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TS村娘は冒険者になる  作者: りゅうせい
第1章トルクの村
9/24

村娘は返事をする

今回も長いです

 魔物の暴走(スタンビート)、これはこの世界の森等の魔物の密度が高い場所では時々発生する現象である。トルクの村の周りに広がるこの森では10年に一度ぐらいの割合で発生している。原因はよくわかっていない。

 森の中心部付近から興奮状態の魔物が群れを作って人間の多い場所へ向かって行進してくる。

 兆候はけっこうわかりやすくて、魔物が興奮しやすくなり、普段一緒に行動しないはずの種族同士が群れを作り始める。今回は複数の冒険者がこの兆候を目撃しているため、スタンビートの発生は確実と思われる。


 兆候が出て、すぐに魔物たちがやってくるわけじゃないが、しばらくは忙しくなる。

 村の外周を囲む柵はスタンビートをまったく防ぐことができない。

 なので、畑は諦めるしか無く、現時点で収穫できるものは全部収穫してしまう。

 住居を囲む柵はこの時のために丈夫に作られており、しばらくはこの内側で立てこもることになる。収穫物や水などを急いで中に運び込まなくてはならない。


 村に警報が響いた日からあたしは畑の収穫、柵の補強等で忙しくしている。

 なので、リグットへの返事は後回しになっている。

 この状況では落ち着いて話なんてできない。


 3日後、いよいよ土煙をあげて魔物たちがやって来た。その数は数千匹を超える。

 小型や中型の魔物がほとんどで、Cランク以上の強力な魔物はいない。Dランクも大牙イノシシと灰色オオカミが数匹いる程度だ。Cランク以上の魔物はスタンビートが起きても住処からは動こうとはしないものらしい。


 村を囲む柵は柵というよりも壁といったほうが近いかもしれない。

 外は2mほどの堀が掘られており、その内側に3mほどの丸太と石で柵を作っている。強化魔法がかけられており、魔物の突進にも耐えられる作りになっている。

 堀もあるため、ジャンプで超えられる魔物はいない。よじ登ってくる魔物もいるが、少数で小型のものしかいない。登ってきたところを狩るのは簡単だ。

 相手が統率の取れた軍隊なら不十分だが、魔物の群れ相手には有効な守りである。現に今まで十数回もスタンビートに耐えてきた。

 村の皆も気を抜いたりはしないが、今回も大丈夫だとみんな思っている。


 村人は交代で柵を見張り、登ってきた魔物を討伐する。

 あたしもそこに参加しており、交代の為、持ち場へ向かう。

 そこには偶然リグットもいた。


「……」

 気まずい。

 でも、もしものために意思疎通はできておかなくちゃまずい。話はしなくっちゃ。


「あの、リグット」

「うん?」

「あの返事は……その、スタンビートが過ぎてからでもいいかな? 今は考える余裕がないんだ」

「ああ、俺もそのほうがいい。……にしても俺って本当タイミング悪いよな」

「あはは、本当だね」

「よし、決めた。俺スタンビートが過ぎたらもう一度告白する」

「は?」


 いやいや、おまえもうすでに告白してるじゃん。このタイミングだと死亡フラグみたいだからやめろ。


「恥ずかしいからやんなくていいよ。ちゃんと返事するからおとなしくまっていろ!」

「えーだってあの告白、勢いだけっていうか考えなしだったというか、男らしい告白じゃなかったと思うんだ」

「だからといって、告白にやり直しは効きません。それに……あの告白は潔い感じでちょっとだけ男らしいと思うよ」

「本当? そっかー、男らしいかー。えへへ」

 まあ開き直りを好意的に受け止めたら男らしいと思わなくもない。今の気持ち悪いニヤニヤをみると、取り消したくなるけど。


「そういえば、あの髪飾りは付けないのか?」

「え“っ、あの髪飾り。付けないよ!恥ずかしい」

「なんで? すごく似合ってたよ」

「似合っていてもダメ。あたしはかっこいい冒険者を目指すんだから、ああいう可愛い飾りはダメダメ」

「俺は、その、かっこよくて可愛いリアナが好きだよ」

「ちょっ、いきなり何言ってんの……」


「ゴホン!」


 後ろを見ると数人の村のおじさん。

 そもそも柵の見張りは何人もいて、さっきから何人か後ろを通っていたりする。

 さっきまでの会話もおそらく周りに聞こえていたことに今さら気づき、顔が熱くなる。


「リグット、リアナ、交代だ。その、なんだ、微笑ましいとも思うんだが、独身連中が可愛そうだ。続きは奥でしてくれ」



 追い出されたので、村の中心部に行く。中心の広場には子供や老人、戦うのが苦手な人が集まっている。

 今の村は二人っきりで話せるような場所はないので、あんな恥ずかしい会話はもうやらない。

 ジョセ兄がいればこんな惚れた腫れたの会話にならなかったのに……。このタイミングで街にいるなんて運がいいのか悪いのか。




 5日後。

 スタンビート発生中の魔物たちはとにかく人間の多くいる方向を目指す。

 そして、同時に同じ場所に長くとどまることを嫌う。

 なので、通常スタンビートは2日ほど耐えれば、魔物たちは別の村や街へ向かい危険は去る。


 だが、今回のスタンビートは様子がおかしい。

 なぜか5日経っても村の周りにとどまっている。

 食料も水も余裕をもって蓄えられているし、柵の強度もまだまだ大丈夫なので問題はない。

 しかし、いつもと違うということは何が起きるかわからないということでもあり、皆不安になってきている。


 緊張が続く中、5日目の夕方、ようやく魔物たちが村から離れ始める。

 しかし、向かう先は他の村や街の方角ではなく森の中心部へ引き返している。

 何かいつもと違うことが起きている。そんな予感がした。


『隠密』の加護を持つ冒険者と気配を消すのがうまい冒険者数人が魔物の群れを追跡する。

 その結果が出るまでは本当に安全かどうかわからない。

 でも、村の周りからは一旦は魔物がいなくなった。




 魔物の群れが去った翌日、あたしはトム兄と一緒に家で編み物をする。

 トム兄は普段あまり狩りに行かない。狩りが苦手なわけではなく、他に好きな趣味があるからだ。


「できたよ。はい、リアナ」

 トム兄が縫ってくれたのは革のブーツ。


「ありがとう、トム兄。相変わらずあっという間だね」

 底がほぼ剥がれかけだったブーツがあっという間に縫い付けられている。

 トム兄はとても器用で、木工細工や革細工などの細工をするのが好きらしい。

 今までもブーツや手袋などいろいろ作ってもらってきた。

 精神年齢はあたしの方が高いはずなのに、あたしよりずっと大人で、よく相談にものってくれる。


「それで……なにか悩んでいることでもあるのかい」

 相談する前に気づかれちゃった。敵わないなぁ。

 あたしは素直にリグットに告白されてどう返事するかで悩んでいると打ち明けた。トム兄はこういう話でも笑ったり茶化したりしないので、すごく相談しやすい。


「うんうん、それって告白を断るか受けるかで悩んでいるんだよね?」

「うん、そうです……」

 そうなんだよなー。何日も経っているのに肝心な部分を決められずにいる。あたしってこんな人間だったけ?


「ふーん、それって悩んでる時点で答えは出ているんだけれどね……」

「え?」

「だって、その気がないのなら悩むことはないはずだよ。わずかでも告白を受けてもいいかなって考えているから悩んでいるんだよ」


 え……、……そう……なのかな?

 でも、確かに1年前、いや半年前なら悩むことは無かったはずだ。その頃に告白されたのならその場で断っていた様な気がする。


 今はなんでそれができないのだろう?


 断るのが可哀想だから……。面と向かって断って相手を傷つけるのが怖いから。

 最初はそんな理由だったと思う。

 だから、リグットがあたしに気があるのに気づいてからは、あたしはリグットが告白するチャンスを潰してきた。普段はジョセ兄を交えた3人で行動し、2人っきりになったら恋愛につながる話題を避け、それっぽい雰囲気になってしまったら急いで話題を逸らす。

 今思うとこっちのほうが可哀想なことをしている。

 リグットの度胸もちょっと足りなかった。だからこそ、リグットは模擬戦に勝ったら告白するなんて言ったのかもしれない。

 あたしの方が臆病で卑怯だった。

 今はもう告白されてしまった。可哀想だから返事を保留にするなんてできない。


「まずは、できるだけ自分の気持ちに対して、正直に向き合ってみるのがいいよ」


 ふいにトム兄にそう言われて、あたしはもう一度自分の気持ちを確認してみる。

 リグットは自分の気持ちに対して正直に行動する。

 いつもあたしに真っ直ぐな好意を示してくる。本人は自分でも気づいていないが、わかりやすい行動をするのだ。

 同じ本を読みたがるし、訓練も真似したがる。あたしが好きだと言った果物を1人で取りに行って怒られたりもする。狩りで難しい技を成功させたリグットを褒めると、頭がおかしくなったんじゃないかってぐらいテンションをあげて喜んでいた。

 そんなリグットをあたしはいつの間にか、かわいいなって思ってしまって……。


 ……え!? まじで!

 な、何考えてんだ、あたし。男相手に……かわいいとか……。


 ……いや、否定できない……よね。

 自分と向き合った結果出てきてしまったんだから。

 不本意だけど、すごく抵抗あるけど、認めるしかないかな。

 この世界に生まれて14年。前世の価値観とは変わってしまった自分が存在する。


 リグット相手に友情とは違う形容し難い妙な感情がある。


 これが何なのか、恋愛感情だと確信は持てないけど……。

 もっとこの感情を確かめたい、知りたいって欲求が湧き上がってくる。


 でも、これ。付き合う理由になるかな?

 リグットがあたしに向ける感情はずっと真っ直ぐで確かなものだ。

 リグットからあたしへの好意ほど、あたしからリグットへの好意は強くない。

 これじゃあ釣り合いがとれないのでは。


「まあ、あんまり深く考えずに気楽に付き合ってみれば?」

 え、そんなに軽い感じでもいいの? っていうかトム兄、さっきから絶妙なタイミングでアドバイスしてくるけど、思考でもよめるの?


「釣り合いがとれるかどうかとか、誠実じゃないとか深く考えても仕方ないよ。付き合ってから分かるってことの方が多いらしいよ。現にトリスさんってはじめて会ったその日に口説くことのほうが多いらしいよ」


 あートリスお姉さんさんならそれも有り得そうだな。ってトリスお姉さんを参考にするのはどうかと思うよ。

 あと、トム兄はいつの間にトリスお姉さんと仲良くなってたの。


 えー、うーん、気楽に考えてもいいのかー。

 じゃあ付き合っちゃおうかな。

 リグットと付き合う。…男と付き合う? ……え。

 あれ? 本当にいいのかな? 本当に気楽に考えていいのか?


「いやいや、ちょっと待って。トム兄、本当にいいの? あたしがリグットと付き合ってトム兄はなにか思ったりしない。寂しいとか、可愛い妹を奪いやがって、とか」

 って何言ってるんだ。そんなことを聞きたかったわけじゃ無いのに。


「ううん、ちょっと寂しいけど、リアナが幸せなら僕は全然かまわないよ」

「そ、そですか」

「リグットは優しい奴だから安心して行ってきなよ」

「あう……。ダ、ダメ! やっぱり無理。あたしには付き合うとか早すぎる」


 ダメだー、なんか本気で付き合うって考えると急に怖くなってきた。

 うう、あたしヘタレすぎる……。


「まあ、今は無理って返事も選択肢の一つだよ。僕達まだ若いんだからさ。

 そうだ、もういっそのこと相手の顔を見た時に返事を決めてしまえばいいよ。勢いで決めてしまった方がたいてい上手くいく」


「というわけで、はい、服と髪飾り。ワンピースの方はちょっとアクセントを付けてみたよ」

「え、これ着るの?」

「善は急げだ。これ着てリグットを動揺させて自分のペースに持ち込むんだ」

「お、おう」

「ほら、髪はやってあげるから着替えて」


 言われるがままに着替えてしまった。

 髪よりも薄い色をしたオレンジのワンピース。裾の方に小さな花がらの刺繍がされている。

 ズボンと違って足が露出していてなんか不安になる。

 このワンピース肩もしっかり出る作りで、いつも着る長袖と比べて肌の露出が多すぎる。

 これで外に出るとか正気じゃないよ。


「うん、やっぱり似合っているよ。リグットが見たらすぐに固まっちゃうね」

「や、やっぱりダメ。着替えてくる」

「ダメダメ、もう元の服は洗濯するため水に浸けているから」

「そ、そんなー」

「ほら、決心が鈍らない内に行っておいで」


 トム兄、酷い。いつもはあんなに優しいのに……。

 家を出てほんの5秒でリグットの家に到着。隣だもんね。

 リグットのお母さんにばったり遭遇。


「あら、リアナちゃん。わー何その格好。可愛いわねー、ついにうちの娘になる決心をしたのね。お母さん大歓迎よー」

「ち、違います。違います」

「ふふ、冗談よ。リグットよね。呼んでくるわ」


 リグットのお母さんちょっと苦手だな。テンション高いから。

 リグットはすぐに出てきた。


「や、やあ、リアナ」

「おはよう、リグット。ちょっと向こうまで歩かない」

「ああ、わかった」


 リグットの声はちょっと震えている。顔はまだ見ていない。

 顔を見ずに声だけ掛けて歩きだす。ちょっと失礼な行為だけど、今だけは許してほしい。

 家の裏、人目のないところで振り向き、リグットと真正面から向き合う。


 リグットの顔を見る。この顔をみて決めてしまおう。


「……」

「……」

 リグットの顔は完全に真横を向いていた。


「ちょっ……リグット。こっち見てよ」

「いや、その……でも」

 横顔じゃあ決断できないだろ。

 近づいて両手で頭を挟んでこっちに向ける。

 こっちを見たリグットは口をポカンと開けて硬直してしまった。1ミリも動く様子がない。


 一歩後ろに下がり、一歩横に動いてみる。

 目線だけはこっちに向けるけど、相変わらず硬直しっぱなし。

 まったく、イケメンが台無しになるアホ面だ。


 この顔を見ているとなんだかこいつと新しい関係を築くのもいいような気がしてきた。

 たぶん、あたしたちの関係は少し変わってしまう。ただ、それだけの話。


「付き合ってもいいよ」

「え、今なんて」

「二度も言わない」

「今、付き合ってもいいって」

「うん、そう言った」

「本当に?」

「うん、本当」

「本当に本当?」

「だから本当だって」

「う……」

「う?」


「うおっしゃー! やったあー! うおおー最高―! うれしー! やったぜえー」


 その日、叫びまくったリグットの声で村中にあたしたちが付き合ったことが知れ渡り、あたしは恥ずかしい目にあう。

 そして次の日、一日中口をきかないあたしに対して謝り続けるリグットが目撃されたという。




 ――――


 スタンビートが去ってから3日目。

 魔物たちを追跡していた冒険者たちが戻ってきて、今回の異常の原因を報告する。


 それは、魔王の誕生という報告だった。


 村長はすぐに決断を下す。


「村を放棄するぞ」


 ――――


 冒険者の間では魔物のランクはS,A,B,C,D,E,Fの7段階で評価される。

 冒険者も同様にS,A,B,C,D,E,Fの7段階に分けられる。

 リアナが冒険者になったら詳しい説明を書く予定。


おかしいな。プロットが崩れていく。

主人公とリグットのからみにこんなに文字数使うつもり無かったのに。


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