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魔法学校 V

 夜が明け、軍曹の訓練を卒業した魔法使い達は、教師の一人と思しき魔法使いの老婆から召集を受け、16名という人数に対しては少々広すぎる講堂へと案内された。


 中を歩きながら上を見やると、天井いっぱいに星図が描かれており、その星の一つ一つが、赤や青、緑、黄色など様々な色で輝いており、空中に浮遊しているカンデラと共に、講堂の中に明かりをもたらしている。


「ねえタマリン、なんかそれっぽくなってきたわね。あたしワクワクしちゃう」


「ああ、綺麗な所だね。あの壁に掛けられてる馬の絵とか、動き出しそうだよ」


 その絵を見てみると、動き出しそうというか、実際に動いている。絵に魔法がかけられているのか、馬が走っているのだ。カマホモは手を広げてぐるぐる回りながら、荘厳な講堂を見渡して浮かれている。


 講堂には生徒用の長いテーブルとベンチが向かい合うようにして2列ずつ備えられ、その最奥の一段高いステージ上のテーブルには既に何人もの教師が着席して待機していた。


 その中心には最長老と思しき、禿げ頭に、口元を覆う白い髭、力強い太い眉の、やたら恰幅のいい紫色のローブを羽織った老魔法使いが鎮座し、皆がそれぞれ席に着いたのを見届けると、新入生を歓迎するべく、口を開いた。


「わしがモゲワーツ魔法学校校長、エダズィーマ・ヘイハツィである!」


 校長の隣に座っている、黒づくめの衣装を着たバーコード頭の壮年の魔法使いが起立した。


「私は教頭のゲーハー・ロダンである。これより入学の儀を始める!」


 教頭がステッキを取り出して振ると、テーブル上に光の粒子が走り、七面鳥の丸焼き、麻婆豆腐、寿司、謎の野菜が入ったサラダ、巨大なフランスパン、ミートパイ、牛丼、タコス&サルサ、ワインやシャンパンなど、数えきれない種類のご馳走が煙と共に一瞬にして出現した。……統一感には欠けているが。


「四海の贅の限りを尽くした料理の数々、各々楽にして、存分に味わうがよい!」


「「「うおおおおお!」」」


 生徒達の歓声に合わせて、懐から妖精達が飛び出てキャーキャー騒ぎだし、どこからか持ち出してきたのか、パーティ用のクラッカーを鳴らしながら、講堂中をはしゃいで飛び回り、青白い光の粒を振り撒きながら妖精同士で編隊飛行をしだした。また別の教師が起立してステッキを振ると、屋内にも関わらず天井付近で色とりどりの美しい花火が何発も炸裂した。


 妖精達の乱痴気騒ぎの中、とりあえず俺達はそれぞれに好きな料理を皿にとって食べながら、ステージ上の教師たちに注目する。――やった、若くて美人な教師が一人いるぞ!


 やがて妖精達がはしゃぐのをやめ、魔法使い達の傍らに戻って大人しく料理を食べ始め、いくらか講堂が静かになると、それを見計らっていたかのように教頭が語り始めた。


「皆、それぞれ妖精に概要を聞いているとは思うが、諸君が今ここにいるのは緊急の理由によるものである。すなわち、巨悪の出現が妖精王によって予言され、これに対抗すべく魔法使いを養成するために他ならない。今ここに、その確認を兼ねて、妖精王の祝辞の手紙が届いているので、ご静聴願いたい」


 教頭は校長に目配せをすると、校長は黙って頷き、妖精王からのものらしい手紙を開いた。すると、開いた手紙から裸の男性が飛び出して、中空をゆっくりと歩きながら語り始めた。


「私の名はオーベロン、妖精の国の王をつとめております。まずは皆様、ご入学、おめでとうございます」


 これは色のついたホログラムのような、3D映画のようなものだろうか。妖精王の姿は人間と同じくらいの大きさで、手に槍を持ち、頭にオオルリアゲハのものと思しき美しい蝶の羽を挿し、ピンクの短めのマントを羽織っており、そしてフルチンである。その股間にあるいちもつは古代ギリシャ彫刻のそれに近い、慎ましやかな、――要するに子供チンチンであった。


「去る3か月ほど前、私は夢を見ました。すでに妖精によって皆様に伝えられている通り、今から数えて9か月ほどの後に、現世うつしよの日本、S県K市に巨悪が台頭し、世を混乱に陥れるであろう。というものです」


 なるほどよく見ていると、彼の姿からはどことなく俺の魔法少女ルックの変態性に近しいものが感じられ、初めて変身したときに、モモエルが俺の姿を見て、興奮しながら「とてもかわいい」と評していた、その妖精センスのルーツがここにあったかと、納得がいった。


「その2日後、私は再び同様の夢を見、巨悪の台頭と同時にこれと戦う"救世主"が現れ、"選ばれし者"による導きの下、世界に均衡をもたらすであろう、との啓示を受けたのです」


 ――この部分はモモエルから聞いてないな。周りを見ると、皆知ってるような顔をしているので、奴め、説明するのを忘れてたのだろう。


「"巨悪"が、"救世主"が、"選ばれし者"が、どのような存在であるかはわかりませんが、思い悩んだ私は現世に妖精を遣わし、S県K市近郊に存在している"適格者"を集め、皆様を"救世主"または"選ばれし者"のいずれかとするべく、正しき心と力を持つ者となるよう育てようという結論に至り、モゲワーツ魔法学校の協力を仰ぎ、ここに集まっていただいた次第です」


 妖精王は俺達の頭上を歩き、講堂を一巡りすると、踵を返して校長の手紙の上へと戻り、マントを翻して、胸を叩いた。


「皆様、戦いはすでに始まっております。私は今、"巨悪"が胎動しているのを感じるのです。皆様のうち一体どれほどの数の者が、これから魔法学校での厳しい修行を乗り越え、卒業に至れるのかはわかりませんが、世界は一人でも多くの正義の魔法使いを必要としております。このこと、ゆめゆめ忘れぬよう、修行に励んでいただきたく思います。それでは皆様、頑張ってくださいね。かしこ」


 妖精王のホログラムは手紙の中へと吸い込まれるように消え、校長は手紙を閉じた。教頭が再び起立し、口を開く。


「聞いての通り、諸君には9か月後には一人前に戦える魔法使いになってもらわないとならない。一人前というのは、最低一つの系統の魔法をマスターする事である。これを卒業要件として諸君には励んでもらいたいが、残り時間を鑑みるに、尋常の難度ではないため、多少の無茶を覚悟で、食堂前に、飲むと魔力の巡りが良くなり、集中力が増す効果を持つドーピング・ポーションを用意させてもらった。効果に比して副作用は軽微なものなので、常備しておくゆえ、各自有効活用してもらいたい」


 教頭が喋り終わると、今度は別の教師が起立して語りだした。


「折角集まって頂いたので、皆に伝えておきたいことが一つある。先日よりファートマン軍曹が行方不明になっており、目下教師陣により捜索中であるが、未だ見つかっていない。……彼も相当に実力のある魔法使いなので、心配は杞憂かとは思うが、何か心当たりのある者がいたら私に申し出るよう、よろしく頼みたい。以上である」


 教頭は、咳払いをして背筋を伸ばした。


「それでは、これにて入学の儀を終了いたす!」


 校長が柏手かしわでを打った。


「わしがモゲワーツ魔法学校校長、エダズィーマ・ヘイハツィである!」


 はたして"四海の贅を尽くしている"のかはわからないが、俺達は久々の"しっかり味のついた"食事を平らげると、入学式は終わり、一息つく間もなく、教授のカリキュラムの説明を受け、魔法の修行を開始するのであった。

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