村娘は成長する
さらに2年の歳月が流れて14歳になった。
最近ブラがきつくなってきた。また胸が大きくなってしまったようだ。
手のひらで包むと少しはみ出してしまう。たぶんCカップぐらいかな。
身長は現在160cmぐらい。だんだん伸びるスピードも弱まっている。
毎日鍛えているので身体にはしっかり筋肉が付いているが、加護の特性を活かせるように俊敏性を優先して鍛えているため、引き締まった身体をしており、太くは見えない。むしろ、腰にはくびれができており背中から腰まで綺麗な曲線を描いている。14歳にしてはエロい身体だと自分でも思う。
この年齢になって身体もここまで変わってしまうと、自分が女だとはっきり認識してしまう。周りの接し方も子供の頃とは違う。年上のお姉さん方には好きな人はいないの?としつこく聞かれるし、ご近所さんからは家の息子の嫁に来ないかと聞かれたりする。
この世界では一般的に15歳で成人扱いを受ける。婚約適齢期も早く、成人と同時に結婚する人もいる。
あたしは前世の男だった記憶があるため、いまだに女として生きる決心ができずにいる。
やっぱり、結婚はまだまだ早いよ……。
未だに男と女、どちらと恋愛すればいいのか答えがでていないのに……。
まあいくら考えていても仕方がない。頭を振って考えを切り替えた。
ちなみに、この世界にもブラジャーがあった。
1年前、母があたしのために取り寄せて見せてもらったときは驚いたものだ。魔物の素材が使われているらしく、結構いい値段がする。構造や機能は日本のものとは全然違うが、胸をしっかり支えてくれるので、運動する時揺れるのを抑えてくれて助かっている。
だけど、服装は麻と毛皮で作られた原始的なもので、下着とけっこうギャップがある。街では下着も服装も進んでいたりするのかな?
あたしの1日は朝のランニングから始まる。畑仕事の前に森の中を5kmほど走り込む。
午後は狩りに行くこともあれば、昼寝したり、本を読んだり、料理を教わったりして自由に過ごす。
夕方からはまた訓練をする。
森の中の村なので娯楽が少なく、面白いと感じる遊びは狩りぐらいしか無い。
ただ、最近は森の浅い層だけでは物足りなくなってきた。なので、森の中層へ行けるように毎日訓練をしているのだ。
10歳頃から4年間鍛えてきたあたしは村の大人と模擬戦をやっても勝てるぐらいに強くなった。もちろん同年代では敵なしだ。加護『見切り』があるのも理由だけれど、日々の訓練により闘気術の練度もかなり高くなってきた。
前世のあたしは中学から高校までは陸上部に所属し、そこそこ運動ができる方だった。強豪校というわけじゃないので、それほど真剣にトレーニングをしたわけじゃない。
それでもある程度は効果的なトレーニング方法を知っているつもりだ。
体幹を鍛えたり、怪我を予防する訓練も丁寧に行う。
こういった知識は闘気術や剣術を鍛える上でも役に立つ。
この世界は前世と同じで男と女では身体能力に大きな差がある。女に生まれてしまったあたしは普通に鍛えていては多分ダメだ。できるだけ効率のよいトレーニングをする必要がある。
訓練内容も自分なりに工夫し、バランス能力や柔軟性、空間認識力など、筋力や体力だけでなく運動神経全般を幅広く鍛えておく。綱渡りをしてみたり、ブーメランを作ってみたりいろいろ試しながらの訓練だ。
今日も木の間に張った綱の上で弓を引く。
足元が不安定ななかでも放った矢は的の真ん中を貫く。今日も調子がいい。
そして、隣には同じように綱の上でバランスをとりながら矢を放ち、的の真ん中を貫いた奴が1人。近所の男の子リグットだ。さらにその隣ではジョセ兄が綱の上で逆立ちしながら矢を咥えている。何してんだろ?
この2人は数年前からあたしの訓練を真似しはじめた。
他の子供や大人があたしの訓練を笑ったり馬鹿にしたりする中、この2人はなんか面白そうだからといって一緒に訓練するようになったのだ。
別に秘密にするつもりもなかったので、2人にも怪我を予防する方法や筋肉のマッサージ等を教えながら一緒に訓練してきた。
最近はちょっと後悔している。一緒に訓練してきたせいか、2人も大人相手に模擬戦で勝利するぐらい強くなってしまった。加護無しの単純な身体能力なら2人はとっくにあたしを超えている。背もいつの間にかあたしより頭一つ分高くなってるし。模擬戦は今のところ2人に勝ってはいるものの、僅差になってきている。このままではいつか負けてしまうかもしれない。
次の日
この日はロブのもとに集まって訓練をする日だ。
模擬戦が中心になるため、実力が近い者同士で入れ替わりつつ模擬戦を行う。
あたしはリグットと木刀で対峙する。
なぜか周りから異様に注目されている。
「リグット、気合入れろー!」 「リアナー返り討ちにしてやれ!」
手を止めて応援するやつまでいる。
理由に心当たりはある。
しばらく前、男だけで集まった場所でリグットは模擬戦であたしに勝ったらあたしに告白するって口走ったのだ。
そして、それは男同士の秘密ってことになっているらしい。村中に広まってんだけどね。
娯楽の少ないこの村ではさぞ楽しみでしょうね。
もちろんあたしは知らない振りをする。
「毎回みんなはなんでこんなに注目してくるんだろうね?」
「あ、ああ。そう……だな」
負けるつもりも無い。告白されても今はその答えを用意できない。
「いくぞ!」
「来い!」
カンッっと木刀同士が鋭くぶつかる音が響く
面、胴、小手、あたしが繰り出す攻撃に対してリグットは全て防御で応じる。
なるほど、これならあたしの『見切り』は発動しない。
でも、防御一辺倒であたしにスキができると思ったら間違いだ。
フェイントをいれながら腰を落とし、足払いをしかける。
リグットにはまだ仕掛けたことは無いとっておきだ。
低い軌道を描き繰り出された木刀は右足に当たる直前、木刀によって防がれた。
くそ! まさか反応できるとは。
リグットは返す刀であたしに一撃目を入れてくる。
『見切り』が発動するものの、体勢が崩れたままのあたしは躱すことができないため、木刀で受けるしかない。
ガツン! という衝撃が手に響く。
パワーに差があるため、後ろにステップを踏んで衝撃を逃す。
まだ『見切り』の効果時間は過ぎていない。素早く距離を詰めて、一撃、二撃を入れる。
ちっ! ギリギリ防がれた。こいつ、またうまくなってる。
『見切り』の効果時間は1秒間。
それが過ぎる前にいったん後ろに飛んで距離を取る。
だが、
ドンッ! という強い踏み込みの後、リグットは一瞬で距離を詰めてきた。
まずいっ!
同時に振るわれた一撃に対して『見切り』の発動が遅れる。
ガンッ!
ギリギリ防ぐことができたものの、あたしは木刀を弾き飛ばされてしまう。
やられた。まさか、ここまでできるとは……。
しかし、まだ負けてない。
『見切り』は発動中だ。
木刀を弾いたことで油断しているリグットに距離を詰めて素早く手首をつかみ、投げ飛ばす。
そのまま木刀を奪い、喉元に突きつける。
「勝者、リアナ!」
「「「うおおーー!!」」」
広場に歓声が響いた。
いつの間にかロブが審判みたいな立ち位置についている。
「ちょっとまて、ずるくないか? 木刀を弾いた時点で俺の勝ちなんじゃないか」
「いいや、相手が負けを認めるか、急所に木刀を突きつけるまでは勝敗は決まっていない。相手の武器を弾いたからって油断するんじゃねえ!」
「あとリアナは加護に頼りすぎだ。弱点を突かれたら今みたいになっちまう」
う、確かにそうなんだけれど、でも攻撃が来たら自動で発動してしまうのでどうしても頼りっぱなしになってしまうんだよなぁ。
あと、『見切り』には弱点がある。効果時間が切れた直後のほんの0.1秒に満たない一瞬は『見切り』の発動が遅れるというものだ。
この弱点は今のところロブしか知らないはずなんだけどな……。
「あ、もしかしてロブ、あたしの加護の弱点教えたの?」
「いや、俺は人の弱点なんて教えねえよ。それに、弱点ってほどのスキじゃあねえだろ」
あれ、じゃああたしが弱点をカバーするため距離を取った時、リグットはどうして距離を詰めて来た?
「あ、やっぱり、あれは弱点だったんだな」
「え、な、どういうこと?」
「いや、リアナがいつも素早い動きを見せた後、すぐに距離をとっていただろ。だから、そこで距離を詰めればなにか勝機があるかもって思ったんだ」
「ちっそんなんで突っ込んで来たのかよ」
「ああ、でもおかげで弱点って奴がわかった。次はぜったい勝つからな」
負けたのにリグットは爽やかな笑顔でそんな事を言う。
思えばこいつももう子供じゃない。身長は170cm近くあり精悍な顔つきにもなってきた。青い瞳と整った目鼻立ちは結構モテそうだ。
最近はむやみに人の胸を見たりすることもなくなった。狩りの後、獲物の処理も率先してやってくれたりする。性格までイケメンになっているような気がする……。
いや、別にあたしはリグットをイケメンだカッコイイとか思ってるわけじゃない。あくまで一般論だ、一般論。
うん、なんにせよ次も負けられない。次はもっと念入りに距離を取ることにしよう。
まだしばらくは負けはしない。
けど今回は合気道も見せてしまった。奥の手もあまり残ってない。いつかはきっと……。
ここからは14歳のまま話が進行する予定