オレは寂しかった」
「ごめん……」
「謝らなくていい。今日、こうして、早奈英を連れてこられて良かった」
「キレイな桜を見せてくれてありがとう。あたしも来られて良かった」
すると、海斗の腕に力が入ったのがわかった。
「海斗?」
「オレ……、早奈英のこと……ずっと、好きだった。今も好きだ。だから、……ずっとオレのそばに、いて……くれるか?」
あたしは海斗も同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて、頬を濡らしながらコクコクと頷いていた。
海斗の手があたしの顎に触れると、あたしは自然と海斗がいる方向に向き直っていた。それからゆっくりとまぶたを閉じると、唇が暖かく感じた。
まぶたを開けると、目の前で海斗が笑ってる。それを見てあたしも笑顔になった。
「お前はその方がいい」
「うん」
随分前にあたしは、海斗に言われた事がある。
“なんでそんなに辛そうなんだ……”
言われたときはわからなかったけど今ならわかる気がする。きっとあの時のあたしは色んなことをガマンしていたんだと思う。
(もう……、ガマン……)
「しない」
「何か言ったか?」
「何も言ってない」
あたしの心のなかにも桜が咲いた気がして、心が軽くなった。
「海斗、大好き!」
あたしはおもいっきり、海斗に抱き着いていた。