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魔法学校 I

 チュンチュン……朝チュン


「それで、その魔法学校とやらは、どこにあるんだ?」


 早朝起床した俺達は、ちゃぶ台について朝食のパンとベーコンエッグをかじりながら、まだ眠い目をこすっていた。


「ふわぁ……妖精の国や魔法学校は、現世と冥界の狭間にある"アストラル界"に存在してまして、現世から行くには、何がしかの"次元の切れ目"を探す必要がありますね」


「それじゃあ、モモエルはどうやってこっちに来たんだ?」


「私くらいのサイズで、魂だけ、ということなら、入り込める小さな"切れ目"はそこら中にありますから、どこからでも出たり入ったり出来るんです。ほら、そこの壁のシミついてる所なんか、いわゆる"幽霊の通り道"ですから、中くらいの"切れ目"になってますよ」


 幽霊の通り道だって? こいつ、さらりと気色悪い話をしてくれるな……


「じゃあ俺もそこから魔法学校に行けるのか?」


「いえ、この程度ではだめですね。飢男さんのような人間が肉体をもったまま転移するとなると、相応に大きなものを探さなくてはなりません」


 モモエルはベーコンエッグの端を千切り、皿に一滴ずつ落とされたケチャップ、醤油、ソースに浸しながら食べ比べている。表情を見るに、どうやらケチャップがお好みのようだ。


「そんなこと言われてもな……次元の切れ目なんて、見たことないぞ、俺」


「それは当然のことで、切れ目は魔力がないと感知出来ませんからね。ですから、魔法使いのスタイルになれば見れるようになりますよ」


「そうか、じゃあ変身して、その"次元の切れ目"とやらを探しに行くとするか」


 するとモモエルは、俺の目の前に飛んできて、目を瞑りながら手を開いて、"ちょっと待った"というようなポーズをとった。


「このあたりに、歴史のあるパワースポットや、スピリチュアルないわくのついた場所などはありませんか? 心霊スポットとかでもいいんですが、そういった場所に大きな切れ目が生じやすいのです」


「近所の小山に神社があるから、そこに行ってみるか」


 俺達は朝食を済まし、席を立った。何か準備しておくべき荷物などはないかと聞いてみたが、モモエルはステッキ以外特に必要ないというので、特段恰好のいい服なども持ってない俺は、いつもの一張羅、ジーパンにフードパーカ姿のまま家を出ることにした。


 ***


 ほどなくして近所の小山に着いた俺達は、小鳥がさえずる中、山に設けられた細長い階段を上り、小さな稲荷神社に到着した。赤い鳥居の周りにはナントカ稲荷大明神と書かれたのぼりが沢山立っていて、その奥にこじんまりと本殿が佇み、その両脇にキツネの像が向かい合って立っている。


 神社前の階段から下を見下ろし、特に周りに人のいる気配もないので、早速変身して切れ目を探してみることにする。ステッキを握り、気合を込めて、今一度、あの念仏を唱える。


「色即是空!」


 俺の体は虹色に輝き出し(中略)変身は完了した。外にいるせいか、スカートのおかげで、股間が妙にスースーして俺の息子が冷却され、限界まで縮みこんでいる。女というのは年中このような恰好をして、不便を感じたりしないのだろうか。


 振り向き、神社の方に目をやると、赤い鳥居に囲まれた空間が少し歪んで、風を受けて波打っているように見えた。


「ありましたね。これです」


「確かに、なにか異次元っぽい感じがするな」


「この赤い枠の中に入れば、アストラル界へ行けるはずです。魔法学校まで私が案内しますので、飢男さんは、私に掴まって離れないようにしてください」


 モモエルに掴まって、というよりモモエルの方が俺の髪を引っ張って掴まってるのだが、そこはツッコミをいれるような野暮なことはせず、黙って引っ張られるまま鳥居の中に足を踏み入れると、歪みに接触した体の部分がビカビカと無音で光り輝きながら波打ち、吸い込まれていく。次の一歩を踏み込んだ時には、頭が鳥居を越えて、目の前に全く別の景色が広がっていた。


 ――暖かい風が俺の頬を叩き、目の覚めるような思いをした。


 眼前には青々とした草原が広がり、足元には道がある。その道は湖に面した小高い丘の上に建っている壮麗な古城の門へと続いている。ゴシック様式の相当に古い趣きを呈している古城は目を見張るほどに美しく、雲一つない青空の下、その威容を誇っているようだった。


「あれこそが、千年の歴史を誇る"モゲワーツ魔法学校"です。さあ、飢男さん、急ぎましょう! 皆、あなたの到着を待っているはずです!」


 モモエルはピューンと古城に向かって飛んで行き、俺は小走りにそれについていって丘を駆け上がる。走っていると風が緑の香りを運んできて、実に清々しい気分になってくる。もし天国というものがあるのなら、きっとこんな所なのだろう。


 やがて俺達は古城の門へと到着し、門をくぐって広い中庭に入ると、庭の中心あたりで一人の男を前にして30人程の群衆がきちと整列していた。


 こちらを向いているその一人ひとりの顔を伺うに、俺と同じ世代くらいのおっさん達のようで、それぞれ妖精を連れている。服装はめいめいに異なっていて、ローブを着ていたり三角帽を被っていたり、長い木の杖を持っていたり、RPGに出てくる賢者のような恰好をしている者もいて、SFチックな風体の者もいる。いずれも魔法使い然とした出で立ちをしているように見えた。


 ――そうか、こいつらは俺と同じ、妖精によって魔法使いの契約をさせられた者達で、俺と同じようなプロセスを経てここに集められてきたのか。


 モモエルについて歩き、群衆に近づくにつれ、魔法使いの群れはざわめきだした。


「なんだあいつは……変質者か?」


「いや……あれは魔法少女の服だ」


「変身の時に女装をイメージしたのか? ……変態だな」


 嫌な事を気付かされてしまった。「魔法使いのスタイル」と聞いて連想した姿が魔法少女のそれだったというのが、俺ただ一人のみだったという事実を。


「……な、なあモモエル。変身後の姿って、変更はできないのか?」


「その衣装は既に魔力によって具現化され、飢男さんの魂とリンクしてしまっているので、無理ですね。リンクしている魔法のステッキを作り直せば衣装の変更も可能ですが、今そんな悠長な事をしている時間はありません」


 モモエルの冷淡な一言に俺は絶望を感じて下を向き、恥を忍びながら群衆の列に加わると、群衆の前に立っていた筋骨隆々とした、軍服姿のスキンヘッドの大男が、その頭に青筋を浮かび上がらせながら、一団に向かって大声で一喝した。


「シャラーーップ! 黙れウジ虫ども!」


 魔法使いの群れは電撃が走ったようにしんと静まり返り、一同全員が一斉に軍服男に注目した。


「俺の名はファートマン軍曹だ! これより貴様らの教練を受け持つ教官として、まず一言言っておきたい事がある!」


 スキンヘッド軍服教官ファートマンは、一歩前に出て叫ぶ。


「これより話しかけられた時以外は口を開くな! 口でクソを垂れる前と後に"サー"と言え! わかったかウジ虫ども!」


 ファートマン教官はさらに一歩前に出て、最前列にいる一人の魔法使いの前に立ち、顔面を思い切り近づけて怒鳴った。


「わかったかウジ虫ども!」


「「「サー! イエッサー!」」」


 鬼のような形相をしている教官の気迫に圧され、一同は皆背筋をぴしゃりと伸ばして直立し、反射的に叫んでいた。


「ふざけるな! 大声出せ! タマついてんのか!」


「「「サー! イエッサー!」」」

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