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TS村娘は冒険者になる  作者: りゅうせい
第1章トルクの村
11/24

村娘は負傷する

 魔物という生き物はときに変異によって強力な固体が出現する。変異個体はその種の中で強力な力を発揮し自身の群れを拡大する。そして、この変異個体がさらに異常な進化を遂げると、他の種族をも従えるようになり、魔王と呼ばれる存在へと変わる。

 魔王になった魔物は、魔王になる頃にはすでに高い知能を持つようになる。魔物の群れを意志を持って統率できるだけでなく、自身も強靭な力と闘気を身に纏う。人類にとってはスタンビート以上の災厄である。

 5年から10年の間隔でこの大陸の何処かで発生している。

 人類はこの世界では完全な支配者ではないのだ。



 ――――


 手荷物はできるだけ軽くするように言われた。

 2日分の食料と水、もしものための武器。他は髪留めとリボンだけ袋に入れる。前村長からもらった本やトリスお姉さんからもらったワンピースは置いていく。かさばるものは持っていけない。

 皆も思い出の品やお気に入りの物を持っていこうとするが、注意されてしぶしぶ置いていく。

 あたし達はこれから旅に行くわけではない。急いで逃げなくてはいけないのだ。

 急いで準備を終えて次々と門から外に出ていく村人達。

 だけど、村の中に留まり、あたし達をただ見送るだけの人達がいる。皆年をとっていて、その中には前村長さんもいる。


「……おじいさん、もしかして、残るつもりなのか?」

「おお、リアナか。急いで逃げなきゃいけないのに儂らじゃあ足でまといになるからのぉ」

「そんな……村の皆の体力ならおぶって走るぐらいできるのに……」

「ダメじゃ。そいつらは小さい子供らを担いでもらわなならん。もとからゆっくり歩いては間に合わんからな」

「でも……ここにとどまったら死んでしまう……」

「ははは、わからんぞ。魔王は森の奥からは出てこんかもしれん。それに儂はここで秘蔵コレクション(蔵書)を守らなくちゃならん。心配せずにはよー行け!」

「はあ……こんな時にまで本の心配なんて……」

「はっはっは、生きがいじゃからな。リアナ、お前は文字だけじゃなく、社会の仕組みとかいろいろ物覚えがよかったな。街に行ってもきっと活躍できるじゃろう。頑張れよ」

「うん、わかった。おじいさんも無茶しないで……」

「うむ、きっとまた会える。心配するな」

「うん、またいつか……きっと」


 魔王の行動は単純ではないらしい。森の奥にこもることも十分考えられる。だから、きっといつか戻ってこられる。おじいさんにももう一度会えると信じたい。


 …………でも、それは楽観的希望で、魔王軍があたし達に軍勢を向けた時に、おじいさんたちは囮になるつもりなのだ。そして、出発した村人達に危険を信号で伝える。

 今までのほほんとした村で暮らしてきたけど、本当はこの世界はあたしが思う以上に過酷なのだ。




 村から街へ伸びる一本の道。木を切り草を刈って大人が2人並んで歩けるぐらいの道幅がある。

 皆一塊になって歩き続ける。歩くと行っても皆早歩きだ。

 ついていけない者は荷物を捨てて付いていく。それでも脱落しそうな者は他の者が背負う。

 あたしも、近所の6歳になる女の子を背負って歩く。


 村を出て半日以上が経った。

 森を抜けるにはまだ少しかかる。

 不意に周りのおじさん達がざわつき始める。

 すぐに内容も聞こえてきた。

 魔物の群れがこっちに向かってきている。村を素通りした。挑発も無視してこっちに向かっている。

 村に残った年寄り達が数種類の狼煙を使って伝えてくれたみたいだ。


 ペースを上げて移動する。

 だけど、魔物の方がずっと移動速度が早かった。


「来たぞ!」

 後方の見張りが声をあげる。


「村長、後は頼んだぞ!」

 そう言ってロブは1人で元きた道へ向かう。


「ロブさんを1人で行かせるなんてできません」と村人の1人は言うが……。

「来る必要は無い。あれは走竜の群れだ。俺1人のほうが都合がいい」


 実際、ロブが向かった後、遠くに見えていた土煙はいつまで経ってもこちらに向かって来ることは無かった。心配だけど、ロブなら大丈夫だと信じよう。




 数時間後、後もう少しで森を抜ける。そう思った時、別の魔物の群れが襲撃してきた。


「上から来てるぞ!」

 トリスお姉さんが声を上げて初めて上空からの魔物の接近に気づく。

 ワイバーン、Dランクの魔物で翼を広げると3mにもなる。尻尾には猛毒があり、中堅の冒険者も手こずる相手だ。

 小さいのが6匹、すべて3mぐらいの大きさ。

 そして、他よりも3倍ぐらい大きいのが1匹。こいつはオスのワイバーン、Cランクの魔物になる。


「円陣を組めー!!」

 村長が声を張り上げる。

 子供や戦えないものを内側に囲み、外に向けて槍と弓を向ける。狩りで鍛えている村人も多いし、今は冒険者も十数人いる。戦力は少なくない。

 だが、CランクとDランク、森の浅層では出くわすことのない危険な魔物。それが7匹もいる。果たして撃退できるだろうか。

 ワイバーンが1匹急降下してくる。しかし、弓の牽制と向けられた槍を躱すため攻撃は不発に終わる。

 何人かは円陣から離れてワイバーンを挑発する。挑発に乗ってきたワイバーンの攻撃を躱しながら攻撃を加えて傷をつくる。

 トリスお姉さんも躱しながら毒針を切り落としていく。


 しかし、この状態はオスのワイバーンによってあっという間にひっくり返された。


「ギャアオオオン!!!」


 円陣の弱い部分を見つけ降下してくるオスのワイバーン。弓矢と槍を弾き、強力な爪と尻尾の毒針で円陣の一部を削り取った。

 そこから一斉に攻撃を仕掛ける他のワイバーン達。

 村人や冒険者が次々に毒針に刺されて倒れていく。

 知り合いが血を出して倒れる光景に背筋が震える。


 そして、円陣の崩れた部分から子供が1人攫われた。


「いやあー! マリナー!」

 子供の母親の悲痛な叫び声が響く。


 あたしはとっさに向かってきた別のワイバーンの正面に向かう。


 ワイバーンが繰り出してきた毒針に『見切り』が発動する。

 何年も鍛え上げてきた反射神経と『見切り』の加護による体感時間の遅延は常人では捉えることすらできない速度で動くワイバーンの尻尾を躱しながら掴み取ることを可能にした。


 尻尾を掴んだあたしはそのまま地面を蹴り、ワイバーンの背中に飛び乗る。


「ギャアアア“ア“ア“!!」

 振り落とそうとするワイバーンの首に手を回し、頭を上に向けて無理やり上昇させる。

 ある程度高度がでたらナイフで首を切り裂き止めを刺す。

 そして、すぐに背中を蹴って子供を攫ったワイバーンの背中に飛び移る。

 飛び乗ったら同じようにすぐにナイフで首を切り裂き、子供へと手を伸ばす。


 くそっ! 高すぎる。

 20m近く落下したあたしは自分の体を下にして子供を守る。

 幸い葉っぱや枝が多少クッションになったおかげかあたしも子供も無事だった。


 ふいに周りに大きな影が落ちる。

 7mを超える巨体、オスのワイバーンが目の前であたしを睨んでいる。

 まずい、メスを殺したあたしを怒こっている。すぐに逃げないと。


「……っ!」

 立ち上がろうとした瞬間、足に激痛が走る。

 見ると右足に刺された様な跡、飛び移ったときだろうか、毒針に刺されてしまったらしい。

 くそっ! やばい!


 ……その時。

 大きく口を開けて飛びかかろうとするワイバーンの目に、矢が突き刺さる。


「ギャアアア“ア“ア“ア“ア“!!」


 叫び声をあげて飛び去っていくオスのワイバーン。


「無事か、リアナ!」


 向かってきたのはトム兄とリグット。

「はは、ちょっと無事じゃ無いかも」


 足はしびれて感覚がない。それどころか全身がだるく、息も苦しくなってきた。

「足を刺されている! すぐに毒を抜くから解毒剤も飲んで!」


 渡された解毒剤をすぐに飲み込むとトム兄が足の手当をしてくれる。


 リグットは……。


「小さい頃、リアナは俺に本の内容をよく教えてくれたよな」

 急に関係のない話を始める。


「おかげで魔物の生態とかもちょっと詳しくなったよ」

「な、何をいってるの?」

「走竜とワイバーンは似たような生態をしていて、一匹のオスが群れを率いているらしい」

「だ、だから?」


 なんだろう? 嫌な予感がする。でも、頭がぼーとして上手く考えることができない。

「ロブは多分それを利用して走竜を引き止めたんだ。あいつはきっと目を潰した俺を追いかけて来るはず。そして、オスが離れればメスも皆からは離れるはずだ……」

「な、そんなの危険すぎる……ダメだ……」


「大丈夫、きっと生きて戻って来るから」

 不意に頭に手が置かれた。

 頭を撫でられる感触なんて何年ぶりだろうか……。心地いい感触に一瞬安心感が生まれる。

 でも、大丈夫な訳がない!

「……ダメ……やめて……」

「うん、俺も死にたくは無い。でも、リアナを守るためならなんだってできる」


 前髪が上げられて、そっと額にキスされる。

「絶対に生きて帰る、約束するよ」


 そう言って背を向けてリグットは走り去って行く。

「……ぐっ……リ、リグ…ト……」

 体が言うことをきかない。手足が1ミリも動かな。

 リグットの背中が涙で滲む。

 いやだ、こんなところでリグットと別れたくは無い。

 付き合ってまだ数日も経っていない。

 2人でしたかったこともあるのに……。


 リグットが去った方向へと、上空から幾つもの影が追っていく。




 ――――


 どのぐらい経っただろうか、意識がちょっとづつ戻ってきた。

 今はトム兄に背負われているのが分かる。

 ちょうど今森を抜けたようだ。

 あれから数時間ってとこだろうか。

 リグットは無事だろうか。でも、どうやっても体を動かすことはできない。それが悔しくて仕方がない。


 だが、すぐにあたしは見たくないものを見てしまう。

 上空から複数の影。

 先頭は目に矢が刺さったままの大きなワイバーン。


 そんな……それじゃあ、リグットは……。


 満身創痍の村人達に襲い掛かってきたワイバーンは……。


 ……次の瞬間、次々と落とされていく。

 弓矢? だけど数百mも向こうから射っている。


「ギャアアア“ア“ア“ア“!!」

 大きく吠えたオスのワイバーンが一瞬で首を跳ね飛ばされる。


 前方に旗が見える。

 あれは……ドルゴン騎士団の旗。

 いろんな創作物にもよく登場する。

 たぶん、先頭で馬に乗っている銀色の鎧を着た女性は魔王殺しのリクストラルーフェだろう。



 5年から10年の間隔でこの大陸の何処かで出現する魔王だが、ほとんどが力を付ける前に討伐される。

 人間の精鋭部隊や他の魔王によって。


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