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青春、食わず嫌い  作者: 朱雀大路
第一章
4/10

第二話:風は自由気ままに吹いている [上]

 「⋯⋯ちゃん。お兄ちゃん。起きて⋯⋯朝だよ」

 

 そんな声に起こされる。明るくなった空から窓に光が差し込んでいる。妹に起こされるのは嬉しいが普段なら俺が、先に起きて錦のやつを起こすのに、今日は立場が逆転している。

 時計を見ると針は既に7時半を指している。慌てて布団から飛び起き、妹の待つ一階へと向かった。

 下に着くとテーブルの上に並んだ目玉焼き、みそ汁、ご飯が目に飛び込んできた。


 「なぁ、錦。これお前が作ったのか?」

 「そうだよ。だってお兄ちゃん、なかなか起きないんだもん」

 「この味噌汁は?」


 俺がそう尋ねたとき、錦はムッとした表情をした。

━━━やっべ、地雷踏んじまった。さっきの錦の表情から察するに、みそ汁はインスタントらしい。

 地雷を踏むと少しの間、錦と喋れないんだよなぁ。妹大好き、オフロスキーの俺からすると結構キツイ。しかし、妹がこんなに成長していたとは、兄としては感心せざるを得ない。


 「ほら、お兄ちゃん。早く食べて学校に行かないと、遅刻するよ」


 錦にそう促されて朝食をとり始めた。ふと、テレビを見ると近々、近くの浜で花火大会があると報じている。

━━━花火大会か。苦い思い出が甦る。

 あれは中二の夏のことだ。

 俺の数少なかった友人と、花火大会に行って夜店なんかを楽しんだあと、花火が上がり始めた時のことだ。花火の光に照らされた群衆の中に、俺が片想いをしていた女の子がいた。その横を見ると、先ほどまで隣にいたはずの友人が立っていた。

 次の瞬間、一際大きな花火が上がった時のこと、二人はキスをしたのだ。それを見たとき俺は居ても立ってもいられなくなり、友人に何も告げず先に帰った。それは夏休み中の出来事で、それから夏休みが終わるまでその友人と会うことは無かったし、あの光景が頭から離れなかった。

 夏休みを終えてから、クラス替えまで一言もその友人と話せなかった。俺の淡い恋は儚く散ったと同時に友人を失った。

 だから、俺は⋯⋯いや、何でもない。

 とにかく、夏の花火には良い思い出がない。


 「お兄ちゃん。何ボケッとしてんの、食べ終わったなら早く着替える」


 今度はかなり厳しい口調で促された。俺は言われた通りに支度を始めた。


 着替えを終え、玄関の扉を開けたとき、ふわぁとあくびが出た。足早に駅に向かい、電車に飛び乗った。昨日程ではないものの、蒸し暑い。

 ここから、学校の最寄り駅までは10分ほどかかる。昨日と同じようにスマホのゲームをしようと取り出したスマホの画面には、珍しくSNSの通知があった。そこには『ちふるちゃんから友達申請が来ました』と書かれていた。

 まさか、会長が俺の家族以外で初の友達となるとは思いもしなかった。

 早速、何かしらのメッセージを送って来ている。基本的には知らない人や不審者は無視することにしている。

━━━ほら、小さいときに良く言われるじゃん。知らない人から声を掛けられても無視しないとダメだって。

 でも、今回は違う。一応軽くこちらからも、挨拶をしておくか。

 しかし、そこで俺はあることに気付いた。家族以外の女の子とそのようなツールで会話をしたことがなかったのだ。とはいえ、既読は付けてしまっているし、どうするべきか。

━━━どうせ、放課後会うしその時に訳を話せばいいか。

 そう思いスマホをポケットにしまった。

 ふと、窓から外を見ると、太陽は高くまで昇ろうとしはじめている。

 肌でも充分感じられるが、やはり直接太陽を見ると暑さが増す。ものの一週間前までやれ雨だ、梅雨だと騒いでいたのにもかかわらず。

 やがて、駅に着きホームに降り立つと、昨日まで耳に入る事の無かった蝉の声が聞こえた。


━━━それはまるで移り変わって行く季節を表しているかのようで。

 春の次は夏、夏の次は秋、秋の次は冬、そうしてまた春に戻ってくる。しかし、二度目の春は一度目のそれとは同じようで異なったものである。他の季節も同じように全く同じものはないのだ。

 柄にもなくそんな事を考えてしまった。


***


 午前中の授業もつつがなく終わり、昼休みに入った。教室は一気に騒がしくなる。ある者は他の教室の恋人の所へ向かい、また、ある者は友人と集まってワイワイ楽しく昼食を取っている。

 俺には恋人もいなければ、友人もいない。そんな人間がこの時間に取るべき行動といえば、自分の席でおとなしくしておくか、学校の目立たない所へ行くかの二つだろう。

 俺は前者をよく選択するが、今日は気分を変えるために後者を取ることにした。弁当と水筒を持って席を立ち、廊下に貼られている校舎の地図を見た。

 この学校は川の字のように三つの主な校舎が並びそれぞれが隣の校舎と渡り廊下でつながり、さらにその三つを繋ぐように北側に北館と言われる建物がある。

 三つの校舎の間には、二つの中庭がある。そこは、比較的人も少なくボッチにとって、これ以上ない良い場所だ。マジ、ナカニワイズベリーグッドプレース。

 中庭に着き、食事を取ろうとした時、南の方から北館にぶつかるようにして強い風が吹いた。

 広げていた弁当箱の袋が勢い良く飛び出して飛ばされていった。それを追いかけていくと目の前に一人の女子生徒が現れた。


 「はい、これ」

 「あ、ありがとうございます」


 そう言って頭をあげたとき、上履きの色が目に入った。緑色だ。この学校では学年色というものが決められている。緑色は一年、青は二年、赤は三年というふうにだ。俺と同じ一年? 顔を見た。すると、その子が話しかけてきた。


 「三室くんだよね?」


 その子の口から飛び出した俺の名前に驚きを隠せなかった。

━━━えっ、何で、この子俺の名前知ってんの? ストーカーなの?


 「高浜 音波(おとは)って言います。同じクラスなんだけど覚えてないかな?」


━━━高浜⋯⋯? クラスに居るんだろうけど、何しろクラスで話すことが少ないもんで。というか、全く無いもんで、名前を覚える機会が無いんです。ごめんなさい。


 「ごめん。まだクラスの全員の名前を覚えられてなくて」

 「そっか、じゃあこれで私の名前は覚えられたね。それで、早速何だけど、相談されてくれない?」


 今、知り合ったばかりの人にいったいどんな相談だろうか。


 「まぁ、いいですけど」

 「じゃあ、早速だけど。確か、三室くん生徒会に入っているよね?」

 「そうだけど」

 「で、毎年文化祭のオープニング映像を作っているんだよね?」

 「そうらしいですね。今年が初めてだから詳しくは知らないけど」

 「そのビデオ、私たちに手伝わしてくれないかな? 私、演劇部なんだけど一年生が舞台に上がる事が少なくて⋯⋯だめ⋯⋯かな?」


━━━確かに、この学校の演劇部はなかなかの大所帯らしく、舞台に上がれない生徒も多いと聞くが。


 「いや、まだ何も決まってなくて、放課後に生徒会室に来てもらえたら、会長とも話せると思いますよ」


 そう言って俺はその子から離れようと、振り返った。すると、そこには良く見知った顔が二つ並んでいた。それの大きい方が話し掛けてきた。


 「なんだ、三室。彼女とお弁当タイムか?」

 「いや、これは、ちょっと相談を受けていただけで。それより会長方こそ、こんなところで一体何をしているんですか?」

 「私たちは、桜先生を探していたんだ。その途中で君たちの事を見つけて見ていたというところだな」

 「ちなみにですけど、どこから見てましたか?」

 「君の弁当箱の袋が飛んだ所からだな。そうだよな、幾夜(いくよ)

 「そうだよ~。三室くんの焦りっぷりたら、本当面白かったよね」

 「そうだな」


━━━そうだなじゃねーよ。始めからガッツリ見てんじゃねーか。何この人たちこそ、ストーカーなの?


 「わりと始めから見ていたんですね」

 「とりあえず、早く彼女を紹介してくれ」

 「いや、彼女じゃないですから。こちら、演劇部の高浜さんです。そうだ、高浜さん。今のうちに会長に話しておいたら?」


 俺がそう言うと高浜さんは大きく一歩踏み出してこう続けた。


 「あの、高浜 音波(おとは)って言います。実は、演劇部の中で文化祭のビデオに出してもらおうという話が持ち上がりまして。その事をお願いしたいんですが」

 「おお、それはありがたいが、構成等を決めてから改めてこちらからお願いしたい。一応連絡先を交換しておこうか」


━━━すげぇ、サラッと連絡先を交換しちゃったよ。

 世の男子諸君。こうすれば、簡単に女の子連絡先を手に入れられるよ。

 俺はそんな事を言えるたちじゃないけど⋯⋯。


 「はい。よろしくお願いします」


 そう言って高浜さんは、駆け足で教室に向かっていった。

 そうなると、俺は二人から激しい追及を受けることになるわけで。あれやこれやと質問されている内に、VRで議員さんに追及されるやつのことを思い出した。

 ほら、めちゃくちゃ追求されるやつ。あれ、動画サイトで見ましたけど、結構、迫力がありましたよね。

 とにかく、昼休みの残りの時間は上手くやり過ごしたけど、放課後のことを思うと寒気がしてきた。




 




 今回から投稿計画を改めまして、土曜日に話の前半、日曜日に後半を投稿していきたいと思います。

 また、誤字の指摘、批判、感想などご自由にお知らせ下さい。それでは、また明日の23時にお会いしましょう。

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