六話
こうして勝負が始まった。
私は陽神の術を身につけようと修行に入った。すべては維摩の鼻を明かし、全財産をふんだくってやるためだ。
全財産をを奪っても神通力まで持つあの男を破滅させることはできないが、せめて「まいった」と言わせてやりたい。それが私の意地だ。
ある日、なぜこのような賭けを持ち出してきたのか維摩に聞いてみた。
「私のような煩悩に囚われているような者だからこそ、仏の世界に憧れがあるのだよ。せめてどんなところかぐらいは知りたいではないか?」
まあ、私のような化け狐でもどんなところかぐらいは興味はある。そんなところに住むのは御免ではあるが。
そうこうしているうちに、割とあっさり陽神を作り出すことに成功した。
現実世界に干渉できる気を練り上げた分身となると、鳥でなくとも空を自由に飛び回ることもできる。それどころか変幻自在の法と合わせて、陽神と化した分身体を自在に変化させることまでできるようになった。ここまで一年もかかっていない。陽神の術は変幻自在の法とも相性がいいらしい。
今後人々をおとしめるためにも役に立つことだろう。今まで以上に悪さの規模を大きくできるだろうと私は喜びを感じていた。
ーーー
賭けを始めて一年後、私は陽神となって仏国土を探す旅に出かける準備が整った。
ここで問題があることに気がついた。陽神となった分身体のほうに意識を移してしまうと、本体である身体が無防備になってしまうのだ。
身体に何かあれば一瞬で意識は分身体から本体の方に戻ってこれるのだが、本体にちょかいをたびたびかけられれば仏国土の探索どころではなくなってしまう。
「心配しなくていい。手出しはしない。身体は決して誰も近寄れないように、特別な屋敷を用意して守ってみせよう」
そう解決策を出してきたのは維摩である。私は怪訝に思った。
「いったであろう。私は仏国土がどのようなところか何処にあるのかを知りたいのだ。この約束を違えたなら殺されてもいい」
命までかけるか。そこまで言うなら私は奴は約束を守るだろうと考えた。直感的にも大丈夫だと感じる。私の直感はなぜか当たるのだ。
維摩の案に私は乗った。
そして陽神に意識を移して仏国土を探す旅に出かけた。
期間はあと二年ある。現時点で既に私の負けはない。あとは勝利に華を添えるだけだった。