村娘はクリシアと仲良くなる
今後ですが、週2回、水曜と土曜の18時に投稿することにしました。
よろしくお願いします。
前回の話
クリシアとはじめて冒険者の仕事をしに行くことになった。目的地のハマキ村へ出発する前にギルドに寄ると、貴族のバカ息子っぽい奴に絡まれた。
なんか勝手なことを言って手を掴んできたら投げ飛ばすよね、普通。
うん、あたしは悪くない。
「このアマ、貴族に手を出して、ただで済むと思うなよ」
槍や剣などを構える3人の取り巻き達。
なんだなんだ、あたしはこのバカ息子をちょっと転がしただけなのに大げさだな。
だいたいなんで貴族が冒険者なんてやってるんだ。
「ねえ、クリシア。貴族も冒険者になったりするものなのか?」
「ええ、そうね。ですけど、ほとんどは家督を継げない三男坊とかで、なおかつ騎士団にも入れないような人が冒険者になるのよ。殺すとさすがに問題になるけど、なんの権力もない連中ですから、多少怪我させても平気ですわ」
「OK、じゃあ気にせずにボコればいいわけだ」
「てめえ、余裕振りやがって。後悔させてやる!」
「うわっ、あぶな! 街中でそんな物騒なもの振り回すなよ」
くるんっ
ドカッ!
「ぐぁっ!!」
剣を突き出してきた男に『見切り』が発動した状態で投げ飛ばす。
それにしてもこいつら簡単に転がっちゃうね。体幹が弱すぎるのかな。
「ぎゃんっ!」
隣を見ると、クリシアは槍を持った男の股間を蹴り上げていた。うわっ痛そう……。
「ひっ……く、くそっ覚えていやがっ…ぐへ!」
逃げようとしていたやつもしっかり投げ飛ばす。
「こ、この野郎……よくも!「ガンッ!」あべっ!」
体を起こして来たやつも念入りに蹴りを入れて意識を飛ばしておく。
そういえば、トリスお姉さんが言っていたっけ。こういう奴らは復讐とかしてくるから念入りにしろだったかな?
「ねえ、こいつらって衛兵に突き出しても効果あるのかな?」
「きっと効果はないでしょう。家督も継げない穀潰しでも貴族の身内ですから、すぐに釈放されてしまいますわ」
「じゃあ、どうしよう……。殺っちゃう?」
「さすがに問題が大きくなってしまいますわ。それに、リアナはこんなに人目のある状況でそれができると思います?」
「うん、さすがこれは無いか」
「報復を防ぎたいならギルドにこいつらを連れて行きましょう」
「え、ギルド? 仲裁とかしてくれるの?」
「ええ、あまり積極的には動いてくれませんけど、こちらで当事者を全員連れてくれば、仲裁してくれますし、約束を強制させることもできますわ」
「へー、じゃあ目の前の建物だし、こいつら引きずって行こっか」
「ええ、そうしましょう」
バカども4人を引きずってギルドの窓口まで移動。
えーと、名前なんだっけこいつ。ジーコだったかな。転がした後、一度あたしが頭に蹴りを入れたからか、起き上がるのに少し時間がかかった。
「う、うーん……な、なんだ」
「あ、全員目が覚めましたね。では、これより仲裁を始めます」
「ああ、すぐに頼む」
「な、ふざけんな! なんで俺たちがギルドの仲裁を受けなきゃならないんだ」
「じゃあ受けなくてもいいけど、冒険者カード剥奪らしいよ」
「ぐっ……」
なんでもギルドの仲裁は窓口に当事者が全員集まればすぐに実行可能らしい。
冒険者同士の揉め事ってのは日常茶飯事で、この揉め事をできるだけ抑えるためにギルドの仲裁は利用されているらしい。
仲裁の内容はごく単純で、どちらも相手にケンカを吹っかけたり、殺害したりしないことを誓約し、破れば冒険者カードを剥奪するというものだ。
ギルドというのは衛兵のような治安維持活動はしていないが、高い情報収集能力を持っていて、ごまかしたりはそうそうできないそうだ。実際、バレないと思って相手に報復をした冒険者がカードを剥奪されることがあったそうだ。
そして、ギルドの職員による仲介が始まる。
「それでは、クラン『アライド』所属のパーティー『竜の牙』とクラン『銀の風』所属のパーティー『ゴールドレッド』の仲裁を始めます。どちらも相手に対して争いを仕掛けないことを誓いますか?」
「「誓います」」
とあたしとクリシア。
「くっ、こんな誓いできるか! バカにしやがって」
「では、決闘をなさりますの?」
「なに?」
「ギルドの仲裁は拒否してもカードの剥奪になりますわ。ですが、仲裁中も決闘だけは可能ですわ」
「ぐぬぬ……」
と言われてもそうなるわな。あたし達にこてんぱんにされた後なんだから。
ちなみに、この国の法でも決闘は認められている。ただし、双方の合意が必要ともある。
なので、もし決闘を申し込まれてもあたし達は断ることだってできる。
ただ、決闘を断ることはかなり不名誉であるという考え方が一般的なので、相手の実力が高すぎたり、よっぽどおかしな理由でもない限り、決闘を断れば街の中で生きづらくなるのだとか。
「では、改めて問います。相手に対して争いを仕掛けないことを誓いますか?」
「ぐ……誓います」
「……誓います」
・・・・
その後、憎々しげにこちらを睨みながら帰っていく竜のなんたらの面々。
ふう、終わったな。後に残らない解決ができてよかった。もし、中途半端に火の粉を払うだけで見逃せば、後日手段を選ばずに報復とかされる危険があっただろう。やっぱり、ちゃんと気絶させて対処しておくってのは大切なんだな。
まあ、アホな気をおこして復讐してこないとは限らないので一応注意はしておこう。
さて、問題ごとも片付いたことだし、街の中でもぶらぶらと……。
「ちょっと、どこ行くつもりですの。もしかして、ギルドに用事があって来ていたこと、忘れているわけじゃないでしょうね」
「え……あはは、もちろん覚えてるよ……」
わ、忘れてた。どうもあたしって嫌なことは忘れてしまいやすいらしい。
「本当かしら。まあいいわ、さっさと窓口で私達が依頼のメンバーに追加されたことを報告するわよ」
ギルドに報告を済ませたあたし達は少量の食料と水を買ってから、ハマキ村へ出発した。
装備は二人共準備ができていたのでそのままでいく。あたしは以前から使っていた弓とナイフに加え、防具はレザーアーマーに革のブーツと手袋。クリシアは同じようなレザーアーマーを身に着け、武器は刃渡り60cm程度の片手剣に小さめの円盾。
確かクリシアは武器強化の魔法が使えたから、防御もでき、攻撃力も上げられるこの装備はピッタリなのかもしれない。
そうそう、クリシアは魔法が使える上に、なにやらいろいろ事情がありそうなんだよね。
聞いてもいいのだろうか……。いろいろ耳に入ってきてしまった以上、気になる。
「あの、クリシア。気を悪くするかもしれないけど、聞きたいことがあって……」
「そうね、パーティーを組んだ以上、話す必要がありますわね。別に気にしてることじゃないから、なんでも聞いてくれて構いませんわ」
「じゃあ、まずは……あのバカが没落貴族って言っていたけど、本当?」
「ええ、そうよ。2年前まで父はこの地域の領主カリフォニア家に使えていた貴族で役職も持っていたのよ。でも、2年前に不正を告発されて父は処刑されてしまったの。本当に不正だったのか今ではわからないのだけれど、所詮下っ端貴族にはよくあることなのよ。その後、いくらか資産が残っていたのですけれど、叔父が商売に失敗して全部パーよ。母は教会に入っていた姉を頼って神官になってしまったわ」
「そ、そうなんだ……」
思っていた以上に不幸な状況で、なんて言ったらいいかわからない。
「ちなみに、先程のバカ息子…じゃなかったジーク様ですが、私の元婚約者なんです。ただし、私が没落する前に婚約破棄になったのですが」
「へー。(あんまり興味ないけど一応聞いとこ)ちなみになんで婚約破棄に?」
「あのバカ息子、元々家督を継げる立場にあったんだけれど、聞いた話では、平民の娘に片思して、嫉妬心からその娘の恋人を殺めた挙句、下手なもみ消しもすぐにバレて公になってしまい、相続権を剥奪されたそうよ」
「へーいろいろ酷いね」
「……あまり興味なさそうね」
「え、いや……クリシアのことなら興味あるよ」
「そ、そうですの……///」
「ま、まああのバカはもう私とは関わりのない人ですので、忘れましょう」
うん、もう名前すら呼ばなくなったもんね。
「あ、そういえば加護も持ってるとか?」
「ええ、私は『探索』と言う加護を持ってますの。最大200m先までなら見えなくてもだいたいの地形と人や魔物の有無を探知することができますわ」
「へーめちゃくちゃ便利そう。すごいよ、クリシア」
「ま、まあなかなかのものでしょう」
少し照れてるクリシアかわいい……。
「じゃあ、あたしだけ話さないのはずるいよね。あたしも『見切り』って加護があるの。1m以内で攻撃を受けたら俊敏性と思考速度が上がる能力で、要は周りが少しスローになって自分だけ早くなる感じだね」
「なるほど。戦闘に役立ちそうで羨ましいですわ」
「あたしもクリシアの加護はうらやましいよ。冒険者とかに役立ちそうだね。クリシアは昔から訓練してきたの?」
「ええ、この加護がわかってからはそうですね。父は私を騎士団に入れたかったみたいで、時々稽古もつけてくれましたわ……。けど、直接身を守れる加護ではないので、まだ家にお金があった頃、身を守る術を身に着けてほしいからって武器強化の魔法も購入してくれて……。きっと、自分に何かあっても私が生きていけるようにと考えてくれていたのかもしれないわね……」
少し俯き、辛い表情を見せるクリシア。
あたしは思わずクリシアの手をにぎる。
「ごめん……辛いことを思い出させてしまって……」
「ううん。いいの……。こういうことを話せる友人も今までほとんどいなくて。今日は話せて良かったわ」
「そっか、じゃああたしでよかったらいつでも聞くから、なんでも話してよ」
「ええ、ありがとう。リアナ」
そのまま、手を握りながら歩くあたしとクリシア。
なんだかいい雰囲気だぞ。
そういえばあたしは同年代の女の子の友達なんて初めてじゃないかな。
友達……。友達だよね。はっきり口に出して友達になりましょうなんて言ってはいないけど、もうあたしとクリシアは友達以上のはずだ。間違いない。
出会って2日だけど、始めのツンツンした状態からはぐんぐん好感度が上がっている気がする。
……もっとスキンシップできるのでは。
たとえば、腕を組んだり……。
「そういえば、手を握りっぱなしですわね。ちょっと暑くなってきましたわ」
「え、そうかな……。じゃ、じゃあ腕を組んでみたり……」
「ふふふ、暑苦しいですわ」
そう言って、あっさり手を離すクリシア。
うう……そんなー。
結構いい雰囲気だと思ったのに、クリシアの方はあっさりしてるのね……。
「そうそう、私の方からも質問してもいいかしら」
「え、いいけど、なにかある?」
特にあたしは隠し事とか無いと思うのだけれど。
「ええ、リアナは冒険者になって、やりたいこととか、目標とかってありますの?」
「え、目標……無いけど」
ほとんど無理やり登録されたようなものだし……。でも、冒険者になりたくなかったわけでもないかな。
「しいていうなら、楽してお金を稼ぎたいからかな……」
「な、なるほど……リアナらしいですわね」
「そう言うクリシアは目標とかあるの?」
「そうね……最終目標は秘密ですわ」
え、人に聞いておいて何言ってるんだこのお嬢様。
「でも、当面の目標はAランク冒険者になることですわ」
うお、当面の目標と言いながら、結構でかい目標をたててるんだね。
「おーすごいでかい目標だね」
「ええ、でも私達なら可能ですわ」
「え、なんであたしも入っているの」
「それは、同じパーティーなのですから、当然では」
「でも、あたしとクリシアじゃ、温度差があるのでは……」
「ええ、ですので、私の新しい目標はリアナに冒険者の魅力を教えこんで一緒に訓練に明け暮ることですわ!」
どうしよう……このお嬢様、仲良くなってみたらとんでもなく脳筋だったよ。




