時空の番人
なんだか不思議な感じがした。
宙を舞った二人は、次にはアスファルトの地面に叩きつけられるはずだった。しかし、そんな痛みはどこにも感じられず、足が宙に浮いたままの状態が続いていた。
いったい、どうしてこのような状態になってしまったのか?考えていても、何もいい答えは出なかった。余計に謎が深まるばかりだ。辺りはただ白く、まるで霧の中にいるようだった。
この不思議な空間の中でいったい何が起ころうとしているのだろうか。
「なんだ、ここは?!」
一瞬の出来事から我に返った篠宮が、不思議な空間の中で第一声を上げた。
「助けてください・・・」
また、あの声がした。細い女性の声だった。
声が聞こえた瞬間、真っ白だったはずの二人の目の前に1人の女性が姿を現した。彼女の服装は見慣れないもので、どちらかといえば洋風なドレスのイメージだ。金髪のロングヘアーが彼女の動きに合わせてフワフワと靡いており、額には青く雫の形をした飾りがつけられていた。
ヒラヒラの布の間から、細い足がスラッと見え隠れしており、手には木製で作られたであろう長い杖を握っている。杖の先端は丸く膨らんで輪になっており、その中には虹色に輝く宝石のような大きな石の塊がその存在感をこれでもかと言うように現していた。
「あなたは?」
彼女に見とれる篠宮を他所に、保志が淡々と彼女に対して質問を投げ掛ける。
「私はシェリム・リーナ、時空の番人です」
保志の質問にすぐさまそう答える。
「時空の番人?」
篠宮も一緒に聞き返していた。
「そうです。あなた達をここに呼んだのは私です」
その言葉を聞いた二人は、まだ理解しきれていない頭を整理しようと黙り込んだ。目の前で浮いて現れたシェリムという女性なら、今のこの空間に自分たちがいてもその人の仕業ざという事で説明がつく。しかし、それは悪魔でもゲームやアニメの中の話で、現実にそのような人物が現れるなんて想像もしていなかった。これは夢なのだろうか?
いや、そんなはずはない。
さっきまでいつもの日常を送っていた。突然帰り道で眠って夢を見るなんて馬鹿げている。少し考えはしたが、この状況を現実と受け入れるしか、他になかった。
「あなた達には、私の声が聞こえたはずです」
私の声・・・?つまり、彼らをこの時空に呼び出す直前に強い光と共に聞こえていた「助けて」という声だろうか。
「確かに、あなたと同じ声のように感じましたが?」
思い出しながら、保志が納得していた。
「そうです。私の声が聞こえ、この空間に来ているあなた達は、選ばれた戦士なのです。どうか、あなた達の手でミナルディを救ってください」
「ミナルディ?」
篠宮は、聞きなれない言葉を繰り返した。
「ミナルディは、星の名です。あなた達のいる地球と、ミナルディは時空間のバランスによって穏やかに保たれています。しかし、今ミナルディは危機に晒されています。邪神メデスによって」
シェリムは辛そうな表情を浮かべ、うつむきながら話を続けた。
「ミナルディは、滅ぼされようとしています。早くメデスを倒さなければ、時空間に歪みが生じて地球にも影響を及ぼします。」
「どうして地球が?関係ないでしょ」
聞き捨てならないと反論する保志に対して、シェリムは動揺することなく言い返した。
「関係あるのです。ミナルディと地球は、両方のバランスをこの時空間を仲介して保つことにより、双方の世界が成り立っています。どちらかが滅びてしまうという事は、時空間にも影響が生じてもう片方の星のバランスも崩れ、いずれ滅びてしまう事に繋がるのです。」
驚く暇もないほど淡々と語られたそれは、自分達の常識なんて何も通用しない内容だった。
自分達が選ばれた戦士?そんなゲームのような事が今、ここで現実になろうとしていた。
「よし、わかった!俺がその、ミナルディ星を救ってやるよ」
「ちょっ・・・!?」
顔の前で拳を振り上げ、意気込みながら篠宮は自信満々に返事を返した。さすがの保志も、そんな篠宮の言葉に驚きを隠せないでいる。
「頼みましたよ、選ばれし戦士達よ」
シェリムは安堵した表情を浮かべて言った。
その瞬間、周りにあった白い霧のようなものが歪んで再びあの強い光が二人の視界を遮り、その姿は見えなくなっていた。