村娘はちょっと後悔している
また長くなりそうだったので途中で分割。今回は短め。
あたしは馬鹿だ。
前々からそうなんじゃないかと思ってはいたけど、今日確信した。あたしの頭の中は豆腐でも詰まっているのだろう。先のことを考えずに、「付き合ってもいいよ」ってその場のノリで答えてしまって……。
嬉し泣きしながら叫んでるリグットの隣で、まったく大げさなやつだなってぼんやり考えているところも愚か過ぎる。
いつもそうだ、勢いとか感情に流されて後々後悔する。
水を汲みに行くだけで、「おめでとう、よかったね」とか「幸せになるんだよ」とか「子供はいつ頃できるの」だとか言われて初めて気づく。
恥ずかしくて死にたいよ……。
この狭い村じゃリグットが叫ばなくても広まっていただろうな。
でも、あの叫びの後でごく自然にお祝いされる流れができてしまって、「リグットとリアナが思いを通じ合わせたことに乾杯」とかされた日には家に引き籠もりたくなった。
少しリグットも悪いので、今日は話されても無視している。
告白をOKされたからってあんなに大声で叫ぶなよなぁ。
「リアナー、ごめん、本当に悪かったから機嫌直してくれよ……」
夕方まで口をきかずに過ごすと、さすがにもう許してもいいかなって思えてきた。
「リグットのせいで変な宴会ができて、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだからな」
「うん、ごめん。もう不用意に叫んだりしないから」
「じゃあいいよ、あたしもずっと不機嫌でごめん」
「ありがとう、リアナ。許してくれるの?」
「うん、許してあげる」
「あーよかったー許してくれて。その、告白も受けてくれてありがとう」
「べ、別にお礼を言われることじゃないだろ」
「うん、でも嬉しかった。リアナ、その、改めてだけど、よろしくお願いします……」
「あ、あはは、改めて言われると照れるね。……じゃ、その、よろしくお願いします」
「……手、繋いでもいいかな?」
「へ? ……手、繋ぐの」
ちょっ……ちょっとまって。えーと、付き合うってことは恋人同士になるわけだから、手を繋ぐぐらい当然だよね。うん、うん。
こ、これぐらいで動揺なんて、しないんだからね!
「あ、ごめん……、やっぱりだめかな」
「だ、ダメじゃないし。全然かまわないし!」
素早く背後と周りを見回し人がいないことを確認してから、手を握る。こんなところ見られたら恥ずかしくて死ぬ。
でも、手を握るぐらい子供の頃何度もあったし、今さら恥ずかしがることでもないかな。
でも、こいつの手、昔よりも全然大きいな……。
手を繋ぎながら柵の外を見ると、もうすぐ夕日が沈もうとしている。
「スタンビート、どうなったかな?」
「まだ調査中だからわからないよ……」
通常とは異なる今回のスタンビート。本当に危険は去ったのだろうか、森の中心部では何が起きているのだろうか?
昨日今日とリグットとのことで悩んでいたあたしだけど、頭の片隅では別のことで漠然とした不安感も感じていた。
たぶん、リグットも同じなのだろう。
繋いだ手からはお互いの不安な気持ちが伝わってくるような気がする。
「リアナ…………キスしてもいいかな」
「え? ……え“っ」
気がつくと目の前にどアップで近づくリグットの顔。
「だ、ダメ!」
唇が触れる直前、あたしは無意識の内にリグットを殴り飛ばしてしまった。
2mぐらい吹っ飛ぶリグット。あれ、『見切り』も発動しちゃってる?
「ご、ごめん。リグット。大丈夫?」
「だ、大丈夫。ヘーキ」
けっこう吹っ飛んだけど、無傷のリグット。こいつどんだけ鍛えているんだよ。
いや、それよりもあたし今……キ、キスをされそうになった。
リグットの唇が1cmぐらいの距離まで近づいてきていた。
あれ、なんで殴っちゃたんだろ?
想定外過ぎて、思わず拒否反応が出てしまったというか……。
いや、恋人同士ならキスとか、それ以上のこともあることぐらい想像がつくのに、何やってんだあたし。
いや、でもリグットとキス……無理無理、できない。あたしには早すぎるよ……。
キスもできないのに、何で告白OKしたんだって話だけど、トム兄に乗せられちゃったというか、試しに付き合ってみてもいいかな、なんてノリと勢いで考えちゃったあたしがあほすぎるんだ。
そういえば、付き合ったらどうなるのか、何をしたいのかとか全然考えていなかったよ。
「ごめん、リアナ。いきなりこんなことして……」
「ううん、リグットは悪くないよ。あたしが中途半端な気持ちで告白をOKしたから……」
「いや、衝動的にキスしようとした俺が悪いんだ。こんなこと、いきなりやっていいことじゃ無いのに……」
「たぶん、急にやるからダメだと思うんだよね。まずはハグとかスキンシップをもっととってから、自然な流れでやっちゃうのがいいと思うよ」
「「うわあっ!!」」
いきなり現れたのはトリスお姉さん。
「い、いつからいたんですか?」
「手を繋ぐくだりからかな」
うあ……恥ずかしいくだり全部じゃん。
「私以外にも何人もいるよ。今の村は人口過密だからねぇ。しっかり隠れることができる場所なんてそうそう無いよ」
うう……言われて見ればそうだ。この村で隠れながら付き合うとか無理だよね……。
「そんでこいつが私のリアナちゃんを奪ったクソガキだな。リアナちゃん泣かせたらただじゃおかないからね!」
「は、はい!」
あなたのものになった記憶はありません。あと、リグットは返事しなくてよろしい。
「あーあ、リアナちゃんこっちのけもあると思っていたんだけどな……。悔しいけど仕方ないか。恋愛は自由なものだからね」
恋愛は自由なもの、か……。そうだな、あまりこだわっていても仕方ない。
リグットと付き合ってどうするのか、今から考えればいいや。
リグットには悪いけど少し我慢してもらうこともあるかもしれない。
あたしたちには時間があるのだからゆっくり進んでもいいよね。
――――
次の日、早朝のまだ暗い時間に叩き起こされた。
「リアナ、すぐに身支度をするんだ」
焦った様子の父の声。
家を出ると、村の中心に村人全員が集まっていた。
そこであたし達は魔王が出現したこと、村にいては危険なこと、今から急いで街まで逃げることを伝えられた。
書いていてちょっと甘すぎるかな、と思ったりする。
果たして2人は末永く爆死……できるのだろうか?




