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TS村娘は冒険者になる  作者: りゅうせい
第1章トルクの村
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プロローグ

 坂上穂積はごくごく平凡な大学生だった。

 基本的に面倒なことや、興味の無いことはやりたくない、自分の享楽を優先するような性格をしている。

 1日の大半をアニメ、ゲーム、麻雀ばかりしているため、成績が悪化しギリギリの単位で進級する不真面目な学生でもある。

 大学の勉強には身が入らず、成績は低空飛行を続けており、一人暮らしの部屋では趣味のアニメ鑑賞、ゲームを好き放題してすごす。時々サークルの部屋に行きオタク同士でだらだらと喋り、週末は麻雀を深夜までつづける。自堕落で享楽的だが、彼にとっては最高の日々であった。

 これからも学生の間はこうした日々がつづくと彼は思っていた。


 ----


 週末、いつものように友人の家で深夜まで麻雀をした帰り道。

 時刻は午前4時、僕はほとんど車の通らない道路を原付バイクで走っていた。

 こんな時間だから人も全然いない。


 麻雀もそろそろやめるべきかもしれないな。明日の朝の講義は出席日数がもうギリギリで休むことができない。大学の成績はかなりやばい状況で、もう一つも落とすことはできない。

 だというのに明け方近くまで麻雀をやっていては朝起きれそうにない。というか寝たら絶対起きれない。そのまま大学に行った方が良さそうだ。


 理系の大学に入って3年目。1回生の時は簡単に単位を取れていたのに、3回生になるとだんだんと単位を取るのが難しくなってくる。現在、卒業に必要な単位がだいぶん足りない。

 大学進学の際に1人暮らしを始めた僕だけど、いつの間にかどんどん自堕落な生活になっていき、まったく勉強をしなくなっていた。

 なんというか目標も無く、自制心も無く、好きな事だけして過ごす日々はとても楽しかったけど、今は後悔し始めている。

 早い奴はもうすでに就活を始めていて、僕は今頃になって将来に不安を感じるようになってきた。

 僕もそろそろ変わらなくちゃいけない。だけど、一度始めた自堕落な生活はなかなか変えることができない。人生の目標もそろそろ考える頃だけど、なにも考えつかない。


 まったく、麻雀をやっている場合では無かった。でも、誘われるとついつい行ってしまうのだ。


 考えながら走っているといつの間にかバイクのスピードはかなりの速さになっていた。

 メーターをみるとスピードが60キロ近く出ている。車が少ないせいで、予想以上のスピードだ。


 慌ててアクセルを緩めた時にそれは急に起きた。


「ん? なんだ!?」

 急に視界がぼやけた、と思ったら視界に映る景色がぐにゃりと歪み、まともに前が見えなくなった。


「えっ?」


 一瞬何が起きたのかわからなかった。

 慌ててブレーキをかけるもそれはわずかに遅かった。


 僕は衝撃とともに宙を舞っていた。

 不思議と周りの景色がスローで再生されて、何が起きたのかをぼんやりと理解した。


 おそらく僕は何らかの理由で急に前が見えなくなり、そのせいでバイクで歩道に突っ込み、勢い良く吹っ飛んでいるのだろう。

 本当はすごい速さで吹っ飛んでいて、すぐにでもどこかに叩きつけられるはず……なのに、自分の身体はひどくゆっくりとしか動かない。



 これは……あれかな? ほんの一瞬しかない時間のなかで思考だけが速くなるっていう漫画とかでよく聞く走馬灯ってやつかな。

 あれ? てことは……僕は死んじゃうの!?

 それはやだなーまだ続きが気になるアニメが数話残っているのに……。

 Pcの中身とか大丈夫かな……。


 そういえば、さっき視界が歪んだ時に一瞬見えたあの光景は一体何だったんだ?

 見覚えの無い見渡す限り荒野が続く不思議な風景だった。

 ……こんな時に僕は何を考えているのだろう。

 いや、まだ死ぬと決まったわけじゃ無い。ヘルメットもしてるし、なんとか骨折ぐらいで済むかも。


 一回転した僕の目の前にはどアップに映る電柱の姿。

 あ、これダメなやつだ……。直後に強い衝撃とともに僕は意識を失った。



 _______


「ここはどこだ?」


  目を開けるとまわりは見渡す限り何もない真っ白な空間、現実ではありえない光景だ。目の前には空中であぐらをかく美女がいた。白いワンピースドレスを着たその美女はあぐらをかいているせいで足のあたりがきわどい感じで思わず目をそらしてしまう。


「ようこそ、いらっしゃい。ここがどこだか不思議で仕方ないって感じね」

「はぁ、もうなにがなんだか…」


 一体何がなんだかわからない。確か電柱と正面衝突して意識を失ったことを覚えている。軽症で済むような衝撃では無かったので、生きていたとしても病院のベッドの上のはずである。なのに何で僕はこんな変な空間にいるのだろう。


「それはあなたが死んだからよ」

「え!? えええ!?」


 あまりの衝撃に言葉が出ない。死んだのなら今喋っている僕の意識っていったい…。


「ここは死んだ人間を管理する空間。あなたはちょっと特殊なので特別に私が相手することになったの」


 なるほど、やっぱり死んだのか。結構スピード出ていたからな。ここは死後の世界ってところかな。


「え~と、自分が死んだことは理解しました。けど、死んだ後も意識があるなんて知りませんでしたよ。ところで、あなたは一体どういう人なのでしょうか?」

「ああ、私は魂を管理する者。あなた達からみて神や天使と考えても問題ないわ」


 おお~、神や天使かぁ。たしかに目の前の美女からは人間離れした美しさというかオーラというものを感じる。


「わからないことがあればなんでも答えるわ。納得できるまで質問してかまわないよ」

「そうですね、その神様? 僕はこの後どうなるのですか?」

「神様ですか…ちょっとこそばゆいので管理者と呼んでください。あなたの今後ですが、通常死んだ魂はあの世でゆっくりと浄化された後、輪廻の輪へと戻されます。その際、記憶はあの世の空間に溶け込み、魂はまっさらな状態で生まれ変わります」

「つまり、僕の記憶はなくなってしまうのですか?」

「いえ、完全に無くなるわけではないのですが、生まれ変わった魂には記憶は一切引き継がれません。ただ、あなたの場合は少々特殊でして…」

「僕が特殊というのは、どういうことですか?」

「えっと、そうですね…なんといいますか…」

 ここで神様? がちょっと言いずらそうにします。


「あなたの死んだ原因に問題がありまして、死ぬ直前のことは覚えていますか?」


 あ、そういえば死ぬ直前おかしなことがあった。


「確か…いきなり視界が切り替わって一瞬見たことがない光景が見えたんです。そのせいで、視界が戻ったときには道路をそれて電柱にぶつかってしまったんだ」

「実は、そのあなたの視界に影響を与えた原因は我々のミスによるものなのです」

「え!?」

「別の部署の管理者がある世界からの勇者召喚に手を貸した際、この世界の何人かの視界に数秒間影響を与えてしまったみたいなんです。そして、あなたの場合はそのタイミングが悪く、死ぬ原因になってしまったのです」

 なんじゃそら。勇者召喚なんてラノベのような話があって、それがめぐりめぐって僕が死ぬ原因になるなんてわけがわからないよ。


 でも確かにあの視界の歪みさえ無ければ僕は死んでいなかった。今頃は眠気をこらえながら大学の講義を受けていただろう。大学は残り1年ちょっと。単位がギリギリなので最後の1年はちょっとしんどいかもしれない、けど充実した学生生活があったはずだ。それに両親とももう会えない。一人暮らしで気楽にやっているけど、一人暮らしだからこそ両親のありがたみに気づくこともある。反抗することも多かったけど、今は両親に親孝行することも考えていた。毎週やってる麻雀仲間も僕が死ねばきっと悲しむだろうな。

 自分が死ぬという現実をリアルに実感し始めると、だんだん自分がこのまま消滅してしまうことが怖くなってきた。死にたくない。

 なんで僕は死ななくちゃならないんだ。しかも、原因は自分自身でも事故でもなくわけの分からないミスだなんて。そうだ、相手は神様みたいな存在だ。なんとかしてくれないだろうか?


「あの管理者さん、あなた方のミスなら、僕を生き返らせることはできないですか?」

「ごめんなさい。それはできません。確かにあなたにとって酷い話ですが、一度死んだ人間を生き返らせることは我々でも不可能です」

「そんな…」

「ただ、本来あなたはもっと長く生きる運命でしたので、そのままあの世に送らないもう一つの選択肢を用意しました。それは、今の記憶を保持したまま別の世界で転生するというものです」


 記憶を保持したまま転生なら僕という存在はまだ生きていられる。ただ…。


「別の世界。この世界ではなく?」

「ええ、別の世界です。同じ世界では記憶を保持したまま転生はできない決まりなのです。もちろん記憶をリセットした上で同じ世界へ転生することもできますが、どうします?」


『どうします?』と言われても、記憶を保持できないなら意味がない。家族や友人とは会えなくなるけど覚悟を決めるしかない。

「わかりました。別の世界への転生を希望します」


「了解しました。あなたを異世界で転生できるように手続きをいたしましょう」


 管理者さんがそう言うと、周りの景色が一変した。

 周り一面が星空に変わり、足元には地球に似た惑星が見える。僕らは宇宙空間に浮いているような状況だ。


「今下に見える惑星。あれがあなたが今から転生する世界です」

「どんな世界なんですか?」

「剣と魔法の世界って感じですね。あなた達の世界のゲームや漫画の異世界のテンプレにとても近いでしょう。前の世界との違いをあげるなら、魔物がいること、人間は複数の種族に別れていること、魔法が存在して科学技術、文明はあまり発展していないこと、治安はあまり良くなくて、王政などの君主制が一般的といったところでしょう」

「本当に異世界召喚とかでよくある世界ですね」

「ええ、ですので元の世界と比べて危険も多い世界です。なのであなたには私から加護を1つ与あたえます」

「加護ですか? それってテンプレ異世界召喚でありそうなチートなスキルとかですか?」

「いえ、おそらくあなたがイメージするほどチートなものではありませんよ。100人の兵士に1人で突っ込むいわゆる俺TUEEEEEEみたいなことをすれば、たぶん死にます」

「はは…。さすがにそんなタイプのスキルは無くてもいいですよ」

 この人、結構異世界テンプレに詳しいな…。


「ですが、この世界で生きていくにはとても便利な加護であることは保証しましょう。というわけで、これを引いてください」


 そういって目の前に出されたのは箱と中に数本の棒。

「これは…くじですか?」

「そうです。与えられる加護は一つだけですのでくじで選んでいただきます」

「好きなスキルを選ぶことはできないのですか?」

「できません。くじで選ぶ決まりですので」


 …なんかよく聞く異世界転生系のテンプレと比べて自由度低いな。それにもらえるスキルは一つだけかぁ。まあもらえるだけありがたいのかな。


 仕方ないのでくじを引く。棒の先には『見切り』と書かれている。


「『見切り』が当たりましたね。『見切り』は戦闘に役立つ加護で、剣や魔法などの自分に向かってくる攻撃が近づくと反射神経と俊敏性が大幅に上昇します。」


 おー戦闘に役立つ加護か。正直ちょっと微妙な内容の加護だけど、役には立ちそうだ。


「弓や魔法にもちゃんと反応する能力なので攻撃を避けるのにとても役に立ちますよ。ただ、ある程度攻撃自体が近づかないと発動しないため、遠距離からの攻撃や広範囲の攻撃には注意が必要です。例えば、弓矢なんかは実際に放たれた矢が近くまで来て初めて能力が発動するため、予め弾くもしくは避ける準備をしておかなくては能力が発動しても間に合わなくなります。能力が発動する距離は意識が向いている方向にもよりますが、およそ2m程です。実際にどんな感じになるかは向こうに着いてからいろいろ試してください」


 うーん、そう聞くと飛び道具に弱そうだな。

 なんか準備さえしておけば2mまで近づいた矢を弾けるみたいな言い方だったが、本当だろうか?

 やっぱり実際に試して見ないとどんな能力かわからないのだろう。



「手続きは以上になりますが、聞いておきたいことはありませんか?」


 あれ? 終わり?

 僕の知っているラノベの異世界転生ものはもうちょっと説明とかいろいろあったのに。

 今から転生っていっても不安がいっぱいだ。


「あの、加護をもらったのはありがたいのですが、向こうで生きていくための知識がないので不安です。言葉も通じますか? お金も無いので、どの地域に転生するのか、お金を稼ぐ方法とか教えてください」

「あ…、もしかして、そっちの転生だと思っていましたか…」

「え、そっちの転生って…」

「あなたの転生はトリップではなく生まれ変わりですので、赤ん坊からのスタートですよ。お金の稼ぎ方とか生きる知恵は育ててくれた人に教わってください」


 マジか! そっちの転生かよ。

「あなたの体は交通事故でひどい状態ですので、今のあなたは魂だけの状態ですよ。ちなみに、ネトゲキャラをベースに体を作るなんて神様みたいなことも私にはできませんので」


 そういえば僕の体の方は無事ではなかったね。管理者さんも万能じゃないみたいだ。

 あと、やっぱりこの人日本の娯楽に詳しすぎるな。


「わかりました。生まれ変わるのですね。一体どんな家庭に生まれるんです?」

「わかりません」

「え!?」

「こればっかりは魂の流れに身を任せるしかありません。お気づきの通り私はあまり万能ではないので、あなたが生まれる種族や地域、性別、家庭環境など一切わかりません。いい環境で生まれることを祈っていてください」


 なんと!? 

 最後に来てこんな不安要素がある転生だなんて聞いてないよ。高望みはしないので、なんとか餓死だけはしない環境でありますように。


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