村娘は恋愛に悩む
今回、結構長くなってしまいました
今の時期は村に多くの冒険者がやってくる。
他の時期も冒険者はやってくるのだが、今は貴重な野草の開花時期で、その野草自体やそれを狙った魔物の素材をもとめて多くの冒険者がやってくるのだ。
村は4件ほどの家を冒険者に貸し出しているのだが、全てぎゅうぎゅう詰めになるほどだ。貸し出した家の賃料や食費など、村にとっても収入が増える時期ではある。
ちょうどわが家にもお客さんが来ている。
すらっと背の高い女の冒険者で母の妹にあたる。名前はトリスというらしい。あたしからみると叔母ってことになるのかな。母よりも年齢はだいぶん若そうだ。
長い金髪をポニーテールで後ろにまとめ、革の防具を着込み背中にはロングソードを背負っている。
切れ長の大きな瞳に細く形の良い眉、目鼻立ちがキリッとしていてすごい美人だ。
かっこいいタイプの女性だけれど、ニコッと笑うとすごく優しい印象に変わる。
「今日から少しの間こちらでお世話になります。よろしくね」
目が合うとすっごくいい笑顔で近づいてきた。
「リアナちゃんもだいぶん大きくなったわね。すっかり美人になっちゃった」
「え?」
「やっぱり覚えてないかー。以前にあったのは10年ぐらい前だからね」
「当たり前よ。そのときリアナは3歳か4歳だったんだから。冒険に行ったきり10年も顔を見せに来ないなんてまったくもう……」と母がぼやく。
「ごめんね、モリー姉さん。いろいろやりたいことがあって気がついたら10年も経っちゃったのよ」
「ほんとにもう……トリスは昔から変わらないわね……」
という訳で、しばらく家で過ごすことになったトリスさん。
ちなみにトム兄は薄っすらと覚えているらしい。美人を相手に一言もしゃべれない状態になっているけど。気持ちはわかる。
あとジョセ兄は今街に行っているので家にはいない。ジョセ兄も美女に免疫はないはずなので、ガッチガチに緊張しただろうな。
街に行っている理由はメリアーナ教会で加護を確認してもらうため。村には教会が無いので、15歳の成人を期に加護の確認のため街まで旅をしろ、というわけだ。
今日はあたしがトリスさんに村の中を案内することになった。
と言っても見どころはあまり無い。と言うか母と同じでトリスさんはこの村で育ったはずなので案内も実は必要ない。
まああたしの方はトリスさんとお近づきになりたかったので、それでもかまわない。
「あの、トリスさんって高ランクの冒険者なんですよね?」
「うんそうよ、私はCランクの冒険者で中堅の上の方ってところだね。あと、「さん」づけなんて畏まらなくてもいいわよ」
「さん」づけしなくてもいいって言われても……。
トリス叔母さんって言うには若すぎる、っていうか叔母さん呼びはよけいに嫌だろ。
「えっと……じゃあ、トリスお姉さん……」
「す、すっごくいい!」
あ、なんか変なスイッチ押してしまったみたいで、急に抱きついてきた。
あ、あったかくて柔らか……。
「リアナちゃん。もう一回、もう一回言って!」
「えーと、トリスお姉さん」
「くぅーお姉さん呼び、ヤッバイ。すっごく萌える。ねえねえリアナちゃん。お姉さんにして欲しいことない? 今ならなんだってやっちゃうよ」
やばい、トリスお姉さんのテンションがおかしくなってしまった。
なかなかハグから開放してくれない。柔らかくていい香りで苦ではないのだけど、周りの視線が気になってくる。
「あ、そうだ。あたし魔法をあまり見たことないから見てみたいなーなんて……」
「魔法? 全然かまわないよ。とっておきのを見せてあげる。あ、でも、私の名前を言いながらもう一度おねがいしてくれたら嬉しいなーなんて…」
「あたしトリスお姉さんの魔法が見たいなぁ(棒読み)」
「きゃーリアナちゃんまじ可愛い。全然いいよー」
この村ではあたしと年の近い女の子はほとんど年上だったので、お姉さん呼びは自然と出てきたのだけど、そこまで可愛いって言われるとさすがに照れる。
それに、スキンシップが激しくてちょっとドキドキする。
今も腕を組みながら移動している。
少し開けた広場まで移動して魔法を見せてもらう。
移動中、赤い髪が綺麗だよ、ほっぺも柔らかい、お腹が細くてセクシー、等すごいべた褒めしてくるので恥ずかしくて顔が赤くなる。お姉さんはナンパでもするつもりですか?
言われっぱなしもあれなので、あたしも褒め返す。
「トリスお姉さんも、その、綺麗でかっこよくて素敵です」
「あら本当? ありがとう、すっごく嬉しい。うふふ、私ってかっこいいんだ。ねえ、私のどんなところがいいと思う? 教えてほしいな」
「えと……背が高くてスタイルが良くて、格好もオシャレだし、見とれてしまうぐらい綺麗です」
「ふふふ、ありがとう。リアナちゃんもスタイルが良くて素敵よ」
なんだこれ……なんであたしはこんな恥ずかしいことをしているのだろう。
都会の女の子はみんなこんな褒め合いっこをしてるのか? 頭から湯気が出そう。
「ふふ、ごめんね。リアナちゃんが恥ずかしがっているのが可愛くて、ついついからかいすぎちゃった」
む、トリスお姉さんはちょっと意地悪だ。でも嫌いにはなれない。むしろ好き、なんか憧れる。
女として生きていくならこういうかっこいいタイプの女冒険者とかもいいかもしれないな、なんて思ってしまう。
広場まで来てようやくお姉さんの褒め殺しとスキンシップから開放された。
ここで魔法を見せてくれるらしい。
魔法を身につける為には高価な呪文書の購入が必要で、それ以外では身につける方法はない。呪文書には詠唱文と魔法陣が書かれており、その魔法陣を身体に刻み込むことで魔法を身につけることができる仕組みになっているらしい。
呪文書は紙もインクも特殊な素材でできており、さらに1人に対して一回きりの使い捨てであるため、値段は非常に高い。
なので、冒険者の中でも稼ぎの多い人間しか魔法を身につけたりはしない。村でも魔法を身に着けている人は2人だけだ。
そんな中トリスお姉さんは魔法を4つ身につけているらしい。相当稼いでいる上級冒険者だとわかる。
「まずは一つ目、『ウォーター』」
すると指先からちょろちょろと水が出て来る。
「これは初級水属性魔法、攻撃力もない安い魔法よ。生活や旅にすごい便利なのよ」
「次は『ファイヤ』」
指先から10cmぐらいの炎がのぼる。
「これは初級火属性魔法、これ自体は攻撃力は無いの。実は攻撃魔法を取得するにはこの属性魔法を取得してなきゃいけないのよ。面倒くさいね」
「次は『ファイヤーボール』」
今度は手のひらからバスケットボールぐらいの大きさの火の玉が飛んでいって岩にぶつかった。
岩にぶつかった後は岩全体に炎が広がり、数秒後消えてしまった。
「これは初級攻撃魔法、燃えやすい敵や火に弱い魔物にはそこそこ効果があるのだけれど、それ以外の敵にはあまりダメージが無いの。他は硬い敵の防御を少し削れるぐらいかな。値段も高かったし、魔力も消費するけど、使う頻度はあまり高くないわね」
「最後は『爆槍』」
トリスお姉さんの手には先を削って尖らせた木の棒がある。
それを地面に突き刺すと、素早くバックステップで距離を取る。
次の瞬間。
……ドンッ! という大きな音とともに地面が爆発した。
「これは中級攻撃魔法、槍のような武器を爆発させる魔法。敵に刺して発動すれば大ダメージを与えられる。ただ、毎回武器を爆発させるのであまり経済的じゃないわね」
おおー最後の爆槍ってのはすごかった。地面に小さなクレーターができている。
ただ、事前に聞いていなかったあたしは泥まみれになっちゃったんだけど……。
「あ、ごめん。泥だらけにしちゃった。着替え持ってくるから水浴びしましょう」
村の端っこ、畑からちょっと歩くと川が流れている。
その一箇所には木の壁で囲われたスペースが有る。女性が水浴びできるように作られたものだ。
その中であたしはトリスお姉さんと裸で向き合っている。
「トリスお姉さんも水浴びするのですか?」
「うん、泥は浴びてないけれど汗はかいたからね」
女の人の裸はもう見慣れたはずなのに、トリスお姉さんの一糸まとわぬ姿には思わず見とれてしまう。
スラリと伸びた手足と鍛え上げられた身体。だけど、女性らしい丸みもあり、芸術の様に綺麗だ。
「……はっ!」
自分でも気づかないうちに数秒間見惚れていた。
お姉さんが少しニヤリと笑った気がした。
「そうそう実はこんなこともできるのよ。『ウォーター』『ファイヤ』」
そう言って手を上にあげるとそこから温水が出てきた。
「練習すればこうやって属性魔法を組み合わせることもできるの」
「一緒に浴びましょ」
同時にあたしは抱き寄せられ、一緒に温水のシャワーを浴びる。
トリスお姉さんのすべすべした肌と柔らかいおっぱいが身体に密着する。
なんだかすっごく艶めかしい。
「リアナちゃんの肌、すべすべして気持ちいい」
そう言いながらお姉さんはあたしの背中や二の腕、お腹へと手を滑らせていく。
くすぐったいのにドキドキする、妙な気持ちが湧き上がってくる。
「トリスお姉さんちょっとくすぐったいです」
「はは、ごめんごめん。じゃあ私の身体も触っていいよ」
そう言われてあたしは思わず目の前の形のいいおっぱいを見てしまった。
いやいや、ダメダメ。さすがにそこ触っちゃダメだろ。
「あの、トリスお姉さん」
「ふふ、なあに?」
「な、なんであたしの手にキスをしているのですか?」
「えっとねーそれはねー……どこまでしても大丈夫かどうか、反応を見ながら試しているの」
「え?」
そう言ってお姉さん、今度はおでこにキスをする。
あたしは固まったまま手に残る柔らかさと額の熱を感じとる。
そうしている内に今度は鎖骨にキスをされる。
ど、どうしよう。これは拒否しないとどこまでもやられちゃうんじゃないか。
いやいや、こんな綺麗なお姉さんのキスは受け入れちゃってもいいのでは。
思考がぐちゃぐちゃになってきた。
心臓は速い脈を刻み、顔はすごく熱くなっている。
けど、見つめ合ったお姉さんと視線を外すことができない。
そして、そのままお姉さんの顔が近づいてきて……。
チュッ。
唇からすごく近い頬にキスされた。
「あーやばいやばい。リアナちゃんが可愛すぎて思わず唇にキスしてしまいそうになっちゃった。さすがにファーストキスを奪ったら姉さんに殺されちゃう」
はっ! どうやらあたしはからかわれたみたいだ。ぐぬぬ……めちゃくちゃ恥ずかしかった。それに、なんでキスを受け入れようとしてるんだ、あたし。
「お姉さん、からかったんですか?」
「ごめん、リアナちゃんが可愛すぎてつい……」
「つい、じゃありません。お姉さんとはもう二度と水浴びはしませんから」
「う、本当にごめん。もう二度としないから許してー」
本当にもう、冗談にしてはやりすぎだよ。あんな……あんなことまで……。やばい、思い出すと恥ずかしくなってくる。
もうさっさと着替えてしまおう。
なにこれ?
トリスお姉さんが持ってきた着替えはオレンジのワンピース。
こんな女の子っぽい服は着たこと無い。
「ふふ、これは私からのプレゼント」
「え、そんな高価なものをもらうわけには…」
この世界、こういった服は高いはずだ。あと、着るのも恥ずかしい。
「いいのいいの、お詫びと思って受け取って」
他に着るものも無いので、仕方なく袖を通す。
「うんうん、思った通りすっごく似合ってるよ。髪も整えてあげるから後ろ向いて。……あ、もうエッチなことはしないから大丈夫よ」
あたしはいつも肩に届く手前で髪は切ってしまうのでそれほど長くない。いつも髪はそのままにしている。
今日は後ろで髪を留めてくれる。
前髪も何かで固定される。
「ちょっと見てみて」
水瓶を覗いてみるとあたしの髪は白いリボンと白い花柄の髪留めで固定されていた。
赤い髪に白い飾りはすごく良く似合っていた。
いやこれ、似合いすぎて恥ずかしいよ。
ていうか今のあたしの姿、かっこいいタイプの冒険者じゃなくて、可愛いタイプの町娘って感じだよ。
「ふふ、気に入ってくれて良かったわ」
いや、そんな返事してないし。
「実は私ね、あなたみたいな女の子が大好きなのよ。姪っ子じゃなかったら本気で口説いていたわ」
いきなりカミングアウトしだすトリスお姉さん。
「でも、15歳になったらやっぱり本気で口説くつもりだから覚えておいてね」
そう言ってお姉さんはさっそうと歩き去って行った。
驚きで髪飾りを断りそびれた。
冗談かと思いきや、やっぱりガチだった。
頭の熱が冷めないのでしばらくボーと散歩する。
普通に同性愛をぶっちゃけて、女の子を口説く女の人がいるのだなぁ。
今まで自分には女の子と恋愛はできないのではないかと思っていた。女性の裸に対しても前世ほど興奮はしないと思っていた。どっちも間違いだったかもしれない。
例えば、近所のお姉さんと水浴びする時、もっと親密なスキンシップをとってみるのはどうだろう? すごくいいかもしれない。
同時にふとリグットの顔が浮かぶ。なぜリグット?
リグットと今日みたいに裸で水浴びをするのってどうだろ? って何考えてるんだ、あたし!
……でも、いやな気分にはならない。
2、3年前ならおえーって吐きそうになる想像だったんだけど……。
いつの間にか男との恋愛にも拒絶感がなくなってる?
あれ、でも女の子との恋愛も全然できそうな自分がいる。
ど、どうしよう? またわかんなくなってきた。
「あれ、リアナ。こんなところでど……ど……ど……」
こんなタイミングでリグットとばったり出くわしてしまった。
なんか語尾がめっちゃ詰まってるけど、どうしたんだ?
「あーリグット。今日は狩りに行けなくてごめんね」
「いや、かまわないよ。そのワンピース、す、す、す、すっごく可愛い」
「あ、ありがと」
そういえば忘れてた。今の格好、かなり恥ずかしい格好だったんだ。
「その髪留めも、す、す、すっごく似合ってる」
「ははは……あ、ありがと」
「…す」
「す?」
「好きだ。付き合ってくれ!」
「え?」
え! 告白!? な、なんでこのタイミングで?
模擬戦に勝てるまで告白はしないんじゃなかったのか?
ていうか、こいつはヘタレで、ずっと告白できなかったはずなのに、なんで今になって?
リグットの顔を見てみると赤くなったり青くなったり、やってしまったって顔を繰り返している。
この顔は本当はするつもりなんかなかったのに、思わずやってしまったって顔だ。
リグットのバカ。そんな衝動的な行動、読めるわけがないだろ!
「……」
「……」
沈黙が痛い。いろんな考えが頭を巡るけど全然考えがまとまらない。
「返事を、その、聞かせてくれないか?」
いつの間にかリグットの表情は元に戻ってる。でも、真剣な顔だ。
こいつ、やってしまったものは仕方ないと開き直ってやがる。
「あ……う……」
くそ、言葉が出てこない。なんで?
数分が経過した頃、大きな鐘の音が響く。
「大変だー! スタンビートの予兆だー!」
あたしの返事は突然の災厄に遮られることになった。
皆さんはどちらが好きですか?
TS転生後、精神が身体に引っ張られて幼馴染の男相手にドキドキ。
TS転生後、変わらずマイペースに冒険するよ。百合百合サイコー。
自分は両方大好物です。
両方ミックスして書いてみた結果、さじ加減が面倒くさいことがわかりました。