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青春、食わず嫌い  作者: 朱雀大路
第一章
7/10

第四話:俺と蝉と花火と [上]

 鳴り響く着信音にたたき起こされた。スマホを手に取り電話に出ると良く知った声が聞こえてくる。

 「やっと出た。嵐、いつまで寝てんの? 昨日言った事、もう忘れたの? とにかく、早く学校に来て」

 何か一つ言い返してやろうと、息を吸った瞬間に電話を切られた。

━━━学校? 昨日? うーわ、やらかした。

 慌てて時計を見ると針は既に十時を過ぎている。急いで階段を下り、支度をして玄関から飛び出した。

 駅に向かって走っていると、公園や家の庭に植えられた木々から蝉の声が聞こえてくる。

━━━あの声を聞くと、体感温度が上がるような気がする。でも、あれだよ。彼らが鳴いているのは比較的涼しい時間なんだからね。

 駅に着いて電車を待っていると、思いの外それは早くホームに入ってきた。扉が開き、中へ入るといつも以上に静かでここでもまた、蝉の声が聞こえてきた。

 座席に腰掛けて時間を潰していると、一つ、また一つと駅を過ぎて目的の駅が近づく。

 俺は扉の前に立ち、開くのを待っている。

━━━実況者風に言うなら、さぁ、各馬ゲートが開くのを今かいまかと待ち構えております。て感じだな。

 等と下らない事を考えていると列車がゆっくりと止まった。ふと、ホームにいる駅員の名札を見ると『北』と書かれている。

━━━北さん⋯⋯きたさん。⋯⋯キタサン。うん。もうあれだな。扉が開く前にファンファーレを流さないと。

 ガタン、と音を立てて扉が開く。俺は急いでそこから飛び出し、学校へと駆けていった。


***


 校門に飛び込んで生徒会室へと向かった。扉を開けると、中にいた三人が次々に俺に言ってくる。

 「おい三室。重役出勤とはいい根性だな」

 「そうだよ、三室くん。遅刻なんて最低だよ」

 「嵐。錦ちゃんに言いつけるよ」

━━━遅刻はダメですか? 嫌がらせですか? 全部辛いんでやめてもらってもいいですか?

 しかも、会長が春の一言に食いついた。

 「天野さん。錦ちゃんというのは、三室くんの一体何なんだ?」

 「えっとですね。錦ちゃんというのは、嵐が愛してやまない妹ちゃんです」

 春が言い放った言葉を聞いた二人が冷たい目線を送ってくる。副会長に至っては、完全にゴミを見る目で見てくる。

━━━やめて、俺のライフはもうゼロよ。

 「つまり、三室はシスコンという奴なんだな」

 「ちっ、ちがいますから」

 「⋯⋯嵐。それは無理じゃないかな?」

 「春、そんなわけ⋯⋯」

━━━うん。無理だな。妹大好きだし、妹キャラ最高だし。なんなら、某在阪球団のピンク色のマスコットの動画を見てにやけてるわ。マジで妹サイコー。

 「⋯⋯ソンナコトナイヨー。ナニイッテルノー」

━━━あれれー、おっかしいーぞー。せっかく否定したのに三人の目がおかしいぞー。光を失ってますね。

 「とっ、とにかく、今日は台本を決めるんですよね?」

 この微妙な空気を変えるために一石を投じてみたが大したことないようで、一切焦る様子もない。それどころかむしろ、落ち着いているように思う。

 会長は机に置いてあった紙の束を持ってくる。

 「台本のことなら心配ない。もう終わっている」

 そう言いながら会長は手に持った台本を押し付けてくる。

 「取り敢えず読んでくれ。感想がほしい」

 それを受け取り、読み始めると周りからの視線が集まる。

━━━読みにくい。

 「あの、そんなに見られましても⋯⋯」

 「そっ、そうだな。すまなかった」

 「嵐、照れてんの?」

 二人はそう言っが、副会長は袖に口元を当ててクスクスと笑っている。ほんと、いちいち可愛い。

 ともかく、読み進めて行くと何となく知っているような気がする。そもそも、男女が入れ替わっちゃってるし。相手の名前も、知らないし。

 「ちょっと、これパクリじゃないですか?」

 思わず語気を強めると、会長は案の定と言わんばかりの表情を浮かべる。

 「そうだよな。しかし、これならうちの生徒にも受けると思ったんだが」

 「確かに話題作なら生徒たちも喜ぶとは思いますが、そのまんまというよりは、何点が捻りを加えた方がいいんじゃないですか?」

 「というと?」

━━━というと? 

 「例えばですけど、入れ替わるのは成人男性と幼女なんてどうでしょう?」

 俺がそう言うとさっきよりも冷たい視線が突き刺さる。

━━━おかしいな。空調の温度はさっきと変わらないし、温度計も二十八度を示しているし。そんなに寒いはずはないんだけど、一人だけ冷凍庫の中に迷い込んだんだろうか?

 そんな中、春は助け船を出してくれた。


 「嵐⋯⋯、シスコンのうえにロリコンだったんだね⋯⋯」


━━━全然、助け船じゃないな。むしろ、キュウリぐらいに塩を揉みこまれたな。傷口に塩じゃなくて、もはや、傷口を切り開いて岩塩をぶちこまれた感じだな。

 「とにかく、もう少し変えた方が良いと思いますよ」

 「⋯⋯そうだな。感想ありがとう。では、少し待っていてくれ」

 会長は他の二人と集まり、書き直し始めている。しかし、余り上手くいっていないようで、俺も何か意見を出そうとしたがきっぱりと断られた。

 しかたながないので、ゲームを始めた。


***


 「できたぞ、三室。早速、読んでくれ」

 会長が声をあげたのと同時に他の二人も嬉しそうに見ている。俺がそれを受け取り読み始めると、三人は近づいてくる。

 しかし、俺と彼女たちの間には川が流れているように、不自然な隙間がある。

━━━いや、何もしないんで大丈夫ですよ。

 ともかく、読み進めていくと先程の物とは全くといっていいいほど別物になっている。

 「前のやつ、全然関係ないんですね」

 「あぁ、しかし、こちらの方が良いだろ?」

 確かに、始まりが分かりやすく朝なのも評価できるし、特に文化祭が開催される九月にぴったりな夏の名残惜しさと季節の移り変わりが表現されている。

 俺がひとしきり感想を述べると、三人は満足そうに笑みをこぼした。そして、会長は一つ手をうち、さらに続ける。

 「よし、これで決まりだな。ドラマの撮影は来週だが、花火を見上げるシーンに使う花火の映像は、本物を使いたい。今夜、二人で撮りに行ってくれ」

 会長は俺と春にカメラと鍵を押し付け、副会長と共にさっさと帰ってしまった。

 「なぁ、春。今夜、暇か?」

 「⋯⋯うん。駅に七時ね。私、この後行くところあるから先に帰っといて」

 そう言って春もさっさと行ってしまった。

 戸締まりをして、職員室に向かう途中、廊下の窓の方でバタバタと羽音が聞こえる。一匹の蝉が校舎に迷い混んだみたいで、何度も窓にぶつかっている。

 俺は彼を手に乗せて、窓を開け放した。彼は外に出ると力強く羽ばたいて遠くへ飛んでいった。

 それを見送った俺は、カギを返して家へと向かった。


  


 

 皆様、お久しぶりです。更新できず申し訳ございませんでした。また、この話の後半部は明日投稿いたします。

 もしこの作品が面白いと思っていただけたらならば、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。

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