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(E)入学までのプロローグ

「お勤め、ご苦労様でした」

「ホントだよ、全く。アイツ、昔っからボクがいないとダメだからね~」

 口では呆れつつも、喜色満面な笑みを浮かべている少女の手には、女性物の白い下着が1セット、とても大事に握られていた。

 まるで、苦労の末に手に入れた、戦利品を愛でるかの様に――。



   §



 午前7時30分。俺は屋上で七夏と合流した後に、揃って生徒会室へと赴いた。その目的とは勿論、生徒会副会長の美都沢殊刃先輩に会う為だ。

「来たわよ、殊刃」

 昨日とは違って至って普通に、七夏は扉を開け放つ。

「ノックぐらいしなさいよ……」

「拳じゃなくて拳銃でなら、ノックしても良いけれど?」

 呆れる殊刃先輩に、七夏は悪びれもせずにそう返す。

「……もう、良いわ。また壊されるくらいなら、貴女の無遠慮な振る舞いくらい、幾らだって大目に見てあげるわよ……」

 七夏の傍若無人さに頭痛がするのか、瞳を閉じて額を押さえる。昨日の一悶着で去年までの鬱憤が、5割は晴れたらしいけど、まだまだ、2人の間に開いた溝は、綺麗に埋まりそうにない。殆ど、と言うか完全に、殊刃先輩の一方的な敵視だが。

「そうしなさい。でないとその内、胃が蜂の巣みたいに穴ぼこだらけになっちゃうわよ?」

 仮想空間でとは言え酷く痛めつけられていたにも関わらず、七夏から殊刃先輩への敵意は全く感じない。今の言葉だって、嫌味ではなく、本気で心配してのアドバイスである。だからこそ、逆に質が悪いけど。

「誰の所為よ、全く……」

 七夏の見当違いな助言を聞いて、殊刃先輩は盛大に1つ溜息を吐く。昨日の勝負で鬱憤を晴らしていなかったら、文字通り、雷が落ちていたのだろうか。ダメージは既に癒えたけど、またあの電撃を受けるのだけは御免被る。

「どうかしましたか、しぃ様?」

 2人の遣り取りに乾いた笑いを思わず零す俺を見て、九陸先輩は小首を傾げてそう聞いた。

「あぁ、いえ、何でも無いです」

「……そう、ですか?」

 首を横に振って答えを濁すと、怪訝そうな瞳で見詰めながらも、九陸先輩はそれ以上聞いてはこなかった。

「……」

 心の中で、安心からの溜息を吐く。

 語弊のある言い方で先程の質問に答えるならば、貴女の御主人様から受けた暴行を思い出して恐怖で逆に笑ってしまった、と言う事になる。ともすれば、御主人様を貶されたとか、こいつ実はドMだなとか、あらぬ誤解をされてしまう恐れがあるので、追究されずに大人しく引き下がって貰えて助かった。

「まぁ、良いわ。それより、そろそろ本題に移るわよ」

 再度、心の中で安心からの溜息を吐く。すると、それを合図にしたかの様なタイミングで、殊刃先輩は話題を変えた。

「今日、貴方達を召集したのは、言われなくっても分かっているとは思うけど……」

「昨日の取引の件、よね」

 勧められる事は多分無いと思うので、俺と七夏は勝手にソファーに腰掛ける。そして、座るや否や七夏が言った。

「あの場では具体的な話は一切出なかったけど、お互いに、言いたい事は伝わっている。けれども、形式的に、キチンと取引しておこう……ってな訳でしょ?」

「そうよ。話が早くて助かるわ」

 俺も当事者である筈なのに、蚊帳の外に置かれて話が進む。

「あのー。俺には全く話が見えないんですけど……」

 それでは流石に困るので、俺は口を挟んで質問をする。

 確かに、昨日、殊刃先輩は俺達に対して急に取引を申し出た。しかし、その詳細は一切語られずに、今日はもう疲れているだろうからと、こうして今日へと持ち越されてしまう事となる。その取引に応じた七夏はキチンと内容まで理解をしている様だけど、殊刃先輩との会話が終わったすぐ後に、死んだ様に寝てしまい、結局、取引の内容を聞き出す事は適わなかった。今朝、屋上からここへと来るまでに七夏に聞いても、後でのお楽しみ、とはぐらかされるばかりだし。

 その為、昨日の夜は悶々として寝付けずに、ついには徹夜をしてしまう。その所為で心も体もズシリと重く、フラつく足取りで蹌踉めきながら登校をする羽目となる。この様に心身ともに疲れている為、話の内容次第では、そのまま倒れる自信があった。

「……何で説明してないのよ、めんどくさい」

「だって、面倒なんだもん」

 とても酷い。泣くぞコラ。

「と言うのは冗談で、取引を持ち掛けてきた殊刃自身の口から、キチンと説明をさせるのが筋だと思ったからなのよ」

 間髪容れずに、七夏が俺にそう言った。やっぱりどうも、からかわれている節がある。が、まぁ、今は不平不満を言うよりも、殊刃先輩の話に耳を傾けるとしよう。

「まぁ、それもそうよね……」

 殊刃先輩は七夏の言葉に渋々ながらに納得すると、咳払いをしてから取引の内容について語り出す。

「単刀直入に言うけれど、昨日の怪盗ブラパンの一件について、口外無用でお願いしたいわ」

「……それはまた、どうして?」

 後から考えてみれば、至極簡単な話の筈なのに、昨日の電気ショックの影響か、どうもあれから上手く頭が回らない。

「鈍いわね、しぃ君は」

 その所為で、七夏にバカにされてしまった。

「人から獲物を奪い取った癖に、それをみすみす取り逃がしました~。なんて不祥事は、生徒会役員の面汚しでしかないからね。だから、殊刃は、どんな手段を使っても、私達の口を永遠に塞ぐつもりなの」

「口封じ!?」

 七夏の言葉を聞いた途端に、昨日の電光一閃が、瞬時に脳裏に蘇る。もしも再びあの一撃を、今度は現実世界でモロに喰らってしまったら。結果は、想像に難くない。その超殺人級の電撃を、取引の材料として突き付けられてれてしまった日には、否が応でも首を立てに振るしかない。それしか生き延びる道が無い事を、俺は一瞬にして理解した。だから俺は、

「だ――」

 れにも言いませんので、どうか命だけは! と、在り来たりで面白味の無い命乞い時の定型文を、躊躇う事無く口にする。

「……侮辱的かつ誤解を招く様な物騒な表現について、色々文句を言いたいけれど、この際それには目を瞑りましょう」

 よりも断然早く、殊刃先輩が溜息混じりにそう言った。

「七夏の不適切な物言いなんかを真に受けて、しぃの字は誤解をしている様だけど、私がするのはあくまでも、脅迫ではなく取引よ。勿論、お互いにとって損のない様に……ね」

「あ、あぁ、そう……ですよね」

 ホッと胸を撫で下ろし、三度、安心から溜息を吐く。兎にも角にも漸くこれで、人心地が付いたと言うものだ。

「……で、その取引として、俺達は昨日の件を黙っていれば良いんですよね?」

 そして、心に余裕が生まれた事で、俺は一番気になる事を、積極的に質問出来た。

「えぇ、そうよ。……ただし、たとえ無意識にでも約束を破られてしまっては困るから、私の監視下に身を置いてはもらうけど、ね」

 自分の前にだけ置かれたティーカップを口元へと静かに持ち上げて、優雅な仕草でコーラを飲み干す。その所作の一部始終を見届けた後、俺はいよいよ、話の核心へと触れていく。

「……それでその、見返りは一体何ですか?」

 もしかして、と言う期待はあった。俺達が一番望むもの、かつ、秘密を知る俺達を自分の監視下に置いて見張りが出来る。その両者を満たす事を可能とする好都合な条件が、たった1つ思い浮かんだ。

「それは勿論、しぃ君の入学の許可……よね」

 それを何故か七夏が言った。

「その通りよ」

 その事に気分を害する事も無く、殊刃先輩は言葉を続ける。

「私が出した条件を満たす事が出来なかったとは言え、しぃの字の疑いは一応晴れた訳だしね。……まぁ、及第点って事で、お情けで認めてあげるわよ」

「まぁ、偉そうに。貴女が邪魔をしなければ、今頃、怪盗は豚箱に打ち込まれていたのにねぇ。」

「さぁ、それはどうだか。たとえ、私の乱入が無かったとしても結局は、貴女達も怪盗を取り逃す結果になっていたかも知れないじゃない?」

「それは無いわよ、貴女じゃないし」

「何よ、私にボロクソに負けた癖に」

「論点がズレてるわよ、副会長様?」

「……生意気よ、この若白髪女が」

「何よ、時代錯誤のチャンバラ女」

「ハハハ……」

 終わりの見えない2人の女性の口論(尤も、七夏は殊刃先輩をからかっているだけに過ぎないだろうが)に、俺は乾いた笑いを小さく漏らす。だが、本心では、人目も憚らずに大きく笑ってやりたいと、細やかな欲望が頭を擡げる。何てったって、紆余曲折はあったけど、これで漸く本当に、俺はこの、神罰校の正式な生徒になったのだから――!

「それではしぃ様、これをお受け取り下さい」

 取っ組み合いにまで発展しそうな、御主人様の幼稚な口喧嘩には目もくれず、九陸先輩が俺の側まで近付くと、一冊の黒い手帳を差し出した。

「しぃ様が本校の生徒であると証明する為の、生徒手帳で御座います」

 そう言われてから良く見ると、その表紙には白抜きの文字で、生徒手帳と確かにあった。同様に、『私立神聖罪罰高等学校』の学校名も表紙の下の方に書かれているし、ラノベのイラストレーターがデザインしたかの様な厨二チックで特徴的な校章も、表紙の中央に(これだけ何故か)金箔で大きく刻まれており、遺憾無く存在感をアピールしている。実際に見るのは初めてだけど、疑う余地も無く神罰校の生徒手帳だ。

「あ、ありがとうございます!」

 在校を許可された事の物的証拠を手に入れて、有頂天な気分になった。

「良かったわね、しぃ君。おめでとう」

「七夏のお陰だよ、本当にありがとう!」

 口論を止めて祝いの言葉をくれる七夏に、感謝の言葉を素直に返す。

「友達が困っていたら、助けるのは当然でしょう?」

「……そう、だよな。でも、ありがとう!」

 元々、退学の原因の何割かは、七夏のもう1つの顔である屋上の仮面銃士にもあるのだけれど、そんなものは当然不問だ。まだ友達になる前の話だし、その後に助けてくれたんだから、それでチャラどころか、お釣りを渡したて感謝をしたい程である。

「さて、と」

 そう思っていたら、何故か七夏が靴を脱ぐ。そして徐に立ち上がると、俺の膝を踏み台にして、俺の頭にお尻を乗せる。

「え? ……えぇ!?」

 恐らくだけど、スカート越しではなくショーツ越しの柔らかいお尻の感触に、頭が沸騰寸前だ。が、少しでも力を抜くと七夏を落としてしまうので、俺は必死になって体勢を維持して椅子になりきる。

「それじゃあ最後に、私から一言」

 そんな俺の肩に片手を突いて器用にバランスを取りながら、七夏は右足を上にして足を組む。そして、対面に座る殊刃先輩の顔を、文字通りの上から目線で見下しながら、何やら良からぬ感情を含んだ口調でこう言った。

「若輩者の私達ですが、副会長が卒業なさるまでの2年間、お互いが有意義な学校生活を送れる様に、何卒、よろしくお願い致します。……ねぇ、殊刃先輩?」

「……前向きに善処するわ」

 忌々しげに、殊刃先輩が答えを濁す。一応、取引によって立場は平等になったと言えるけど、それなのに尊大な態度を装って七夏がからかうもんだから、折角晴らした鬱憤が、再び溜まっている事だろう。

「あぁ、そう言えば」

 しかし、殊刃先輩はこうなる事を予期したみたいで、七夏を黙らせる為のとっておきの1発を、カウンターで打ち放つ。

「あぁ、そうそう。生徒手帳の表紙の裏に顔写真を貼るのが校則での決まりなんだけど、昨日一昨日で写真撮影は終わっているから、昨日の仮想空間でのスクリーンショットを、代わりに貼っておいたわよ」

「そんな事も出来るんですか。便利な魔技具ですね、あの鍵は」

「それよりも、どんな写真が貼ってあるのか、早速確認してみましょう」

 殊刃先輩の言葉に感嘆している俺の上から、七夏が何故か真剣な口調で俺を急かした。七夏の事だからきっと、殊刃が嫌がらせで悪意のある顔写真を選んでいるに違いない、とでも勘繰っているに違いない。

「……あぁ、そうだな」

 殊刃先輩の七夏への怨嗟に巻き込まれて作為的に退学寸前まで追い込まれてしまった身としては、強ち、考え過ぎだと言い切れない。だから俺は言われた通りに、すぐさま表紙の裏を見る。

「……」

 そこには、電撃を喰らって白目を剥いた俺がいた。思った通りに、悪意の籠もった選択だ。が、それよりも、更に目を引くものがある。

「何だ、これは?」

 俺の写真を左上から右下へ、一直線に横切っている赤い6文字。丸みを帯びた平仮名と、1つの感嘆符とで構成された文字列は、俺には次の様に読み取れた。


 かっこかり!


――と。


「言い忘れてたけど、しぃの字の神罰校への入学は、まだまだ正式なものではないからね」

 しれっと。ともすると、聞き逃してしまいそうな雑談の様な気軽な口調で、殊刃先輩は重大な事実を告知する。

「……何よ、それ。どーゆー事か説明しなさい、殊刃。ギブミー、セッツメェーイ!」

 夢幻を構えて七夏が尋ねる。今の状況では顔色までは見えないが、恐らくは、冷たい瞳で怒っているに違いない。

「さっきも言ったでしょ、及第点だからお情けで認めてあげるって。本当ならば条件を満たしてなくて赤点だから、問答無用で退学処分なんだけど、取引の為に已むを得えずに譲歩して、一先ずは仮入学で様子を見ようと決めたのよ」

「……へぇ~。そう……」

 涼しい顔で殊刃先輩が答えを返すと、七夏が撃鉄を起こす音がした。

「おい、落ち着けって」

「でも、しぃ君――」

「いいから、俺に殊刃先輩と少し話をさせてくれ」

「むぅ……」

 俺は七夏を何とか宥め、殊刃先輩に質問をする。

「今、一先ずは様子見ると仰いましたけど、それは、今度次第では正式に入学をさせてもらえる……って事でよろしいですか?」

 俺に質問を予想していたのか、殊刃先輩は間髪容れずに頷いた。

「えぇ、そうよ。しぃの字を正式に神罰校の生徒として迎え入れるか否かの決定は、貴方の成績や生活態度は勿論の事、学校への貢献度でも判断するわ」

「貢献度……って何ですか?」

 返ってきた答えの中に更なる疑問が見つかったので、俺はすぐさま質問をする。と、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、殊刃先輩は微笑んだ。

「その質問に答える前に、先ずは裏表紙の裏を見てみなさい」

「裏表紙の裏とか、言葉にするとややこしいわね……」

 七夏の尤もな指摘に軽く笑って、言われた通りの場所を見た。すると、本来ならば白紙であろうそのページには、2×6マスの手書きの枠が書いてある。どうやら横にして見るのが正しい様で、手帳を回して向きを変えると、枠の上には『ごほうびスタンプ』と幼児向けの何とも可愛いフォントの文字が、陽気に踊ってこちらを見てる。

「……つまり、しぃ君が学校に貢献すると、それに応じてここにスタンプを押して貰えて」

「それを12個集めれば、晴れて俺の正式な入学が認められる……と?」

 七夏の言葉を引き継いで、俺は一番左上の枠に押印された『美都沢』の印を指差しながら、自分の考えが正しいかどうかを問い掛ける。

「理解が早くて助かるわ」

 答えは、その前置きの後にすぐに続いた。

「より正確に言うと、こちらから月に1,2回を目処に貴方達に学校関係の何かしらの依頼を出すわ。で、それを見事に達成出来れば1ポイント。達成出来なければ、当然0ポイント。で、達成出来ない所か、逆に悪い事態になったり、生活態度や成績に問題があると見なされれば、それに応じてポイントはマイナスされていく。……そして、もしもポイントが0になったり、ポイントを満たせないままに1年生を終えるその時は――」

「今度こそ本当に退学……ですよね」

 そこまで聞けば、自ずと答えは見えてくる。

「そうなると、しぃ君と一蓮托生の関係にある私も、同じ条件を課せられてしまう、と言う訳ね」

 先程までと状況が一変してこちらが不利になったので、今度は七夏が忌々しげな声を出す。この条件を呑まなければ、殊刃先輩はきっと、自分の不祥事の発覚を受け入れてでも俺達を退学へと追い込むだろう。

「……まぁ、やるしかないよな」

 いや、事故でとは言え入学式をサボった俺や、屋上の仮面銃士として悪名を馳せた七夏より、生徒会副会長の殊刃先輩の方が人望がある事は明白だ。だから、たとえ俺達が声を大にして殊刃先輩がブラパンを取り逃した事を学校中に広めても、誰も信じてくれないだろう。俺達の証言以外に、何も証拠は無い訳だしな。そう考えると、この救済案は俺達に対するせめてもの、殊刃先輩なりの罪滅ぼしなのかも知れないな。

「仕方がない。癪だけど、1年生の間は貴女のご機嫌取りに努めてあげる。優等生を演じないといけなくなるから、屋上の仮面銃士も、暫くは鳴りを潜めるか……」

 俺と同じ考えであろう七夏も、大人しく殊刃先輩の言葉に従った。

「退学になければ、精々汗水流して働く事ね」

 期間限定で渋々とは言え、目の敵2人が自分の手駒になったので、殊刃先輩は隠す事無く上機嫌で宣った。

「恐らく、魔技具関係の依頼もチョクチョク頼むと思うから、しぃの字は早く自分の魔技具を使い熟せるように、精一杯日々の精進に勤しむ事ね」

「魔技具……か」

 その言葉に、俺は自分の右手の魔技具を見遣る。

「能力としては、他人の魔技具を盗む魔技具……で良さそうだけど、盗んだ物を使い熟せるかどうかは、しぃ君の術者としての腕に帰結する、と言う訳ね。その証拠に、私の額を打ち抜いた『六鵝夢中』の弾丸も、本来の威力の4分の1程度でしかなかったし」

「私の『強電雷鳥』も、悪戯グッズの電気ショック程度の電力でしかなさそうだったわ」

 俺の魔技具の能力の対象者となった2人から、各の意見が述べられる。しかし、それらは俺もすでに認識済で、術者としてのレベルアップに繋がる有益な情報は1つも無い。

「そもそも、能力の発動条件すら分からないんだよなぁ。昨日の昼休み、七夏との特訓の時には、1度も魔技具は盗れないし、そもそも、魔力を作る為の俺の1番の欲望ですら不明なままだし……」

 結局の所、俺は自分の魔技具を大雑把にしか理解出来ていなかった。今ある情報で魔技具に名前を付けるなら、安直だけど『欲望泥棒ディザイア・ハンター』とでもなるだろう。が、能力の全貌を把握しきれていない今はまだ、名前を決めてしまわぬ方が良さそうだ。

「まぁ、でも、貰ったその日の内に1度だけでも能力を発動出来たと言うのは相当よ? 私なんて、初日は1発も弾は撃てなかった訳だしね。だから、しぃ君には才能があると私は思うわ」

 考え込んで頭を垂れたのを落ち込んでいると勘違いしたのか、七夏が俺を励ました。

「ありがとう、七夏」

 訂正するのも野暮だと思うし、その気持ちが素直に嬉しかったので、七夏からは見えないけれど、俺は笑って礼を言う。

「そう……だな。まぁ、焦らずじっくり、こいつと向き合い付き合うさ」

 まだまだ謎の多い存在だけど、呪理から託された大切な相棒である事には変わりがない。それに、こいつの能力のお陰で、俺は七夏との友情を結ぶ切っ掛けを得た。こいつの事を理解して、その能力を存分に引き出してあげる事こそ、俺が出来る恩返しであるに違いない。

「七夏も、改めて、これからよろしくな」

 勿論、七夏に対しても恩返しをする事を忘れない。それがいつ、どんな形になるかは不明だが、絶対に、最高の形で恩を返そう――!

「こちらこそ、よろしくね、しぃ君」

 俺の上から降りた七夏が、再び俺の隣に腰掛ける。

「おう! 一緒に頑張ろうな!」

「えぇ、頑張りましょう」

 柔らかい感触、心地好い重量から解放され、て少し名残惜しく感じてしまうけど、そんな事はおくびに出さずに俺は右手を差し出した。それを七夏は、魅力的な笑顔を浮かべて握り返した。

「この魔技具や私は勿論、さくらと、多分、晶や憂子も貴方の仲間よ。みんなで力を合わせれば、意地の悪いであろう殊刃からのどんな依頼も、絶対に乗り越えて行けるわよ!」

「……あぁ、そうだな!」

 真剣な表情の力強い七夏の言葉に、俺も同じ様に言葉を返す。

「麗しい友情ですね、殊刃様」

 そんな俺達の遣り取りを見て、存在が空気になっていた九陸先輩が口を開いた。

「そうね。ちょっと羨ましいくらいだわ」

 九陸先輩の言葉を受けて、殊刃先輩が意外にも本音の様にそう言った。

「……」

 その事に少し驚いていると、七夏が自分の鞄と俺の鞄を肩へと掛ける。

「よーし! それじゃあ早速、始業時間まで、屋上で魔技具の特訓よ!」

 そして、そう言って七夏は勢い良く立ち上がると、

「え……? おわっ!?」

 俺の返事も聞かずに、俺の手を引き全速力で生徒会室を飛び出した。

 光陰矢の如し。これから先の学校生活も、この様にあっと言う間に感じてしまうスピードで、終わりへ向かって行く事だろう。だからこそ、卒業を迎える前に退学処分を受けてしまって、神罰校を追放される訳には行かない。俺の為にも、俺の為に協力をしてくれる友の為にも絶対に。

「手取り腰取り足取り尻取り、飴と鞭を巧みに切り替え使い分け、お姉さんが優しく扱いてあ・げ・る♪」

 窓から差し込む朝日を浴びて、より一層と眩しく輝く七夏の笑顔。

 その笑顔を、絶対に曇らせてなるものか。

 そして、俺も同じ様に一緒に笑って過ごしてやろう。

 幸せに満ちた己の欲を胸に秘め、俺は気持ちを引き締め元気に言った。

「あぁ、望むところだ!」


 こうして、波乱の幕開けとなった俺の高校生活は、更なる波乱の予兆を孕みつつ、漸く最初の1歩を踏み出した。

 これから先、何が起こるのか、何をすれば良いのか、分からなくなる時が来るだろう。けれども、俺には頼れる友が既にいる。だから決して、ネガティブに考えてしまう必要は無い。『かっこかり!』のレッテルだって、すぐに剥がして丸めてポイだ!

 七夏の掌から伝わってくる温もりのお陰で、俺の中に不安な気持ちは微塵も無い。その所為か、一昨日からの寝不足や心身疲労が相俟って、まだ早朝なのにも関わらず、俺は早くも就寝の事を考えていた。


 今日は早めにぐっすり眠って良い夢を見て、

 明日は笑顔で登校しよう――!



【1】屋上(現/仮)バトル!完

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