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TS村娘は冒険者になる  作者: りゅうせい
第2章サウスプントの街
14/24

村娘は街でだらける

 サウスプント、あたしが住んでいたトルクの村から歩いて2日ほどの距離にある街だ。森からはある程度離れており、周囲は畑や広大な草原が広がっている。

 南部一帯を領地に持つ大貴族の治める街で、このあたりの交易の中心部でもある。

 この大陸では森や遺跡の近くではよくスタンビート(魔物の暴走)が発生する。そのため、街や村は強固な壁や柵で囲われている。このサウスプントの街も例外ではなく強固な城壁で囲われている。

 平時は東と西にある大門が開きっぱなしになっているが、緊急時は巨大な扉で閉ざされる。

 東と西の大門をつなぐ直線状は幅の広い大通りになっており、多くの人が行き来する。この大通り沿いは商人ギルドや大商会の店舗、貿易商の店舗、高価な服屋や雑貨屋などが立ち並び治安もいい。

 大通りのちょうど中間ぐらいの位置には広場があり、市民の憩いの場となっている。広場から北へ向かうと大きめの綺麗な家が立ち並び、突き当りに領主の館が建てられている。

 逆に広場から南の通りは庶民向けの安価な商品を売っている露店市が開かれている。この通りは横道に入るといかがわしい店が多くなり、奥まで進み街の南端まで来ると、スラム街のような場所となり、かなり治安が悪くなる。狭い土地にボロボロの家がびっしりと立ち並び、住んでいる人は孤児や身寄りの無い人間や盗み等の犯罪を生業にしている人など訳有の住人が多い。




 ――――


 あれから一月が経過した。


 あたし達は今このサウスプントの街で生活している。

 村人はこの街で一旦解散となった。村長が村の資産を均等に分けてくれたため、しばらくは生活できる。街や他の村に知り合いなどがいる場合はそちらに行き、どこにもあてがない人は村長が貸家を借りたりして皆なんとか落ち着いた。

 村長がもしものために村の資産を街の銀行に預けておいたおかげだ。これが無ければ多くの村人がスラム街での生活になっていただろう。



 リグットはまだ見つかっていない。

 あの時、ドルゴン騎士団はワイバーンを討伐後そのまま森の中の道を進んでいった。

 それからしばらくして街にトルク村が壊滅したとの連絡が届いた。ドルゴン騎士団が村に着く前に中の食料を狙って魔王軍にやられてしまったらしい。前村長達にはもう二度と会えなくなってしまった。

 

 あたしは毒で麻痺した足が治るまで5日ほどかかり、その後すぐに制止を振り切って森へリグットを探しに向かった。

 森のなかで、トリスお姉さんやロブ(ロブは生きていた)とも合流し、くまなく探したが、手がかりはなにひとつ見つけられず、捜索は1周間で打ち切られた。あたしはもう少し探すと主張したけど、縛られて街へ連れ戻された。

 まだ森の中の魔王軍の動向がわからないことに加えて、村人たちも蓄えを崩しての生活が始まっている為、1週間以上無報酬で捜索を続ける余力は無いのだと説得された。



 リグットが死んだと受け入れるのはとても辛い。子供の頃からずっと一緒にいて、これからも一緒に狩りをしたり、一緒に遊んだりするのだろうと思っていた。

 こんなにもあっさり死んでしまうなんて……。付き合ってまだ数日も経っていない。恋人らしいこともほとんどしていない。こんなことならキスぐらいしてやればよかった……。


 時々考える。もしかしたら、どこかで生きているのではないか? と。

 冷静に考えればそんなことはありえなくて……。

 でも、なかなか心の整理がつかなくて……。

 せめて復讐をしてやりたい。

 そう思い、訓練を再開してすぐ、ドルゴン騎士団が戻ってきた。




 門から続く大通りの両端には大勢の市民が集っていた。皆旗を振り、歓声を上げている。

 真ん中を歩く者の手にはドルゴン騎士団を示す青い竜の旗。


「うおおぉー! 来たぞードルゴン騎士団だー」

「万歳! ドルゴン騎士団、万歳!」

「リクストラ団長、万歳!」

「キャー素敵ーー」


 街はお祭りのような熱狂に包まれていた。

 それも当然だろう。

 魔王の討伐という難題を、たった10日足らずで終えてしまったのだから。


 あたしはこの熱狂を遠くから呆然と眺めていた。

 まさかこんなにあっさりと魔王が討伐されるなんて……。

 魔王は出現後、早い段階で討伐される。知識としては本で知っていたけれど、実際に見るまでは信じられなかった。数千、数万の魔物を統率する魔王は人類にとって災厄であるはずだが、この国の精鋭はわずかな時間でほとんど無傷で討伐してのけた。

 あたしから村もリグットも奪った魔王軍がこんなにも簡単に滅びてしまった。


 あたしは自分の復讐心がほとんど無意味なものだったことに気付かされてしまった。




 現在、あたしの家族は父の兄の家でお世話になっている。

 父の兄、つまり伯父にあたるオリバさんは街で宿と酒場を営んでおり、父と母はそこで今は働いている。

 父は元々この街の人間だったらしい。なので、農作業以外の仕事も多少はできるのだとか。

 母は今まで知らなかったけど、なんと『調理』の加護持ちなのだとか、今は酒場で名物料理を作ったりなんかをしている。

 トム兄は職人の工房へ弟子入りし、住み込みで働いている。しばらく会えないのでちょっとさみしい。


 そして、ジョセ兄は朝早くから冒険者ギルドへ行ってしまう。

 スタンビートが発生した時、ちょうどジョセ兄は街に滞在中だったため事態が落ち着くまで、しばらく街に滞在することになり、その間に冒険者登録を済ませてしまったらしい。

 その時に同じ年齢の新人冒険者とパーティーを組んだらしく、今もそのパーティーと依頼を受けに行っているそうだ。女子2人、男子3人の15歳前後のパーティーで、なんだか楽しそうだ。

 うらやましい……。






 皆が朝早くから仕事を始める中、あたしはお昼前になってようやく目を覚ます。

 のんびりと服を着替えてから下の酒場でお昼ご飯をもらう。かなりダラけた生活をしているけど、誰も文句を言わないのでついつい甘えてしまう。


「はい、今日は山トカゲの煮込みよ。とっても力がつくのよ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 料理を持ってきてくれたのはオリバさんの娘のシェアリーさん。あたしより10歳ほど年上のお姉さん。

 服はこのシェアリーさんが昔着ていた服を借りている。グレーの長袖ブラウスに紺色のスカート。スカートは普段は穿くことがないので、少し慣れないが、村で着ていた服はダサすぎて今日行く場所には着ていけない。村で着ていた服といえば、麻と毛皮でできたほぼ全身茶色の長袖とズボンで、街の中心部では目立ってしまう。


 ご飯の後は街を散策しながら中心の広場へ向かう。

 オリバさんの宿屋は西側の大通りの裏通り沿いに建てられていて歩けばすぐに大通りに出られる。

 大通りに対して横道や裏通りには雑貨屋や小さな飲食店などがあり、見て回るのも面白い。



 広場に着くとすでに先客が演奏を始めている。


 心地良いメロディーとシンプルな歌。

 ヘイッドゥード ~~ちゃららららん~


 お、これはあたしがこの前教えたあの曲かな。ビートルズといえばこの曲って感じのやつ。

 確か中学生の頃だったかな、カッコつけたかったのか親のギターを借りて結構練習したんだよな。コードはかなりうろ覚えだし、この世界の楽器はまただいぶん違っているから、元の曲とはちょっと違ってるけど、さすが名曲なだけあって評判はいいみたいだ。

 ……異世界だし、著作権とかないもんね。


 演奏しているのは2人の吟遊詩人。どちらもリュートのような楽器を演奏している。

 2人共、最近知り合いになって一緒に演奏したり歌を歌ったりしている。

 いつの間にか囲うようにして人だかりができていて、演奏が終わると大きな拍手が湧き上がる。


「よう、リアナ。今日も歌っていくかい?」

「ああ、もちろんだよ」


「やあやあ皆さん。ご注目ー最近話題の歌姫、赤毛のリアナが来てくださいました。今日は何を歌ってくれるのかな?」

「んーいつもみたいに繰り返し歌うから、そっちで合わせていってよ」

「OK、まかせてくれ。今日も新曲が聞けてうれしいよ」


 いつものやりとりの後、歌う準備を始める。水を一口含み、「あーあー」と声を出す。

 早くも観衆から声援が聞こえてくる。

「うおー!」

「リアナちゃん、すげー可愛いい!」

「サイコー」


 この気持ち悪い声援ももう慣れた。今ではこの熱気が気持ちいい。

 2人の吟遊詩人はかなりの腕前で、一度聞けばほとんどの曲を演奏できてしまう。

 今回ははじめて聞かせる曲なので、最初はあたしの声だけだ。歌い出しを失敗すればえらいことになってしまうが、あたしにデメリットなんて無いので、躊躇せずに最初の音を響かせる。

 歌い出すと、皆息を呑んで歌に聴き入っている。


 アニメ映画の主題歌として有名なこの曲は最初の方から高音が続き、男だった前世ではきちんと歌うことはできなかった。

 今の身体は高い音も綺麗に響かせることができて、歌っていてとても気持ちがいい。

 1番が歌い終わり、2番に入るとさっそく伴奏が入ってくる。

 元の曲とはちょっと違うが、これはこれでありな感じだ。

 観衆の前で思いっきり歌っていると胸のモヤモヤが少しスッとしてくる。

 気持ちいいので4回も同じ曲を繰り返して歌ってしまった。観衆も飽きずに満足してくれたみたいなのでまあいいや。


 歌い終わると割れんばかりの歓声が響く。

 この歓声が心地よくて、最近は毎日足を運んでしまう。

 生まれた時から音楽が身近にあった日本と違い、この世界は音楽のレパートリーが少ない。なので、日本で馴染みのある名曲を持ち込めばすぐに人気をとれる。

 ちょっとずるだけど、皆喜んでいるから気にしないことにしている。

 そのうち真似されるだろうから、ずっとは続かないだろうけど、それでもかまわない。元々思いつきで始めたことなのだから。


 気の済むまで歌ったら、かごに入っている小銭を3人で山分けして解散する。


「リアナ、今日も最高だったよ。また来てくれよな」


ほんの気まぐれで始めた広場での歌だけど、今はいい気晴らしになっている。


 ただ、こんな目立つことをすれば当然のように男からアプローチが始まる。自分で言うのもなんだけど、あたしってば美人だから。


「リアナ、今日も綺麗だったよ、ぜひ私の屋敷に……」

「今日こそは僕の愛を受け取ってはくれないか」

「西町の方に小洒落たレストランがあるのだけど、どうかな?」

「君はまさしく僕の運命の人……」


「ごめんなさい。あたしには結婚を約束した人がいるので」

 面倒なのでいつもこれで追い払っている。

 それでもしつこく食い下がってきたり、本当かどうか細かく質問してきたりするやつには、怪我しない程度に転がってもらう。




 大広場から横道に少し入ったところに小奇麗な酒場がある。

 広場で歌ったあとは街の中をぶらぶらと散策し、最後はいつもここでお酒を飲みながら、常連客とカードゲームに興じる。

 オリバさんの宿屋の1階も酒場だけれど、さすがにそこでだらけた姿は見せられない。

 そして、深夜皆が寝静まった頃を見計らってから宿屋のあてがわれた部屋へと帰る。


 こんな感じで、最近は広場で適当に歌って小銭を稼ぎ、何をするでもなく街をぶらぶらし、帰りにお酒をがぶ飲みして帰る生活を続けている。

 すっかり不良になってしまったな……。


 言い訳をさせてもらうと、仕事先として当てにしていた冒険者ギルドだが、今は魔王討伐等の事後処理とかで忙しくしばらくは新規で冒険者登録ができないと断られてしまったのだ。

 とはいえ、だらける理由にはなっていなくて、他に仕事でもすればいいのに1ミリもやる気が出ない。

 なんていうか、村から逃げて、リグットを失って……すると、いろいろなやる気がごっそりと抜けてしまったみたいで、いろんなことがどうでもよく感じるようになってしまった。

 毎日していた訓練も今はまったくしなくなり、体がどんどんなまっていく。

 今の自分の心境は前世の亡くなる前の自分の心境と似ている。

 何のために生きているのか、何を目標にして何のために努力するのかわからない。


 家族はいろいろと失ってしまったことで、あたしに気を使ってくれているのだろう。そして、あたしはそれに甘えてしまっている。

 あたしはいつまでこの生活を続けるつもりなのだろう……。







 今日の帰り道はいつもと様子が違う。前方は人影に道を遮られ、後ろからも人影が近づいて来ている。

 どうも待ち伏せされているようだ。


「命が惜しかったら声を出すんじゃねーぞ!」

 後ろから近づいてきた男がナイフをちらつかせながら低い声で脅迫してくる。


 大通りから一本隣の裏通りなんだけど、さすがに深夜だと衛兵の目も少なくなる。

 待ち伏せした男たちは全部で4人ほど……。


「なーに、おとなしくついてくれば痛い目には合わねーからよ」

「そーそー俺達とちょっといいことするだけだからさ」


 ニヤニヤしながら近づいてくる男たち。

 典型的なクズ人間だ。

 でも、ちょうどよかった。誰でもいいから痛めつけてやりたい気分なんだ。


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