二話
次の私の標的が決まった。めったにいないほどの成功を収めた大商人で、維摩という男だった。
まずはその維摩本人ではなく、下働きの男に美女の姿で近づいた。その男はすぐに私に惚れ込んで維摩邸の下女の仕事を斡旋してくれた。ちょろいもんだわ。
まずは仕事をするふりをしながら、維摩とはどんな男か、何が弱点なのかを調べよう。どう料理するのがいいか? こういったことを想像するのは良い暇つぶしになる。
さて、機会はすぐにやってきた。
私が下女の仕事をしていると突然、
「おおー、おおー。なんと美しい……」
そう叫びながら男が近づいてきた。
なかなかの美丈夫なのだが、目を大きく見開き口も間抜けなほど大きく開いていて台無しになっている。私の顔や胸・尻をじろじろ舐め尽くすように視線を向けて来た。使用人達よりはるかに立派な着物を身体にまとい、態度も堂々としている。
「どなた様でしょうか?」
わざとらしくならないように聞いてみると、
「うん? おお、すまぬ。いつの間にか美女が我が屋敷に来ていたのに、驚いてな……」
我が屋敷、といったか。するとこの男がおめあての維摩であろうと思った。
「まあよい。私はこの屋敷の主人で維摩という者だ」
「まあ、ご主人様でしたか。これはとんだご無礼をいたしました」
「初対面だ、仕方あるまい」
維摩は機嫌よくうなずきながら、いやらしい目で私を見つめた。「イヤですわ」と少し恥ずかしがると、はっははとバツが悪そうに笑いながらその場を離れていった。離れ際に、
「いい人材を雇ったものだ。家宰を褒めてやらねばなるまい」
と言った。どうやらあの男に気に入られたようだ。今回も破滅させることは楽にできそうだ。偶には張り合いのある敵はいないのだろうか……
それにしても、人間の男共はどうしてこう美女に弱いのだろうか?
ーーー
数日すると、私は維摩から夜伽も命じられた。こちらとしては望むところ。じょじょにこの男を堕落させ、財を搾り取ってやるのだ。
維摩邸には私の他に愛人数人囲っていたが、やがて彼の寵愛は私にのみ注がれるようになるのにそう時間はかからなかった。
維摩は毎夜、私の元へ訪れるようになり、さらに私の関心を引こうと貢ぐよになっていった。
やがて私の方からおねだりをして貢がせた。手軽なものからだ……
「綺麗な着物が欲しいですわ」
「よかろう」
こんな具合にだ。
「まあ、綺麗な着物だこと。この着物に似合う宝石があれば素敵ね」
「よしよし、すぐに取り寄せよう」
じょじょに高価なものを、やがて高価のものを大量に取寄せるように維摩に頼む。
やがて頼み事は物だけでは収まらなくなっていく。手始めに私以外の愛人達を追い出すことにする。こうして、金も人も自由にしていく。
頼みごとを聞いてくれたのを見て私が歓声をあげると、維摩は満足げに頷いた。
さすがに私の行動が度を超し始めると、維摩に苦言を呈するもの達が現れた。しかし、その使用人達も私は美貌と肉体で堕落させ虜にしていく。
その内に貢物を納める蔵をねだると、維摩も家宰をはじめとする使用人達も喜んで大きな蔵を建てて私に寄こした。
私はそこに大量の財宝を詰め込んでいった。