魔法学校 VII
はじめて空を自由に飛べた時、十代の頃、友達の原付バイクを借りてはじめて運転した時に感じたような、新鮮な興奮と感動を思い出した。
手を広げて風を切って、己の体を物体に見立てて自在に好きな方向へ飛ばすというのは、自分自身がロケットにでもなったような心地がして、なんとも気持ちがいいものである。
ユリウス先生のセクシーな個別指導がハマったのか、俺は3週間を待たずして一乗りで空中浮遊をマスターしていた。先生に気に入られたのか知らんが、俺は学級委員長的ポジションを与えられ、先生に代わって昨日浮き始めたばかりのライオンタマリンに浮遊のコツの指導をしていた。
「チェリー、この空中浮遊というのは、行きたい向きとは逆方向から力を入れないといけないのが慣れが必要そうだね」
タマリンはバランスを取るのに苦心しているようで、宙に浮きながらもフラフラとしている。
「さすがに理解が早いな。こいつは全身を念力の力場で包み込み、浮遊と前方への推進力を維持しながら、左上に行きたい時は右下から押す力を加えてやる。といった具合に、感覚的には意識する場所が逆さまになるのが独特なんだ。まあ、俺はフライトシム系のゲームをよく遊んでたからすぐ慣れたけど、飛行機を操縦する感覚、と言ってもわからないよな」
苦手そうにしながらも、俺よりたった四日遅れで空中浮遊を練習しはじめるというのは、さすがタマリンである。こいつは何やっても出来がいいからな。早くも飛行姿勢が安定したものになってきた。
俺はタマリンに合わせてゆっくりと古城周辺を周回するコースを飛びながら、調子良く目の前で宙返りをして見せてやると、タマリンはそれを見て苦笑している。完璧超人のこいつよりも上手く出来る事があるというのは、なんと気分のいいことだろうか。
「あとはもう、ひたすら飛んで慣れるだけだな。それじゃ、頑張ってくれ」
「えっ、おい、待ってくれよチェリー」
俺はスピードを上げ、タマリンを引き離すと、古城の塔のとんがった頂点を掴んでグルッと回り、中庭で石や岩相手に念力の修行をしている魔法使いの集団の元へと戻って行き、着地した。正直、今の俺にはタマリンに構っている余裕などは無いのだ。
探求心は尽きないもので、俺はこれまで密かに遠隔からの"ソフトタッチ"物体操作を練習してきており、今こそ温めていた計画を実行に移す時が来たのである。――すなわち、念力によるユリウス先生の"おっぱい揉み"を!
いつものように椅子に座って紅茶を飲んでいる先生に気付かれないように、念力の自主練習をしている魔法使いの群れに紛れて身を隠し、魔法のステッキを自分の手にかざし、手を経由して魔力を伸ばす。狙いはもちろん、あの超乳である……
修行を重ねた俺の魔力は、はじめ先生が言っていたように餅のように細長く伸びるようになり、先端がユリウス先生のおっぱいに到達すると、慎重に、ゆっくりと、魔力を送り続けて、おっぱいを包み込むようにする。先生は紅茶に夢中で気が付いていない。
やがて俺の魔力は先生の巨大なおっぱいを完全に包み込んだ。今こそ、悲願の成就の時である! 俺は念力によって先生の重量級おっぱいを持ち上げ、鷲掴みにして、とにかくもう、揉んでやる! 揉みまくってやるぞ!
「ん? ……なんだこれは……あっ……んんっ……やめろっ……誰だ!?」
もみもみもみもみもみもみもみもみ……
ああ、なんという柔らかさ! この弾力! むにむにとしていながらもぷるぷるとしており、乳首は少し固くてコリコリしていて、もう、たまらん!
「……はあんっ……この魔力は……んっ……チェリー! 君か!」
やばい! 気付かれた! 先生はこちらを振り向くと、物凄い勢いで飛んできて、俺の顔面目がけて拳を振りかぶってきた! すかさず俺は反発するベクトルを持った念力の層を顔に集めてガードしようとするが、先生の拳はそれを突き破って俺の顔面をとらえ、力まかせに拳を振りぬくと、俺はきりもみ回転しながら10メートル程吹き飛ばされ、芝生の上に叩きつけられた。
「グボォエ!」
「……このように、念力で加速すれば女の細腕でもこの程度の威力のパンチが打てるようになる。念力は地味に見えて他の魔法に比べても応用範囲がかなり広い。皆、覚えておくように」
先生はまるで下等生物を見るかのごとき目をしながら、顔を押さえて倒れている俺の方に向かって歩いてきた。
「ひい! ブヒイ……!」
俺は先生の放つ殺気に恐怖心を抑えきれず、腰を抜かしたまま後ずさりする。
「ふん、人混みに紛れて魔力を伸ばせばバレないとでも思ったか? 魔力の発生源の探知など容易いことなのだよ。よくも私の胸を好き勝手に弄んでくれたな」
「しゅ、しゅみましぇん!」
もとより、死を賭した計画であった……だが、やはり命は惜しい!
「それにしても、歯の二、三本は折ってやるつもりで殴ったが、無傷とはな……教えてもいないのに、不完全ながら"対物バリア"まで使えているとは、驚いたぞ」
「む、無傷ではありません! この通り頬が腫れております! 親父にもぶたれたことないのに!」
先生は倒れている俺の顔の横スレスレに、ハイヒールをグサリと突き立てた。
「ヒイッ!」
先生は俺の上を跨いで見下しているが、パンツがモロに見えている! しかし、今は喜んでいる場合ではない!
「……それで、私の胸の"揉み心地"はどうだった?」
もう腹をくくって、正直に言ってしまおう。
「そりゃもう、最高でありました! 一生の思い出にいたします!」
俺は完全なる童貞から、一つ、いや二つもランクアップしたのだ! すなわち、"B"を知る男へと!
「フフッ、その正直さに免じて、許してやろう。……しかし、触感の"フィードバック"まで得ているとはな……君の魔力は、それだけ密接にアストラル体と繋がっているわけか」
「……?」
「……君は念力の素質が高いようだ。中級試練の期限が過ぎて以後も、私に師事して上級を目指す事をすすめるよ。私の指導は厳しいが、君なら必ずマスターまで行けるだろう」
「ははっ、ありがたきお言葉……!」
こうして時間は過ぎて行き、俺達はユリウス先生の念力中級講座を修了したのであった。人によっては難しい授業だったのか、最終的に4名もの落第者が出てしまったのは残念だったが、俺やタマリンのサポートの甲斐もあって、その中に俺の班のメンバーはいなかったのは、不幸中の幸いであった。
そして生き残り、空を飛べるようになった俺達12人の魔法使いは、魔法学校の試練の本番とも言える、属性魔法をはじめとする、広範な魔法体系の修行へと移行するのであった。