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三話

大きな蔵に大量の財宝が詰め込まれた。

それにしても維摩は大した商人である。これほどの財宝を貢いできてもまだまだ余裕がありそうだ。国を滅ぼしたことのある私でも、この男を没落させるのはまだ時間がかかりそうだ。あるいは一国の王侯貴族を凌ぐ財を持っているのかもしれない。

私は維摩の破滅させる時期を早めるための計画を練ることにした。

ある日、維摩はひじょうに残念そうに私に言った。


「商談のため30日ほど屋敷を離れる」


「まあ、そんなに長い間……さみしい」


「おお、愛しい人よ。許しておくれ。できるだけ早く帰ってくるようにしよう」


そう言って少し離れたところにある都市へ商談へ出かけて行った。

私にとっては願っても無い機会である。

とりあえず私は蔵の中にある財宝を盗賊に盗まれたことにしてすっからかんにしてやろうと思った。そして悲しんだふりをして、再度同じだけの財宝を貢がせるのだ。

30日間、維摩は多くの使用人達を連れ立って出かけているので屋敷は手薄である。この隙を逃す手はない。

奴らが帰ってくるまでにすべての手はずを整える。


「これは思ったより、簡単にいきそうだわ」


色仕掛けで落としておいた数人の男どもを集めて蔵の中に導いた。


「この財宝すべて持ち出すのよ!」


そう男どもに命じた。

私は笑いがこみ上げてきた。これが大商人・維摩の破滅の始まりになるのだ。

だが、しばらくすると異変が起こった。


「これはどうしたことだ!」


「なんだこれは……」


配下の男どもが騒ぎ出した。


「どうしたの?」


怪訝に思って聞くと、


「出口にたどりつかないのです!」


ある男が妙なことを口走る。出口にたどりつかない?

私は出口の方向へ歩いていくとあっさり出口にたどりつき外に出ることができた。


「何を言っているの! さっさと働きなさいよ。分け前は充分に払うといってるでしょう」


男たちは顔を見合わせ、再び財宝箱を担いで歩き出した。

その様子を見ていると私はすぐに異変に気がついた。確かに配下のもの達は出口に向かって歩いている。歩いているが出口にいっこうに近づいてこないのだ。その場で歩いている真似をしているわけではないのは分かる。確かに歩いているのに蔵の外に出れないのだ。

私は驚いて再び蔵の中に入った。


「どうなっているの?」


そう呟きながら男どものもとへ行き、再び出口に向かう。問題なく外に出られる。

もう一度中に入り、今度は財宝を持って外に出ようと試みた。そうすると、


「ーー!?」


驚きは声にならなかった。手ぶらだと出られるのに、財宝を持つと出口にたどりつかないのだ。


「この蔵に盗難防止の術が掛けれれているというの?」


驚き叫んでしまった。

あの男はいやらしいだけの下賎な者ではなかったのだ。これ程の術を私に気づかれることなく張りめぐらせるとは……もしかした、単なる商人でもないのかもしれない。

背中に冷たい汗が流れた。もしかしたら私の企みも見抜かれている? まさかとは思うが焦ってくる。

私は蔵の周りを見渡すと、かなり高い天井付近に開き窓があるのを見つけた。


「出口からでれないのなら、上の開き窓から出るのよ!」


指をさし、配下の者達に命令した。彼らはすぐに壁伝いに登り始めた。しかし登っても登っても上の開き窓までたどりつかない。出口と同じだ。


「ならば床板を剥がして地下道を掘るのよ」


そう命じた。しかし、床板を剥がさせるとその下に床板があった。その床板を剥がすとまた床板が…その下にもまた床板が現れた。床板が現れるばかりで床下がいっこうに現れない。

やがて配下の男どもは疲れ果てて皆倒れてしまった。


「おのれ……」


呪詛の声を上げると、


「美女が怒ると本当におっかない顔になるのー」


ひょうひょうとした声が聞こえてきた。


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