閑話リグット視点
ここまでを1章とします。次の投稿は一週間後になります
スラッと伸びた手足に、肩から腰にかけて綺麗な曲線を描く身体。
正直、胸に視線が行かないようにするためには強い意志が必要になってしまう。
肩にとどく程度の長さの赤い髪は白いリボンによって後ろで束ねられている。左耳の少し上の方に白い花柄の髪留めがついていて、赤い髪に対してどちらもすごく似合っている。
薄く形の良い眉に長いまつげ、猫のような大きな目は少しつり目気味で赤い髪と相まって気の強い印象を与える。実際、すごく気が強い。
シュッとした卵型の輪郭に小さな鼻と桜色の唇、少し幼さも残る顔立ちは、思わずぎゅっと抱きしめたくなる。そんなことをすればすぐに投げ飛ばされるけど。
告白した日。
人形のような綺麗な顔がみるみる赤く染まり、恥ずかしげに口をパクパク動かすが、言葉を出せずにいる。
その時の表情は今も脳裏に焼き付いている。
――――
年下のくせに生意気な女。
それが子供の頃、リアナに感じた印象だった。
あいつは前村長に気に入られて面白そうな本を読んでいる。
それに比べて俺はまだ文字の合格をもらうことができなくて苛ついていた。
本に集中している顔は人形のように綺麗にみえて、同時にそのすました顔を崩してやりたくなる。
前村長が目を離したすきに、そっと近づき、強引に本を取り上げる。
「本当は読めもしないくせに、カッコつけんなよな!」
すると、その人形のような顔は狙い通り大きく変化する。
目はつり上がり、鼻をヒクヒクさせ、口は歯をむき出しにする。予想以上に変化する顔にびっくりしているうちにバチンッとビンタされた。
あの時の顔は今でもよく覚えている。
何かに集中しているときは固まっているかのような表情をしているが、怒った時、喜んだ時、悔しがった時はあっという間に表情をコロコロ変える。
俺がかくれんぼで木から降りれなくなった時、顔をしわくちゃにしながらゲラゲラと笑っていた。俺が闘気の鍛錬でリアナより少しだけうまくいくと、涙をにじませて悔しがった。
なのに、リアナはなぜか、いつも大人ぶっている。
確かにほとんどのことをそつなくこなすし、複雑なこともよく考える。
でも、感情は激しくてすぐ怒るし、うまくいかないことがあるとすぐ悔しがる。
そして、しばらくして落ち着くと感情的になったことを後悔して、すごく落ち込んでしまう。
本当に変な奴だ。
よくケンカもした。
確か俺がちょっかいをかけてリアナが逆上してってパターンがほとんどだった。
俺がいつもボコボコにされていたような気がする。
なのに、俺は懲りもせずに、すぐまたちょっかいを出してしまう。俺も変な奴だ。
そうそう、村の中で変な訓練もあいつが始めたんだ。
最初は変な体操をしているのを見て、またちょっかいをかけてやろうとしたのだが、他のやつがバカにしているのを見て、ちょっかいをかけるのを止めた。
「なぁ、リアナはなんで毎日訓練しているんだ?」
「え、そりょあ、狩りをするためだよ。狩り、面白そうじゃない?」
「そりょあ面白そうだと思うけど、村の周りって大きな魔物は出てこないし、まだ狩りに行く許可も出てないのに毎日訓練なんてやろうとするの、リアナしかいないよ」
「ふっふっふ、わかってないなぁ、リグットは。小さい魔物の狩りも面白いとは思うけど、やっぱり狩りといえば、自分よりも大きな獲物相手に超人的な肉体で躱しては殴り、躱しては殴り、って感じじゃないと!」
「え、そんなに鍛えるつもりなの?」
「当然だね。やっぱり超人的な肉体を手に入れるには身体が子供のうちから自分で自分に英才教育ってやつをやんないと」
「えいさいきょういくって何?」
「ああ、英才教育ってのは親とかが自分の子供に勇者とか英雄になるための訓練をさせることだ。子供のうちから鍛えないと超人にはなれないからな。まあ、あたしの場合は自分で自分を鍛えているだけだけど…」
「へーじゃあ、このへんてこな訓練も“そのえいさいきょういく”ってやつなの」
そこには縄で吊るされた丸太が木の幹に絡まっていた。
「い、今は試行錯誤中なんだ……」
「……ふーん、じゃあ俺もその“えいさいきょういく”ってやつを手伝うよ」
「え、いいの?」
「うん、俺もその超人ってのになってみたいからな」
「本当、ありがとう。実を言うとこれ以上1人でやるのがしんどくなってきたところだったんだ」
それ以降、2人でこのへんてこな訓練をするようになった。
途中からリアナの兄のジョセフも加わってくる。
「2人だけ英雄になれる訓練しているなんてずるい。俺も英雄になる」
「ええージョセ兄まで訓練したら、英雄が3人になっちゃって英雄の価値がなくなってしまうよ」
「なら大丈夫だ! お前らは英雄どまりだけれど俺は大英雄になるからなー」
「大英雄ってなんだよジョセ兄。またいい加減なこと言って」
「大英雄は……あれだ、英雄の100倍強いやつだ」
「そんなのいるわけないじゃん」
「当たり前だろ、俺がはじめてなるんだから」
この兄弟はどっちも変わってる。
それからリアナは新しい訓練方法を思いつくとすぐに俺たちに発表する。
嬉しそうに、
「ねー今度のはすごいぞー、バランス能力と反射神経、いっぺんに鍛えられるんだ」
と言いながら楽しそうに内容を説明する。
その頃からだろうか、リアナともっと仲良くなりたい、もっと触れ合いたいって思うようになったのは。
目を細めて白い歯を見せながら笑うリアナを見ると胸の奥がドクドクと激しく音を立てる。
それを恋だと自覚するまでに時間はかからなかった。
それから3人で狩りに行くようになり、3人で行動することも多くなった。
思いをリアナに告白しようとするのだけれど、なかなか勇気が出てこない。
なんとか勇気を振り絞って言葉を出そうとした瞬間、タイミング悪く足を引っ掛けて転んでしまったこともある。
ケンカもいつの間にかしなくなった。
リアナに「ありがとう、リグット」「すごいな、リグット」って言われるのが嬉しくなっている。自分でもイヌみたいだと思わなくもない。
訓練の成果は身体が成長するに連れてはっきりと自覚するようになった。
俺達はいつの間にか1人で中型の魔物を倒せるぐらいに成長した。
リアナから教わった、身体の柔軟性、バランス感覚、疲労を効果的にとる方法、どれも強くなるのに必要とは思えなかったことが、今ではとても大事なことだとわかる。
リアナはすごい。
ただの可愛い女の子じゃないのだ。
本だってたくさん読んでいるし、難しいこともいろいろ考えている。
リアナにふさわしい男になりたい。
模擬戦で一勝ぐらいはできないと釣り合いがとれない。だから、模擬戦で一勝できたら告白するって宣言してしまったけど、皆にはいっぱい笑われた。
そんなこと気にせずにさっさと告白すればいいんだよって。
結局、俺は模擬戦で一勝する前に告白してしまった。
だって、しょうがないだろ。あんな可憐な姿をみて我慢できるはずがない。
もたもたしていたら他の男がアプローチを仕掛けてしまうかもしれない。そんな気持ちで衝動的に告白してしまった。
「好きだ、付き合ってくれ」、俺はそう言った瞬間すぐに後悔した。
だって、こんなのは男らしくない。
きっと、断られる。そう思った。
リアナが俺に対して友情以上の好意を持っている自信がそもそも全然無い。
そして、リアナは自分の望まないことは、はっきりと断る性格だ。
ふと前を向くとリアナは顔を真っ赤してこちらを見ている。
返事はまだ無い。視線をあちらこちらに向けて悩んでいるようにも見える。
告白をOKしてくれるかどうかはわからない。
でも、この表情をみて俺はリアナが友達以上の感情を持ってくれていると根拠もなく確信した。
その後、すぐにスタンビートの警報が鳴り響き、それどころでは無い状態になってしまった。
数日後、魔物の群れは去っていった。不安の残る要素もあって、安心できる状態では無い。
でも、できることは何もないので考えても仕方がない。
昼過ぎにリアナがやって来た。
ちらっとワンピースと髪飾りが見えた瞬間、俺は目を逸した。見てしまうと我慢できなくなりそうだから。何を我慢できなくなるのか自分でもよくわからない。
「ちょっと向こうまで歩かない」そう言われて足音を頼りに付いていく。
「付き合ってもいいよ」
すぐには理解できなかった。
理解した瞬間、俺は思わず叫んでいた。この辺の記憶はもう曖昧だ。
その後は自分でもどうかってぐらい幸せで頭が一杯で……。
だからこそまだ解決していないスタンビートがすごく不安に感じる。
リアナの手を握るとこの不安がごっそりと溶けていく。
たぶん、不安と幸せで頭がおかしくなったのかもしれない。
そのまま勢いでキスをしようとして殴り飛ばされた。
最後に見たのはすごく珍しい涙をこぼすリアナの顔。
「ダメ……やめて……」
そう言われて少し気持ちが揺れる。
もっと生きてリアナと触れ合いたい。もっとリアナを抱きしめたい。
でも、それ以上にリアナに生きていてほしい。
だから、俺は背を向けて走る。できるだけ遠くへワイバーンを引きつけられるように。
――――
……ここは、どこだ?
木の天井が見える。小さな小屋みたいだ。
周りも見たいけど、首が動かない。
それどころか全身が動かないし、片目しか目が開かない。
「おや、起きたのかい」
「……う」
「まだ、喋るのは無理じゃろう。見つけたときはひどい状態じゃったからのう。生きてるのが不思議なほどじゃ。もうしばらく眠りなさい」
顔に手をかざされると、急に眠くなり……。
「ふむ、どうしたものか……」




