村娘は魔法屋さんに行く
遭難した4人を見つけた翌日、あたしとクリシアは街へ帰ることになった。
クランの他のメンバーは村の柵の設置が完了するまで、あと2日ほど滞在するそうだ。
あたしは骨折を治すために街へ帰るクリシアの付き添いで一緒に帰ることになった。
結局あたし達は6日間の依頼の内3日しか参加していない。報酬も半額だろうなー。
街へ帰ったら、まずはクラン『銀の風』に行って報告をする。
報酬は全員が戻ってから細かく振り分けるそうだ。クリシアは治療のためのお金がすぐに必要なので、いくらか前借りする。
その後は冒険者ギルドに向かう。
ハマキ村の依頼はクランで受注したものなので、ギルドへの報告は特に無い。
ただし、魔物の討伐の報告はポイントといくらかのお金が手に入るので、ゴブリンとヤマイヌの討伐証明部位(それぞれ左耳と左の牙)を持って行く。
冒険者カードと一緒に提出すると、少し待ったあと、すぐに窓口のお姉さんが戻ってきた。
「確認しましたのでお渡しします。こちらは魔物の討伐のみの報酬になります。ゴブリンが5匹と黒角牛が1匹、ヤマイヌが2匹、合計175ルニーになります」
安い……この街で一番安い宿に一泊泊まれる程度の値段だな。まあ、魔物の素材や依頼の報酬は含まれていないのでこんなものなんだろう。
ちなみに、素材や魔石を換金したお金は後日クランから分配される予定である。
「追加される冒険者ポイントは35ポイントになります。リアナさんとクリシアさんはパーティーを組んでいますので、それぞれ17ポイントづつ振り分けしましょうか?」
「はい。それでお願いします」
本当はこの報酬とポイントは一部2人で分けるのが心苦しい。
ヤマイヌ2匹に関しては臨時パーティーを組んだDランクのホバーさんにも取り分があるのだが、本人からは報酬もポイントもいらないのでギルドには報告するなと言われている。
なんでもランクが2つ以上離れていると、基本的にパーティーを組まない決まりになっていて、もし必要に迫られてパーティーを組んだ場合は取得できるポイントが1/3になってしまうのだ。
EランクからFランクに上がるために必要なポイントは50ポイントだそうなので、あたしはあと33ポイントでランクアップだ。依頼が完了してもポイントは入って来るそうなので、ランクアップまでは結構早そうだな。
「クリシアは今何ポイントぐらい?」
あたしより前から冒険者をやっていたので、そこそこ溜まっているんじゃないかな。
「そうですわね。今回のポイントを足すと30ポイントぐらいですわね」
「え、そうなの? もっと溜まっているかと思った」
「今まで近いランクのメンバーとパーティーを組めなかったのでなかなかポイントが溜まらなかったのよ」
「ふーん、じゃあランクアップはあたしとあまり変わらない時期にできそうだね」
「そうね。リアナ、Dランクまで一月以内にランクアップしますわよ」
「えーそんなに急がなくても……。あ、それよりも、報告とか終わったんだから治療に行こ」
「そうですわね」
この世界、簡単な傷ならお手頃な値段の傷薬であっという間に治すことができる。
だけど、致命傷になるような深い傷や、強力な毒を治すには、高価なポーション、もしくは教会の神官による治療魔法が必要である。
教会の神官は時々、修行などで冒険者と行動をともにすることもあるが、ごく僅かである。そのため、冒険中に致命傷を負いすぐに教会に行けないときは、ポーションを使う。このポーションは希少な素材から錬金術で作られるため、ものすごく値段が高い。
もし、深い傷を負っても教会まで移動が可能ならば、ポーションは使わない。
教会の治療代も決して安くはないがポーションの値段よりはだいぶましである。
というわけで、数日ぶりに教会にやって来た。
そうそうここの神官さんに洗礼の儀式で加護を見てもらったんだよね。ここの神官さんすっごい美人だから、また会えると思うとわくわくするね。確か名前はエリーゼさんだったかな。
「私、あの教会に行くのは気が重いですわ」
「え、どうして?」
「苦手な人がいますの……」
ふーん、誰だろ? あの美人さんじゃあないよね。
あれ、でもクリシアとあの神官さん結構見た目が似ているような……。
「あら、クリシア。教会に来るなんて珍しいわね。ついに信仰心が芽生えたのかしら」
「そんなことありませんわ。エリーゼお姉さま」
「ふふふ、その左手を見ればわかるわよ。きっと無茶をしたのでしょ。私、クリシアが無事で嬉しいのですよ」チュッ
え、クリシアとエリーゼさんが知り合い? っていうか姉妹だったのか。
そして、そのままハグからのほっぺにチューを決めるエリーゼさん。
「ちょっと人前でやめてください。エリーゼお姉さまは相変わらずですわね」
クリシアは嫌がるものの、エリーゼさんを引き剥がすことができない様子。
なかなかスキンシップが激しい人なんだね。
なるほど、クリシアがあたしからのスキンシップを嫌がるのはこれが原因かな。
「あら、あなたはこの間来てくださったリアナさん。また会えて嬉しいわ」
そのまま同じようにハグとチューをされるあたし。
「エリーゼ姉さま、私の友人にまで過剰なスキンシップをしないでください」
・・・・・・
クリシアの治療が終わるまで、しばらく外で待つ。
クリシアも神官のエリーゼさんも昔は貴族として育ってきたためか、どことなく気品の様なものがある。今まで気づかなかったけど、あたしってこういうお嬢様タイプの女の子に弱いのかもしれない。
エリーゼさんにハグされたとき、すごくいい香りがした。何かをつけているのかな、すごく癒やされる。
クリシアは…………。
ここまで半日も歩いて来たし、村では水浴びしかできなかったもんね……。
ていうか、あたしも同様に汗の匂いがきつい。……風呂入らなくっちゃ。
しばらくして疲れた顔のクリシアが教会から出てきた。
お、左腕も動くようになっている。
「あの人、私の汗の匂いを……至近距離で何度も、何度も…………」
上を見ながら放心したように何かをつぶやくクリシア。
どうやら、精神的にかなり消耗しているようだ。
仕方がないので、クリシアの手を引いて歩くことにする。
今日の用事は一通り終わったので、お風呂にでも行こうかな。
いや、その前にもう1つ行きたいところがあった。
街の大通り、西の方、少し横道に入った場所にその店はある。
看板には「魔法屋」と書かれている。
中に入ってみるが、商品の陳列は無く、待合室のような場所とカウンターのみ。
カウンターには高齢の髭を生やした男性が座っている。
「あら、ここは魔法屋さんですわね。リアナ、魔法屋さんに興味があるの?」
どうやらクリシアは放心状態からは回復したようだ。
「うん、冒険者を続けるなら一度来てみたかったの」
「そうですの。でも、魔法の呪文書は今のリアナでは……」
「なんじゃ、お前たち。この店になにか用事でもあるのか」
「あ、はい。魔法の呪文書に興味があるんです」
「予算は?」
「いえ、今は予算は無いのですが、お金が溜まったら買おうと思っているんです」
「ふん、ずいぶん簡単に言いおるな。じゃあお前はいくらあったら買えると思うかね?」
え、値段? そう言えば具体的な値段って聞いたこと無いな……。すごく高いってのはよく聞くのだけど。
「うーん、5000ルニーぐらい?」
確か防具と武器を一通り揃えると4000ルニーぐらいになった気がする。
「そんな安いわけなかろう! 最低でもその十倍はするわい」
「え! うそ……」
「嘘な訳あるか。素材だけで1万ルニーを超えるんじゃ。そう簡単に買えるものじゃない。厳重に保管する必要があるから、商品も陳列しないんじゃ」
まじか……。
数万ルニーは高すぎる。広場で一曲歌って小銭を一杯集めても数百ルニーなのに……。
ちなみにクリシアの『武器強化』は10万ルニーを超える値段だったらしい。酷い値段だ。
なんでも呪文書は一度しか使用できないうえに、呪文書一つに対して魔法を習得できるのは1人だけだという。
そして、呪文書を作るには大量の魔石(魔物から取り出せる)と魔力を含む植物等が必要なので、どうしても値段が高くなってしまうのだ。
魔法は現状、呪文書を購入するしか身につける方法が無い為、需要はいつも多いのだが、呪文書を作ることのできる職人は少ないため供給が追いつかず、さらに値段が高くなる。
お金を楽に稼ぐために魔法を身につけるなんてバカな考えだったよ……。
「魔法を身につけたいならいい方法がありますわ」
「え、本当?」
「ええ、明日から私と一緒に訓練に励んで、高ランク冒険者になれば、呪文書なんていくらでも買えますわ」
訓練とか面倒でござる。
「ちょっと、どこ行くの。あ、そうだ。今日から訓練でもいいですわね」
逃げるでござる。
「あ、こら。待て」
教会の治療術士。シスター→神官に変更しました。




