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青春、食わず嫌い  作者: 朱雀大路
第一章
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第一話:橙に染まる空には [下]

 家に着いた。玄関には鍵がかかっている。俺はそれを開けて中に入った。

 玄関を開けるとすぐに廊下が現れた。それを奥に進みリビングの扉を開けた。


 「(にしき)、ただいま」

 「お帰り、お兄ちゃん」


 ほんといいよね。家に帰ると妹がいる生活。

 独り暮らしだったらとか、考えると家に帰りたくなくなるよね。


 「ねぇ、お腹すいた。なんか作ってよ」

 

 錦はそう可愛らしく言った。しかしねぇ、君もう中2だよ。そろそろ、自分で料理ぐらいした方がいいんじゃないの? お兄ちゃん的には妹に用事を頼まれるのは嬉しいけどね。うん、嬉しい。


 「何か食いたいものでもあるのか?」

 「えっとねぇ。何でもいい」


 何でもいい、か。だいたい、女子の何でもいいには『お前ちゃんと私の気持ちを考えた行動をしろよ』みたいな意味含まれているよね。要は、忖度しろってことですか?

 本当に何でもいい時って何て言うでしょうか。教えてぐーぐる大先生。


 「焼きそばでいいか?」

 「えぇー。もっと野菜が入っているやつがいい」

 「お前、焼きそばにだってちゃんと野菜入っているだろ。ほら、キャベツとかニンジンとか、あとは⋯⋯とにかく入ってるだろ」

 

━━━あとは、うん。でもさ、焼きそばってソース味の野菜炒めにそばを突っ込んだだけって考え方もできるしね。大丈夫。あれは野菜がメインな気がしてきた。


 「じゃあ、錦のやつは野菜多めで。お兄ちゃんはそばだけ食べとけばいいと思うよ」


 錦の必殺パンチ。効果はばつぐんだ。嵐は気合いのたすきで持ちこたえた。

━━━ふぅ~、よかった。気合いのたすきを持っていて。

 どうやら、最近はお外にGOしたり、太陽と月とかがウルトラになったり忙しいらしいですよね。しかも、Zがメガでよくわからないどうも俺です。

 あのぉ、そろそろねぇ。あの世代をリメイクしてもいいんじゃないですか? 早くきれいな映像でしたいんですよ。

 

 「ねぇ、早く作ってよ。お腹すいた」


 はいはい、いまやりますよ。

 何でこんなにワガママな子に育ったのかしら、そんな子うちの子じゃない。あんたなんかもう知らない。て俺もよく言われたわ。うん、あれ結構イラッてくるよね。

 俺は冷蔵庫の中からキャベツ、ニンジン、麺、ソースを取りだし、フライパンを火にかけさっと焼きそばを作り上げた。


 「おっ、お兄ちゃんすごーい」

 「当たり前だ。俺が何年料理をしてると思ってんだ」

 「それもそうだよね。お母さんたち、昔からあまり家に居ないもんね」


 うちの両親は共働きで俺たちが小さいころから家に居ることが少なかった。だから、俺は昔から妹の世話をしてきた。

 日曜日はさすがに両親が二人とも家に居るが、妹の事ばかり気にかけている。だから、こんなにワガママな子に育ったのね。

 うん。うん。と納得して頷いていると錦が不思議そうにこちらを見ている。


 「どしたの? 何かあった?」

 「いや、別に。何もないけど」

 「あっそう。そうだ、錦、宿題を終わらせなきゃいけないから」


 そう言うと小さく手を合わせて『ごちそうさま』と呟き皿を片付けてさっさと自分の部屋へと言ってしまった。

 俺も食事を済ませ、皿洗いを始めた時だった。  

 テーブルに置いてあった携帯が鳴った。誰だろ。そもそも、俺の電話番号知っている人なんているのかな?

 恐る恐る画面を見ると見たことのない電話番号だ。最近はオレオレ詐欺とか流行っているらしいし、とりあえずスルーしてみるか。

 そういえば、オレオレ詐欺じゃなくてお母さん助けて詐欺って言うらしいですね。全くと言っていいほど浸透していないのに。なんで、こんな名称を作ったのやら。

 そのあとも何度も何度も電話を掛けてくるので意を決して電話に出てみた。


 「もしもし、どちら様ですか。あの、さっきからうるさいんですけど」

 「おお、三室。やっと出てくれたのか。私だ」

 「えっと、ワタシダさんなんて知り合いにいないんですけど」


 というか、電話をかけてくる知り合いなんて一人もいないけどね。べ、別に寂しくなんかないんだからぁ。


 「うん? 私だ、ちふるちゃんだ」

 「はぁ、神代(かみよ)会長でしたか。それにしてもどうして俺の電話番号を知っているんですか?」

 「あぁ、さくらちゃんに聞いたらすぐに教えてくれたよ」


 何やってんだよあの人。今の時代個人情報はすぐに教えちゃダメだって言われてるんだよ。コンプライアンス、しっかりしてください。すぐにって悩む暇もなかったのかよ。


 「はぁ、そうですが。 で、ご用件は何ですか?」

 「いや、文化祭の事で相談があるんだ」

 「はい、なんでしょう?」

 「詳しい事は明日話す。放課後、出来るだけ早く生徒会室に来てくれ」

 「わかりました。じゃあ、明日放課後に」

 「あぁ、じゃあな」

 「はい、さようなら」


 そうして、電話を切った。本当にあの先生は何やってんだよ。そう思いながら、携帯を置き顔を上げた。

 そこには、錦が仁王立ちしていた。


 「お兄ちゃん、今の電話誰から?」

 「誰って、生徒会長からだけど」

 「女の子?」

 「そうだけど」

 「どんな事を話したの?」

 「文化祭の事で話があるから、明日の放課後早く生徒会室に来いって」

 「それだけ?」

 「それだけ」

 「本当にそれだけ?」

 「本当にそれだけ」

 「あ、もう、わかった。 とりあえず錦早くお風呂に入りたいから洗って」

 「風呂洗いの当番今日はお前の日だろ?」

 「でもさ、勝手に女の子と電話してたし」


 えっ、やだこの子。いつの間に俺の彼女になったんだよ。


 「だったら、皿洗いをするか?」

 

 俺がそう言うと錦は諦めたのか、くるっと身を(ひるがえ)して風呂場に向かった。なにやら文句を言いながら洗っているようでブツブツ聞こえる。

 

 「錦、どうしたんだ?」

 「何でもない!」


 思いの外大きな声が帰って来た。

━━━ビックリした。まさか、錦があんな大きな声を出すとは。とりあえず、黙って洗い物を続けるか。

 洗い物を済ませたとき、錦が帰って来た。


 「お兄ちゃん。いちいち、女の子の独り言に反応しないで」


 そう言うと錦はソファーに寝転んだ。

 女の子の独り言ねぇ。

 あのきっつい思い出が脳裏に浮かんだ。


 あれは中二の夏休み前のこと、授業中に後ろの席の女子が『暑い』と呟いた。俺は、話し掛けられたと思い後ろを向いて『そうだな』と言った。

 すると、どうだろうか。周りの同級生たちが一斉にこっちを向き俺を生ゴミを見る目で見てきたのだ。なぜそんな目で見られているかわからず、ふと、後ろを見ると、俺が話し掛けられたと勘違いした女子が泣いているのである。

━━━あぁぁ、これ以上思い出したくない。なんか放課後に職員室で反省文を書かさせられたし。今思うと完全ないじめだよね。

 とにかく、女の子の独り言には注意しなきゃな。

 でも、あの方々、独り言だと思って無視している時に限って、話し掛けている事が多いよね。ほら、タクシーみたいに表示板で『話し掛け』とか『独り言』とか表示してくれたらいいのに。

 ほら、今、世の中ではさ透明化が図られているじゃん。


 「あぁ、ごめん」

 「わかったら宜しい」


 錦は女子に売れているらしい雑誌を読みながらそう言った。

 うぁ、その雑誌の表紙完全に整形した芸能人だね。しかも、見出しには『これでめちゃモテ間違いなし』とか『女を魅力的に魅せる小物特集』とかいかにもバカ⋯⋯もとい、元気のよい女子が飛び付きそうな言葉が並んでいる。そんな事ぐらいでモテるなら俺だって既に彼女ぐらいいるはずだ。

━━━さてさて、テレビでも点けるか。

 しかし、そこに映ったのはあの雑誌の表紙の芸能人だ。それに気付いたのか錦は既にテレビに釘付けだ。

 

 「なぁ、先に風呂入ってもいいか?」

 「うん。いいよ。でも、この番組が終わるまでに出て来てね」

 「あいよ」

 

 さてと、錦からも許可を得たので早速風呂に入ることにしますか。


***


 気が付くと外から錦の声が聞こえる。早く風呂から出ろって大声で叫んでいる。


 「あぁ、わりぃ。ちょっと寝てた」

 

 すぐ出ます。はい。今すぐ。と会社員みたいな事を呟きながら風呂から上がった。ついでに、歯も磨く。ふと、時計を見ると9時半を指している。今から宿題をして、色々することを考えるとあまり時間がない。

 俺は服を着て二階の自分の部屋へと駆け上がった。


 自室に入って机に宿題を広げる。えっと、数学に国語に。考えたくないほど多い。


 それらを終えるとの時計の針が12時を指そうとしている。ベッドに転がって今日の事を思い出した。

 相変わらずの会長と副会長に違和感のあった春との会話。ひとつひとつを細かく思い出すと時間が掛かってしまいそうだ。

 だが、ひとつひとつ思い出してみる事にした。

 春との会話について思い出そうとした時、俺はすっと眠ってしまった。

 気持ちよく。

 肩の力が抜けていくように。 

 今ならすべてを受け入れられそうな位に。




 

 とりあえず、第一話終わりました。

 第二話は来週の日曜日に投稿する予定です。


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